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勢揃い

「あら?」


いつの間に帰ってきていたの…?と王妃様が殿下に向けたはずの視線がふと後ろに立っていた私に移る。扉を開けた瞬間誰かがいることに気づいて、殿下の後ろに隠れようとしたけれど間に合わなかったようだ。


王妃様の表情が怪訝なものに変わるその前に殿下が素早く扉を閉めた。


……のだけれど王妃様がそれを阻んだ。驚異的な速さで閉まる直前に足を滑らせ、扉が閉まるのを止めたのだ。わずかしか開いていなかった扉の隙間から見えた王妃様の目は。獲物を捕らえた猛獣の如く、それはもう怖かった。足に加え扉に手が添えられ、ゆっくりと大きく開かれる。


ごくり。


殿下が生唾を飲み込んだ音が聞こえた気がした。




場所を移して…と言っても執務室の応接間。王妃様とその隣にダリア様。その向かいに殿下が座り、私はとりあえず殿下のななめ後ろに立っている。座るよう勧められたけれど、とてもじゃないが座れるわけがない。王妃様の隣など。


マルガリータさんがお茶の準備を始めたからそれを手伝おうとしたけれど、無言で首を横に振られてしまった。仕方なくまた殿下の後ろに戻るが、手を引かれて殿下の横に座らされた。


ちょっと待ってください。助けてください。王妃様が私を見ておられます。こちらを。それから殿下。いい加減、現実逃避しないで戻ってきてください。時計を何度見てもまだ5分も経っていませんよ。


「帰ってきていたなんて知らなかったわ。裏口から城に入るなんてどうしてかしらね。」


ゆっくりとした動作でお茶を飲む。さすが王妃様、カタリとも音を鳴らさずに静かにカップを置いた。


「いつまで黙っているつもりかしら、レンギョウ。」


出された紅茶を、これまた優雅な動作で飲んでいる殿下にとうとう王妃様がとどめを指した。


「ふぅ」と短く息を吐く音が聞こえ、殿下のカップがソーサーに静かに置かれる。

王妃様はうっとりするような笑みを浮かべているけれど、その背後に鬼が見える。コーリア様に匹敵する、いやもしかすると超えるかもしれないオーラだ。


殿下はそれを、背筋をまっすぐに伸ばして堂々と向き合っているけど、私はさっきから生きている心地がしない。私、ちゃんと息をしているかな。空気が喉を通らない。


もう一人の当事者であるはずのダリア様はどうしているのだろうかとちらりと目線を向けると、彼女も私を見ていたのか目が合った。ペロッと舌を出し、顔の前で手を合わせ「ごめんね」のポーズをしている。この重苦しい空気の中、なぜ一人だけ余裕の表情をしているのかさっぱり理解できない。それにダリア様、全く謝っているように見えません。


確かに私に役目を押し付けて半年近くも逃げていたはずだけど、覚悟を決めて戻ってきたのではなかったのか。殿下と好きあっていなくとも、自分と結婚する人が、いまだに身代わりの私なんかと2人でいるのは、面白くないのではないのか。


「それで?そちらのお嬢様は?」


「彼女はハーベスト男爵令嬢で、」


「レンギョウ、貴方。ハーベスト男爵領には視察に行ったのよね?」


「はい。」


「それで?そちらのお嬢様は?」


「……ハーベスト男爵令嬢で、」


「それはさっき聞いたわ。」


「彼女は…」




殿下は一度言葉を止め、大きく息を吐き、




「彼女は、私が初めてそばにいてほしいと思った女性だ。」




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