表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/494

第94話 農民、報酬に驚く

「まずは現金の報酬からな」


 そう言って、グリゴレさんがテーブルの上に取り出したのは、俺も見覚えのある金貨だった。

 てか、100,000N金貨な。

 何だかんだ言って、大きめな額の買い物をしていないので、まだ二枚とも残ったままになっているが、その金貨がなんか、やたら多く用意されているんだが?


 ちょっと待て。

 これって、討伐報酬だよな?

 えーと……ラースボアで500,000Nぐらいだったような気がするが、それよりも多めの額がついたってことか?


「あの、グリゴレさん。これって、ミスリルゴーレムの討伐報酬ですよね?」

「まあな。セージュたちは素材を売らないってことだから、そっちはカウントされてないし、倒した五人で五等分ってことだから、大分少なくはなってるがな。まあ、その辺は仕方ないだろう。あんまり贅沢言うなよ? それなりに、こっちも頑張って報酬をつけているんだからな」


 そう言って、苦笑するグリゴレさん。

 いや、別に俺、少なくて突っ込んだわけじゃないんだが。

 むしろ、五等分にしては随分と多くね?


「結局、いくらになったんです?」

「ああ。例の『狂化』タイプのモンスターについては、町長が危険度を加味した上で、報酬を決めているんでな。ミスリルゴーレムは4,000,000Nだ。なので、一人当たり、800,000Nになるぞ。良かったな、セージュ」


 これでれっきとした小金持ちだな、とグリゴレさん。

 いや、ちょっと待て、運営。

 嬉しいと言えば嬉しいけど、これ、最初の町ってことを考えると明らかにインフレだろ。

 何だよ、一体四百万、って。


「……普通のミスリルゴーレムの場合もそんなにするんですか?」

「いや、そもそも、普通のゴーレムなら理性があるからなあ。鉱物種は教会認定で友好的な種族だから、この手のはぐれゴーレムが発生すること自体があまり多くはないようだぞ? 俺も詳しくは知らんが、はぐれ系のゴーレムは鉱物種の方で、秘密裡に処理されるケースがほとんどじゃないか? 今回みたいに突然変異種のゴーレムが暴れるような時は、たぶん、アルミナに相談して、対応するような形になるだろうしな」


 あ、そういえば、今回の件って、緊急事態だったんだっけ?

 ペルーラさんも、アルミナの方に報告がいるって言ってたもんな。

 特に、はぐれの鉱物種の場合、モンスター化して生まれるゴーレムは、鉄なり魔鉄なりの素材のものがほとんどなので、純度が高めのミスリルゴーレムなんてのが、ちょっとあり得ない存在だったのだそうだ。


「まあ、ミスリルゴーレムの討伐報酬なんて基準にないが、それでも普通に考えて、2,000,000Nは下らないだろうしな。おまけにミスリルのインゴットに近いぐらいにまで製錬された純度の身体だろ? 普通に考えたら、町が壊滅しかねないぐらいの災害だよ。これでも安いもんだ」

「えっ……と、やっぱりそういうもんなんですか?」


 いや、一応倒す手段を聞いている俺としては、土魔法を使える冒険者がいれば、何とか対応できるような気がするんだが。

 俺の土魔法のレベルだって、まだまだ駆け出し程度だったのに、きちんと効果があったしな。

 そう、思ったんだが、グリゴレさんが呆れたように苦笑して。


「いやな? セージュ、お前はあっさりと倒したようなことを言ってるが、そもそも、ゴーレムの簡単な破壊法なんて、それこそドワーフや鉱物種ぐらいしか知らないことだぞ? 俺も立場上、聞かざるを得なかったが、きっちりと守秘義務が発生したしな」


 ありゃ。

 やっぱり、あの方法も広めるの禁止か。

 もし、漏らしたことがばれたら、今後、ドワーフたちから協力が一切得られなくなるというか、敵対状態になるから気を付けるように、グリゴレさんから注意されてしまった。

 いや、想像以上に重いっての!


「そもそも、ミスリルゴーレム相手に、普通の手段で傷なんか付けられないぞ? むしろ、その時点で異常だってことに気付いた方がいいぞ」

「えっ!? あー、なるほど」


 そう言われるとそうかもしれない。

 あれって、リディアさんが一緒じゃなかったら完全に詰んでいた状態だよな。

 俺たちの手持ちで傷つけられる手段はなかったわけだし、それで、ジェイドさんの分体のゴーレムさんたちも苦労していたんだしな。

 さらっとやってたから、こっちもそこまですごいことって思わなかったけど、あっさりとミスリルに傷をつけられるだけの威力を武器に付与するのって、かなりおかしい話なのだそうだ。

 特に、今の俺たちが使っているような『初心者向け』装備程度のものに対しては、だ。

 魔剣の類でもなければ、相応の魔法付与には耐えられず、武器が自壊してしまうのだとか。


「はは、まあ、その辺はリディアだから仕方ない。あいつ、二つ名は『大食い』だが、それ以外の呼び名に『歩く非常識』っていうのもあるからなあ。この手の災害レベルのモンスターみたいなやつも片手間で倒すから有名になってるんだよ。てか、倒すのはいいんだが、その後の始末とか、報酬の受け取りとか、手続きとかを放ったらかしにするから、ギルドとしても困っているって話だ」


 各地のギルドに注意書きが回ってるぐらいだしな、とグリゴレさんが苦笑する。


「だから、今回のも、今度リディアに会ったら、忘れずに報酬を取りに来るように伝えてくれよな。各地の支部であいつ宛てにプールされた報酬がかなりの額に上るんだが、ほとんど顔を出さないみたいだしな」

「はあ、わかりました」


 グリゴレさんからリディアさんへの伝言を頼まれてしまった。

 基本、自分からギルドに来ることってほとんどないらしく、むしろ、俺やファン君たちと一緒にやってきたことに驚いたぐらいなのだそうだ。

 さすがに、他の支部の分は、ここで処理できないし、このオレストの町でクエストに絡んだのも初めてらしいので、何もできなかったらしいが。


 うん?

 あれ? でも、リディアさん、ギルドから監督のクエストを受け取ってるんだよな?

 ファン君たちと一緒にいたのって、そのせいだろうし。

 グリゴレさんがいない時に対応したってことか?

 あるいは、このチュートリアルクエストが、普通のクエストと違って特殊な感じになっているとか。

 ナビさんが対応したケースもあるみたいだし、同時並行で進行していたみたいだから、その辺がおかしくなってるのかもな。


 それにしても、リディアさん、報酬に興味がないのかね?

 ミスリル鉱石もいらないって、結局受け取ってくれなかったしな。

 あんまり欲がないというか。

 いや、食欲はなんか凄そうだったけど。


 さておき。

 ミスリルゴーレムの報酬だけで800,000Nだけど、それだけじゃないようだな?


「で、それに加えて、セージュは今日の分の討伐報酬が発生するぞ。さっきのマンドラゴラの分な」

「あれ? そうなんですか?」


 でも、あれ、『討伐系』のクエストじゃなくなったぞ?

 『収集系』の場合、ビーナスを納めないと報酬にならないんじゃないのか?

 もちろん、そういうことをするつもりもないし。

 マスターとして、絆を結んだ以上は、れっきとした仲間だからな。


「でも、俺、ビーナスを討伐したわけじゃないですよ?」

「ああ。心配するな、別に取って食おうって話じゃないしな。こっちも、町長からの報酬だよ。危険度考慮で、討伐報酬ってことさ。要は、危険なモンスターを町にとって無害化してくれたから、そっちへの報酬ってことだな」

「へえ、そういうケースもあるんですね」

「まあ、めずらしいがな。それにセージュの場合、町長からのクエストで畑の管理も一部委任されたんだろ? そっちにもそれなりにお金がかかるだろうから、って配慮もあるらしいぞ?」


 あ、そうなのか?

 だから、ビーナスの討伐報酬って形にしたらしい。

 というか、畑の管理の一部委任、か。

 貸し出すというか、そういう形に落ち着いたようだ。

 そうこうしていると、例のぽーんという音が頭の中に鳴り響いた。



『クエスト【領主依頼クエスト:畑の管理】が発生しました』

『注意:こちらのクエストは達成条件がありません。失敗となる基準を満たさない限りは永続的なものとなります。もし、不要となった場合は、ご自身で取り下げるようにしてください』



 あー、なるほどな。

 こんな感じになるのか。

 要するに、このクエストを持っている状態が『畑を借りている』ってことになるのな。

 そして、畑の管理をしているだけで、それにも定期的に報酬が発生するらしい。

 うん、それはありがたいな。

 管理業務への報酬ってことか。

 俺としては、畑を借りるのにお金がかかると思っていたんだが、むしろお金がもらえるってことなのか?

 たぶん、これも含めて、『モンスター調査』の達成報酬なんだろうな。


「セージュが納得したところで話を戻すぞ。マンドラゴラの討伐報酬は5,000,000Nだ。というわけで、さっきのに加えて、こっちの金貨もお前の受け取る報酬になる。良かったな。さすがにこの町だと高額貨幣の取引ができないから、全部100,000N金貨での支払いになるがな」

「えっ!? 5,000,000N!?」


 いや、もうすでに800,000Nの時点で多いと思ったが、それに上乗せして、この額かよ!?

 というか、ビーナスの方がミスリルゴーレムよりも高いのかよ!?


「そりゃそうだろ。あのな、セージュ。ミスリルゴーレムの脅威は物理的なものだがな、こっちのマンドラゴラの場合、数が増える上に即死攻撃持ちだぞ? 冷静に比べれば、どっちの方が危険かはわかるだろうが」

「いや、まあ、そうかもしれませんけど……」


 ビーナスの場合、言葉をしゃべるようになってから、印象が大分変わったから、そこまで危険とも思えないんだよなあ。

 まあ、即死攻撃は恐いけどさ。

 というか、さすがに金額が増えすぎて何とも言えないぞ?

 えーと、今の所持金は、6,000,000Nを超えたってことだよな?


 ……これ、本当に大丈夫か?


 グリゴレさんから受け取った金貨を数えると、確かに58枚あった。

 ステータスの所持金欄も増えているから、それで間違いないようだ。


 目の前の大量の金貨をアイテム袋に……って、入らないよな!?

 慌てて、アイテム袋を整理しつつ。

 突然の大金にドキドキしてしまう、小心者の俺なのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ