第99話 農民、魔道具を購入する
魔道具のコーナーに並べられて売られていた魔道具は、それぞれ、けっこうなお値段がついていた。
目についたものを見ていくと、だ。
火を起こす魔道具……100万N
水を生み出す魔道具……120万N
風を吹かせる魔道具……50万N
土を移動させる(耕す)魔道具……品切れ中。
お湯を沸かす魔道具……50万N
光を発する魔道具……100万N
物を冷やす魔道具……品切れ中。
遮光用の闇を生み出す魔道具……品切れ中。
などなどだな。
後は、容量によって値段の異なるアイテム袋も並んでいて、細かい違いはわからないが、25万Nから400万Nという範囲で販売がされていた。
ちなみに、25万Nのやつでも、冒険者ギルドからも借りていたものよりも品質の良いアイテム袋なのだそうだ。
ギルドで貸し出している袋は、魔道具としての使用期限があるらしく、しばらくの間使い続けていると、そのうち、使用できなくなるのだとか。
要するに、短期間での使用が想定されているため、比較的安いってことだろう。
それでも、持ち逃げしたりしたら、即ブラックリストに載る程度の値段ではあるらしいけどな。
「けっこう、売り切れも多いんですね」
値札だけがあって、品切れになっているアイテムもあるようだ。
というか、何となく効果が面白そうな魔道具が、軒並み売り切れになっているのは残念というより他ないよなあ。
土魔法系の魔道具は、現時点では入荷待ちなのだそうだ。
「需要が多いものや、逆に需要が今ひとつのものは品切れになってますね。物を冷やす魔道具などは、品があれば、すぐに売れるようなものですが、何せ、氷魔法が宿った魔石か、そちらの系統の魔法を使える方でないと作ることができないため、希少価値も高いのです」
なるほど。
氷魔法はレアのようだな。
使い手にしても、属性込みの魔石にしても、なかなか存在しないので、値段がそれ相応なのだそうだ。
逆に、土魔法の方は、それこそ、畑などを耕すぐらいにしか使い道がなさそうなので、需要が低めなのだとか。
「物を冷やす魔道具ですと、最低価格でも250万Nは下らないでしょうね。魔石の品質、道具の持つ効果次第では、それ以上に値が付くはずです」
要するに、個人で冷蔵庫を所有するのはかなり難しいようだ。
それでも、物を冷やす魔道具の存在を知れたのは大きいか。
ともあれ。
キャサリンさんの話だと、魔道具と言っても、この店のような道具屋でも売り出せるようなものは、属性魔法をそのまま使えるようになる、程度の魔道具がほとんどとのこと。
火魔法で、発火や水を沸かすとか。
水魔法で、魔素変換で水を生み出すとか。
「つまり、適性のない属性魔法を使うためのアイテムってことですか?」
「そうですね。そういう風に捉えて頂いても結構です。もちろん、すでに適性がお有りの魔道具を持たれている方もいらっしゃいますよ? 魔晶系のアイテムを付け替えることで、自らの魔力を使わずに、属性魔法を発動することもできますから」
あ、そうなのか。
今、俺が持っている魔晶石なども、魔道具を使う燃料のように使うこともできるそうだ。
燃料というか、バッテリーとか電池みたいな感じか?
自分の魔力で魔道具を動かすか、魔晶石を使って動かすか、どちらでも対応できるというわけだな。
「もっとも、ある程度は魔力の使い方をコントロールできる方に限定されますがね。それなりに、魔法適性が高い方でなければ、ご自分の体内の魔素を使って道具を動かすなどということはできませんから」
「えっ!? そうなんですか!?」
あれ?
俺、発火の魔道具なら、普通にサティ婆さんの家のやつを使ってたぞ?
あー、もしかして、スキルのサポートによるものか?
俺たち、迷い人の場合、魔法とかを覚えたり、使ったりしやすくなってるって話だものな。
すでに、こっちに住んでいる普通の人と比べると、魔法とかへの補正が大きいのかもしれない。
「うーん、やっぱり魔法を使えないとダメなんだ?」
じゃあ、わたしには無理だね、とルーガが残念そうな表情を浮かべる。
そういえば、ルーガって、スキルがないんだものな。
ただ、俺も会った当初はびっくりしたけど、案外、ルーガみたいな能力の人って多いのかもしれないな。
ゲームを始めてから、すごいNPCばかりと会っていたから、そういうものかと思っていたけど、やっぱり、普通の人ってのもしっかりと存在はしているんだろうし。
「いえ、ルーガさん。魔道具に組み込まれております、魔石の魔素成分が尽きるまでは、魔法適性のない方でも、問題なく魔法は使えますよ。そもそも、だからこそ、お値段がお高いのですから」
魔法が得意な人しか使えないアイテムなら、もっと値段が安くなっています、とキャサリンさん。
なるほどな。
それなりに汎用性が高いから、この金額ってことか。
無理に買う必要はないけど、持っていると生活が潤ってくるアイテムだもんな。
そういう意味では、ここにある魔道具って、実用半分に贅沢半分ってところか。
今の俺の所持金でも、いくつか買ったらおしまいだしな。
さあ、どうするか。
高額の現金を持ち歩くよりは、魔道具を買ってしまうのも悪くはないだろう。
本当は、土魔法の魔道具も欲しかったんだが、品切れだから仕方ない。
よし、せっかくだし、いくつか購入してみよう。
「じゃあ、これください」
「はい。水を生み出す魔道具とお湯を沸かす魔道具、光を発する魔道具ですね。それに、アイテム袋がふたつで、総額が345万Nですね。たくさんお買い上げありがとうございます」
おー、それなりの金額になったなあ。
でも、まあ、並んでいる商品を考えると、この辺は買っておきたかったので後悔は特にないかな。
どうせ、ビーナスに関する報酬は、偶然みたいなものだし、そういうことなら、後々ビーナスのためにもなるようなものを買っておきたかったのだ。
というわけで、水魔法の魔道具と光魔法の魔道具を選択。
後は、何気にお湯を沸かす魔道具っていいんじゃないか、って思ったし、最初の目的でもあったアイテム袋な。
一番安い25万Nの袋と、50万Nの袋をひとつずつ購入した。
大きな容量の袋を一個買ってもいいけど、ちょっと考えていることがあるので、今日のところはふたつを買ってみた。
というか、値段に対して、どのぐらい入るのかとかは、使ってみないと実感が沸かないとも思うので、とりあえずは、安くて手頃な袋から試すという感じだな。
お金が足りるからって、いきなり400万の袋を買う勇気は俺にはないし。
そんなこんなで、総額分をしっかりと支払って、魔道具を受け取る。
その結果、水魔法の魔道具とお湯を沸かす魔道具は、品切れになったようだ。
そして、光魔法の魔道具の値段が110万Nになってしまっていた。
おい、ちょっと待て。
この手の値段って、そんなに簡単に変わるのかよ?
「一応、魔道具につきましては、在庫との兼ね合いで値段が変動することがございます。光を発する魔道具は在庫が少なくなりまして、他の属性に比べますと、作り手が少ないですから、そのために値段が上乗せされるわけです」
申し訳ございませんが、こちらを踏まえた上でのご購入をお願いします、とキャサリンさんが一礼する。
しかし、そういうことだと、在庫があるうちは早めに買った方が得なのか?
あ、再入荷するケースもあるのか。
そうなると、一概には判断できないよな、これ。
キャサリンさんによれば、道具屋で取り扱っている普通のアイテムも、外的要因によって、価格が変動することがあるという。
要するに、需要と供給の兼ね合いで日々値段が変わるってことか。
そういえば、冒険者ギルドのクエスト報酬もそうなんだっけ?
うーん、けっこう、面倒ではあるな。
「そうですね。注意を促した上でのお話ですが、私のお店の場合、商業ギルドの直営店ですので、この町の基準価格を維持するようになっておりますので、基本はそれほど値段が上下することはございませんので、その点はご安心ください」
ただし、個別の店舗よりも少しだけ割高ですが、とキャサリンさん。
職人さんと直接交渉した方が安くなることも多い、と。
その場合も素材の相場が乱れた場合、逆のケースもあるので注意が必要なようだ。
要は、状況に応じてってことだろうか。
うん。
経済のことはさっぱりだけど、要は、キャサリンさんの店なら、価格がある程度は一定で保たれるから、ここを活用するのが無難ってことか。
それは、さっきのグリゴレさんの『講座』でも言っていたもんな。
道具屋は大切、と。
そんなことを考えつつ。
購入した魔道具を受けとり、アイテム袋の中身などを整理して。
そのまま、俺たちは、魔道具売り場を後にした。




