謝罪
「本当に悪かったっ!!」
「申し訳ありませんでした。」
二人の高位の男が一人の女に平伏すという異様な光景が見える。それも自分の足元でだ。その必死の形相たるや許すどころか正直引いてしまう。
大勢の騎士に守られながらモンド王国ランディ城に戻り、すぐ様怪我を負った殿下とコーリア様、そして少しだけだったけれど私の治療が行われた。
ぐったりと気を失ったままで最も心配されたコーリア様であるが、治療をしているうちに意識を戻した。軽い脳震盪を起こしていたのと、あばらをいくらか骨折していたが、そのほかは重度の後遺症もないそうだ。
機嫌は最高潮に悪く、周りへの影響力はすごかったけれど。
殿下も腹部を痛めてうずくまってはいたものの、内臓にも骨にも影響は無いという。よほど相手をしたノワールの腕が良かったのだろう。って、嬲るのに上手い下手があるのか知らないけれど。
めまぐるしく駆け抜けた一日をようやく終え、次の日を迎えたけれど疲れも興奮も恐怖も拭われていない。心に目に身体に焼き付けられた経験はなかなか抜けないのだ。できれば一刻も早くこの国を去り、フローリアに戻りたい。むしろ役目を放棄して田舎に帰りたい。
そう思っていた日の夕刻。事件の処理でしばらく会えないだろうと思われたヴァンさんにすぐに会うことができた。途中で離れ離れになったヒイラギさんにも。
「故意と敵を泳がせたのです。貴女に危害を加えさせるつもりはありませんでした。ノワールが潜入していましたし。しかし怖い目に遭わせてしまったことは言い訳しようもありません。謝って済む問題ではないとも。」
「一番上の兄が俺を邪魔に思っていることは知っていた。そろそろ行動を起こすことも。だから・・・利用させてもらった。恨んでいい。それだけの事はしたんだ。なんだったら殴ってくれてもいい。」
自嘲気味に笑うヴァンさんを見ていたら、言いたいこともいえなくなってしまった。あんなに怖い思いをいて、本当に死を意識して。味方がいたなら言ってくれても・・・とも思ったけど私自身、真実を知っていたら知らないふりができるとも思わない。敵をだますならまずは味方から?いやちょっと違うな。とにかく私をおとりにしたってことですよね。
「到底許されるべきことではないですね。」
「コーリア様!!」
いまだ体調が整わず別室で寝ていたはずのコーリア様が侍女に支えられながら歩いてくる。ヴァンさんたちの前まで来ると侍女の支えを断りいつものように精悍な立ち姿である。
「リヒト王子。約束が違いますよ。パーティに出て彼女に注目させるだけで良かったはずです。誘拐を企てた時点で捕縛が可能だったでしょう?」
「約束とはなんだ。」
コーリア様の言葉に今まで黙っていた殿下が眉を顰め立ち上がった。




