第92話 農民、狩人少女のクエストを見る
「それじゃあ、こっちがクエストな。ほら、ルーガ、確認してみろ」
「うん、わかった」
「あと、セージュも内容を見るのを忘れるなよ。他のやつの分は、目を通さないと把握できないからな」
「はい、わかりました」
グリゴレさんから、クエスト用紙の束を受け取るルーガ。
その用紙を、俺も一緒に見せてもらう。
「うわわっ!? 何か、いっぺんに色々と出たよ!?」
「あー、それ、俺もびっくりしたんだよな。新米冒険者用のクエストがいくつもまとまってるんだってさ」
俺の時は七つだったけど、ルーガの場合はどうなんだろうな?
そんなことを考えながら、用紙を確認すると。
ぽーんという音と共に、メッセージが流れた。
『監督者として、確認したクエストが一覧に追加されます』
『以下のクエストは、あなたの監督対象であるルーガの受け取ったものです』
『クエスト【日常系クエスト:町での生活講座・実践編】が発生しました』
『クエスト【討伐系クエスト:ぷちラビット】が発生しました』
『クエスト【収集系クエスト:パクレト草】が発生しました』
『クエスト【栽培系クエスト:ビーナスのお世話】が発生しました』
『クエスト【栽培系クエスト:セージュの畑の手伝い】が発生しました』
『クエスト【商業系クエスト:キャサリンのお手伝い】が発生しました』
『クエスト【◆◆系クエスト:モンスターと仲良くなる】が発生しました』
おっ!?
なるほど、監督になった場合、その相手の分のクエストも、ステータスのクエスト一覧に追加されるようになってるのか。
カミュも一度だけさらっと内容を流し読みしただけだったけど、後で自分のところでも確認できるようにはなっていたのな。
あー、でも、これは面白いな。
他の人の場合は、どんな感じでクエストが割り振られるのか、って興味あったし。
どれどれ……?
「最初の『日常系』のやつは、さっきのグリゴレさんの説明の続きってことか?」
「ああ、そうだな。本当の意味での初心者向けのクエストって扱いだよ。詳細の部分にも書いていると思うが、宿屋とか武器屋、道具屋、飯屋、肉屋などなど……それらを巡って、どこかひとつでも買い物なり取引なり、あいさつなり、イベントなりをこなせば、それで達成できるってやつだな」
もっとも、巡るのは一通り巡る必要があるがな、とグリゴレさん。
なるほどな。
オレストの町なか探検、って感じのクエストなんだな。
それでも、一応は冒険者ギルドから報酬もあるらしいし、本当の意味で、この世界に馴染んでいない者向けの、はじめの一歩のクエストという感じだ。
確かに、こういうのなら、ハードルは低いよな。
「それじゃあ、セージュと一緒に、この町を歩き回ればいいの?」
「ああ、そうだ。ついでにお金の使い方を覚えてもらう意味で、最初にギルドから500Nを渡しておくから、何か商品をひとつ買って来てくれ。まあ、お使いクエストの簡易版みたいなもんだな」
ふむふむ。
『収集系』や『日常系』のクエストでよくあるのが、簡単な買い物の手伝い、って感じのクエストなのだそうだ。
いわゆる『お使いクエスト』。
どちらかと言えば、真っ当な冒険者のためのクエストというよりも、『討伐系』とかにはまだ不向きな低年齢の子供などのためのクエストなのだそうだ。
あれっ? と思ったのは、小さな子供でも冒険者になったりするのか? って部分だったんだが。
ファン君の装備品を探すのにかなり苦労しているわけだし、てっきり、子供が冒険者に成るのは難しいとばかり思っていたんだが。
「いや、セージュ。さすがに、余程の力量があると認められでもしない限り、子供に『討伐系』のクエストを発注することはあり得ないぞ? だから、冒険者ギルドで子供の装備品を貸し出すことはしないんだ。そもそも、そんな子供の頃から装備を用意するのなんて、それなりの事情がないと厳しいぞ? 成長に合わせて、新しく変えていく必要があるからな」
「あー、なるほど。お金持ちじゃないと厳しいってことですか」
「そうだな。後は、家系的な兼ね合いとかだな。親がそういうことに積極的だったらあり得るだろうが、その場合は、そもそも冒険者ギルドに借りを作ったりはしないだろうから、余程の物好きでもなければ難しいんじゃないか?」
それもそうか。
他の国でいう、王族や貴族、騎士階級の家系とかなら、小さいころから訓練とかをしたりもするだろうけど、その場合、その家庭の中とか、騎士団の中とかでの環境になるだろうから、そういう意味で、冒険者ギルドを活用するケースはめったにないってわけか。
「俺も身分階級ってやつには思うところはあるが、そういう意味では、冒険者ギルドには良い意味でも悪い意味でも、色んな連中が集まるってことさ。きっちり奉公とかしたいんだったら、正規の騎士団なりを目指すのも手だろうな」
なるほどな。
グリゴレさん的には、冒険者ギルドの方がある意味、気楽でいい職場ってところなんだろう。
それにしても、騎士団ねえ。
そっちでは、ユウが頑張ってるみたいだけど、やっぱり、規律とか身分とか厳しい環境なのかね?
うん。
興味はなくはないけど、俺はグリゴレさん派だな。
冒険者ギルドの方が、どこか穏やかなイメージがあるし。
まあ、それはそれとして。
グリゴレさんから、ルーガがおつかいのための500Nを受け取ったので、その他のクエストについても内容をチェックしてみる。
少し、あれっ、っと思ったのは、『討伐系』と『収集系』がどっちも簡単な方のクエストしか一覧になかったってことだ。
あ、そういえば、ファン君たちの話だと、自分のスキル構成とかに向いたようなクエストが選ばれるってことだったもんな。
ルーガって、スキルがないんだものな。
だから、『討伐系』も『収集系』も緩めになってるのか?
いや、身体のレベル自体は俺よりも高いんだが。
身体のレベルは、このクエスト選択とはあんまり関係ないようだ。
『商業系』も俺と同じのが入っているし。
てか、このキャサリンさんって、どんだけ困ってるんだよ?
ずうっとお手伝い募集しないといけない仕事が、道具屋にあるのかね?
それはそれで謎だ。
ただ、それよりも、だ。
「やっぱり、気になるのは『栽培系』ってやつと、最後の種別がわからないクエストだよなあ」
少なくとも、『栽培系』って項目は初めて見た。
要するに、農業に関するクエストってことだろうな。
「あれ? これって、クエストの発注者がラルフリーダさんになってるんですね?」
「ああ、町長からのクエストだな。意外とその手のクエストはあるぞ。ただし、オープンなところで自由に選択できるものはあまりないがな」
あ、そうなんだ?
ということは、ターゲットを決めて、ラルフリーダさんからのクエストが発注されてくるってことなのか。
まあ、ルーガのクエストに含まれている理由は明白だよな。
さっき、知り合ったからだろうし、俺に対しても、畑の貸し出しをクエストにしておくって言ってたから、たぶん、それと一緒にクエスト化されたんだろう。
そっちは、俺のサティ婆さんからの『日常系』と同じ扱いのような気がするし。
ということは、この新米クエストも、そこまでどういう風に過ごしてきたかってのも、選択に影響してくるってことだろうな。
うーん。
そうなると、これの検証って難しそうだな。
どこに目当てのクエストが転がってるか、わかったもんじゃないし。
「でも、これならいいよ。セージュのお手伝いだし」
元々、手伝うつもりだったから、とルーガが微笑む。
「ありがとう、ルーガ。確かに、普通に手伝うだけじゃなくて、それをやると、ラルフリーダさんから報酬も出るんだったら、そっちの方が得だよな」
詳細の項目には、ルーガが俺の作業を一定時間手伝ったり、ビーナスの水遣りをやったりすることで、金銭報酬が発生するようになっていることが書かれていた。
なんで、これでお金が? と思ったが、よくよく考えると、こっちも含めて、『領主依頼クエスト』の報酬だということに気付いた。
畑作業が軌道に乗るように、最初は補助してくれるってことのようだ。
「まあ、たぶん、その辺は町長の優しさだろうな。町長は畑の管理はしてくれるが、農業に関しては、どういう作物が取れた方がいいとかの感覚は、ちょっと俺たちとはずれているからなあ。たぶん、セージュにその辺を修正してもらって、町の発展につなげたいとかそんなとこだろう」
「はあ、そうなんですか?」
「ああ、見た目や雰囲気はおっとりしてるが、本質は大分俺たちとはずれてるんだよ」
まあ、セージュもそのうちわかるさ、とグリゴレさんが苦笑する。
ふうん?
ああ見えて、ラルフリーダさんって変わり者ってことか?
とりあえず、グリゴレさんによると、だから、あんまり町の運営には関与しないようになっているのだそうだ。
それ以上は教えてくれないようなので、話を戻すと。
「最後のは何ですか? この『モンスターと仲良くなる』ってクエストは?」
「きゅい――♪」
「たぶん、なっちゃんとかビーナスと一緒だからじゃない? わたしもなっちゃんと大分仲良くなったし」
「きゅっ♪」
そういうものなのか?
もしそうなら、ルーガが、というより、俺が原因のクエストがけっこう多くなっているような気がするんだが……そういうこともあるのか?
「うーむ、俺もこの手のクエストはあまりお目にかかったことがないぞ。『収集系』……いや、テイムモンスターということは、『捕獲系』か? まあ、モンスターと仲良くなるのは悪いことではないが、どういうモンスターとなのかの指定がないと困るんじゃないのか?」
「あれ? 発注者の欄が空白になってますよ、これ。こういうことってあるんですか?」
「いや……ちょっとこれは、専門のところに確認だな。セージュ、ルーガ、悪いがこのクエストは後回しにしてくれないか? 俺もこういうケースは見たことがないんでな。ちょっと担当者が戻り次第確認しておくよ」
ふうん?
もしかして、バグみたいなものか?
まあ、専門の部署って、たぶん、ナビさんとかがいるところだろうな。
どのみち、今日はこれ以上町の外に出るつもりもなかったから、最初のクエストからゆっくりと進めて行けばいいだろう。
とりあえず、そう納得して。
改めて上のクエストから、ルーガと一緒に内容を確認することにした。
トータルで『PUO』も100話まで来ました。
引き続き頑張っていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
ようやく畑とかの話もできそうです。
『ちょこっと』よりはかなりテンポアップを心掛けているのですが、まだまだですね。
もう少し努力します。




