第93話 農民、同行者ふたりの冒険者登録を済ませる
「武器は弓で良いのか?」
「うん、その方が使い慣れてるから」
クエストのチェックを終えて、やってきたギルドの倉庫で、ルーガが選んだのは弓だった。
【武器アイテム:弓】初心者の弓
初心者向けの弓。矢は別売りのため、最初のうちは負担が大きいかも。
新米冒険者のために、素材持ち込みで矢を作るサービスも行なっている。
「あっ!? やっぱり、矢は別売りなんだな」
俺はとりあえずでショートソードを選んだので、弓はさっとしか確認していなかったんだが、予想通りというか、やっぱりというか、矢は消耗品のようだ。
というか、それも考慮して、弓は何となく避けたって経緯があるからなあ。
最初に所持金ゼロだと、ちょっと選びにくい武器ではある。
「おいおい、セージュ。お前にカミュのやつは説明しなかったのか? 弓使いを目指す冒険者には、一応、短刀やナイフなんかは、一緒に貸し出しも可だって決まりになってるんだが。さすがに、弓だけだと矢がきれた時にどうしようもないからな」
「いや、それは聞いてませんよ」
どうやら、カミュの説明はけっこうざっくりだったようだ。
まあ、そもそも、冒険者として監督してくれたわけじゃないしなあ。
たぶん、その辺の細かいことは気にしてなかったんだろう。
というわけで、一緒にショートソードも借りるルーガ。
そう考えると、弓使いの方が、ちょっと手厚い気もするよな。
もっとも、借り分も大きくなるので、どっちがいいかって言ったら微妙だけど。
「それに、矢はもうちょっと残りがあるから」
壊れちゃったのは弓だけだよ、とルーガ。
あ、そういえば、壊れた弓、結局持ち帰って来れなかったんだよな。
あの時は、またあそこに行けばいいぐらいに考えてたけど、もう、入り口もふさがれているんだっけ?
しまったなあ……ルーガの弓、取りに行けなくなっちゃったぞ。
「悪い、ルーガ。あの時、無理にでも持ち帰るべきだったな……」
「ううん、大丈夫、あの弓、もう修復できないぐらいに壊れちゃってたから。もし、帰れたら、またお爺ちゃんに作ってもらえるから気にしないで」
「確かに、弓の場合、木が素材のものが多いからな。一度、大きく壊れると、金属製の武器と違って、修復困難なはずだ。どういう素材かにもよるが、壊れた以上は諦めるのが普通だな」
壊れた弓の修復は難しい、とグリゴレさんが肩をぽんぽんと叩いてきた。
まあ、あんまり気にするなってことだろう。
「あの時は、生きて帰れるかもわからなかったから。今こうしていられるのもセージュのおかげだよ?」
だから大丈夫、とルーガ。
まあ、そう言われると、これ以上、へこんでいても仕方ないよな。
よし、ルーガのためにも、もっといい弓を探してみるとしよう。
狩人ってことは、かなり弓に関しては得意ってことだろうしな。
「そうだな、ルーガ、弓の場合、実戦の前に、的に当てられるようになるための訓練があるんだが、どうする? そっちは受けるか?」
「うーん、でも、わたし、そこそこの距離なら当てられるよ?」
「そうなのか? ふむ、なら、いいか。まあ、ステータスを見る限りだと、狩人としても頑張っているのだろうしな」
よし、それじゃあ、そっちは免除で、とグレゴリさん。
「矢については、冒険者ギルドに素材を持ち込んでくれれば、『木工』で作り上げるサービスはやってるぞ。あくまでもお金が稼げない最初のうちだけだが、そっちも上手に活用してくれ」
「わかった。ありがとう、グリゴレ、さん」
「はは、まあ、頑張ってくれ。腕のいい冒険者が増えると助かるからな。それじゃあ、これでルーガの方はいいとして……なっちゃんの登録はどうする?」
「あ、そういえば、なっちゃんの場合の登録って、どういう感じなんですか? 確か、ラルフリーダさんのお話ですと、普通とは異なる登録もできると聞いたんですが」
「ああ、テイムモンスターとしての登録だな? そっちの場合、セージュが持っているギルドカードと共有って形になるな。あくまでも、補助としての登録って形になる」
テイムモンスター登録。
友好的なモンスターが、職業なり称号を得た場合に可能になる登録のこと、だそうだ。
今の俺の場合、なっちゃんとビーナスがそのケースに当たるようだ。
もっとも、ビーナスについては、基本は俺と同行するわけではないので、その場合の登録は難しいみたいだけど。
そもそも、今のままだと登録自体がまずいのか?
そっちは、ラルフリーダさんに頼まれたように、もう少し様子見になるだろう。
「なっちゃんは、俺と一緒で問題ないかい?」
「きゅい♪」
もちろん! という感じで頷かれてた。
テイムっていうと何かちょっと表現的に微妙だけど、パーティーメンバーのひとりって考えてもいいよな。
俺、ルーガ、なっちゃん。
とりあえず、当面はこの三人パーティーで頑張ろう。
あ、そういえば、ファン君たちとのパーティーを解除してなかったなと思ったが、ステータスを見たら、いつの間にか自動的に解除されていた。
どうやら、別行動の時間が長くなりすぎると、途中で解除されるようになっているみたいだな。
戦闘の前とかは、きちんとチェックする必要がありそうだ。
改めて、ルーガとなっちゃんとパーティー登録をする。
「よし、これで俺たち三人はパーティーになったぞ」
「よくわからないけど、やったね」
「きゅい――♪」
うん。
俺以外は何となくで一緒に喜んでるだけみたいだな。
別にいいけど。
「まあ、パーティー登録もいいがな。話を続けるぞ、セージュ。テイムモンスターとして冒険者登録した場合でも、この場合、なっちゃんに対して、クエストが発生するぞ」
「あ、そうなんですか?」
へえ、テイムモンスターにもクエストか。
ってことは、テイムモンスター枠じゃなくて、普通に登録した場合は、なっちゃんにも七つのクエストが与えられるってことか?
あ、しまった。
それはそれでちょっと見てみたかったぞ。
もう、グリゴレさんの手続きが進んでしまったので、残念ながら戻れないけど。
そうこうしているうちに、グリゴレさんがクエスト用紙を持ってきた。
「きゅい!?」
あっ、どうやら、なっちゃんの場合も、例のぽーんが鳴るみたいだ。
ちょっとびっくりしてるし。
俺の方にも、同様に、ステータスの呼び出し音が響いて。
『親主として、確認したクエストが一覧に追加されます』
『以下のクエストは、あなたの子従対象であるなっちゃんの受け取ったものです』
『クエスト【日常系クエスト:言葉を理解しよう】が発生しました』
『クエスト【栽培系クエスト:ナルシスの花】が発生しました』
『クエスト【栽培系クエスト:セージュのお手伝い】が発生しました』
『クエスト【◆◆系クエスト:◆◆と仲良くなる】が発生しました』
おっ!
なっちゃんのクエストは四つか。
というか、一番最初のクエストからしてすごいな。
言葉を理解、って。
そういえば、なっちゃんって、『モンスター言語』とかのスキルもないんだものな。
でも、何か意味のある言葉を発しているような気もするんだけど。
これ、実はクエスト達成が難しくないか?
「テイムモンスターの場合は、別に慌てて達成する必要はないぞ。あくまでセージュが飼い主というか、雇い主というか、あるじというか。まあ、そっちの管轄になるからな。セージュのギルドカードがあれば、同じようにサービスは受けられるようになるんだ」
「きゅい♪」
「はあ、なるほど」
なので、一度で達成されるクエストというよりも、長期目標みたいな感じで、長めのまったりした感じのものが多いのだそうだ。
必要に応じて、随時、クエストが更新されたりもするらしい。
それも、親主……か? あんまり聞いたことがない言葉だけど、要するに俺みたいな立場のものが色々と経験を積んだり、成長することで、なっちゃんにも影響を与えるようになっているのだとか。
もちろん、逆のケースもあるけど。
この、親主と子従の関係は、そういう持ちつ持たれつの間柄になっているらしい。
まあ、それはそれとしても、言語理解については、確かに重要だから、俺からも積極的になっちゃんには話しかけた方がいいようだ。
単なる鳴き声から、『モンスター言語』を覚えたり、共通言語を覚えたりするのも、その個体の資質次第って話だし。
後のクエストは、なっちゃんの種族が『花虫種』ってだけあって、『栽培系』のクエストが多いのな。
最後のが謎なのは、ルーガと一緒だけど。
種別も謎だけど、何と仲良くなるかが読めないし。
これもバグってやつか?
まあ、かなり作り込まれているっぽいけど、この『PUO』もまだ、正式サービス前のゲームだしな。
この手の問題点を俺たちテスターが報告していくことで、より良い作りになっていくんだろう、って思う。
ゲーム内にいる時は、普通にゲームを楽しんでいるから、ついつい自分がテスターの仕事をしてるってことを忘れがちだけど。
まあ、ともあれ、これでなっちゃんの登録も完了だな。
なっちゃんに関しては、装備できそうなアイテムがないので、そっちの貸し出しは難しいって、グリゴレさんに言われたけどな。
さすがに手のひらサイズの虫モンじゃあ、しょうがないよな。
逆にどういうものだったら装備できるんだろうか?
「よし、ふたりの冒険者登録はこんなところだな。後は、セージュの報酬なんかの話を続けるか」
そう言って。
グリゴレさんが、俺関連の続きの話を始めるのだった。




