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閑話~クリスマス番外編~

ふんふんふーん。


ふんふんふーん。


ふんふんふんふんふーん。



私は今、来たる聖なる日に向けて中庭の木々を飾りつけています。大きなモミの木では飾りつけは大変だから、その辺にある低木で。いつもはまるっとしたそのフォルムを、てっぺんが尖っている三角に馴染みの庭師さんに整えてもらった。


使わないのか倉庫の奥にしまってあったクリスマスオーナメントを取り出し、綺麗に磨き上げる。するとホコリがこびりつき灰色に変色していたものから、カラフルな輝きが現れてくる。赤、青、緑、橙、金、銀。可愛らしい人形も丁寧に洗うと一緒に取り付ける。


「うん、完璧。」


花の時期が終わり寂しくなっていた中庭がパッと明るくなる。メイドさんに分けてもらった煌びやかなモールやリボン、綿も木にまんべんなくくくりつける。それにしてもこのリボン、手触りとか光沢とかすごくいいのだけれど、材質は何なのかしら。余りものでいいとは言ったのだけれど。


いや、聞いたら恐ろしそうだから知らないふりをしておこう。


倉庫から引きずってきた脚立を木の側に設置する。見上げるほどは高くないけれど、背伸びをするだけでは届かない木の頭頂部に星のオーナメントを取り付けるためだ。これだけは布に包まれて綺麗な状態で出てきたから、もしかしたらお高いのかも・・・とは思ったものの、暗い倉庫で眠っているよりは使ったほうが星にとっても本望だろうと勝手に解釈することにする。


「ずいぶんと楽しそうだな。」


「勉強もほったらかしにして何をしているのですか、貴女は。」


脚立に足をかけようとしたその間際、突然背後から声をかけられる。


「殿下!コーリア様!」


中庭を横断する外通路を通っている途中だったのだろうか、通路に文官を何人か残して二人がこちらに向かってきているところであった。


「クリスマスの準備ですよ!木を飾り付けて、願い事を書いた紙を吊るしてサンタさんにお願いするんです!」


一緒に書きますか?と紙とペンを渡そうとするけれどコーリア様に眉を顰められた。


「何か違うイベントが混ざっている気がするのですが・・・」


「へ?そうですか?私の実家では代々このクリスマスが通常で・・・・今日も実家から願い事を書いた紙が送られてきたんです。王都のツリーに飾ってほしいと言って。ほら、弟は王都でしか売ってないえーと、なになに・・・『経営戦略 絶対勝てる農地改革』っていう本が欲しいそうです。妹はこちらも王都でしか売っていない有名菓子店『ラ・ブール』のチョコとクッキーが欲しいんですって!実は二人にサンタさんは空想の人物だよってことを教えていなくて・・・毎年私がサンタさんからだよってこっそりプレゼントを贈っているんです。」


えへへと二人に笑ってみるけれど、二人の顔は浮かないままだ。どうしてだろう。


「弟と妹はいくつだ。」


「弟が13歳で、妹が8歳です。」


「それって知って・・・いえ、なんでもないです。弟君と妹君のプレゼントはこちらでご用意いたしましょう。」


「え!?よろしいのですか??」


「えぇ。それにしても貴女の弟君はセンスがよろしいですね。その本を選ぶとは。ビジネス本部門のベストセラーですよ。それは。シリーズものですのでそちらも全てお送りしましょう。妹君にはその店の商品を全てお送りしますよ。王城御用達の店ですから卸値で手に入りますし。」


珍しく饒舌になるコーリア様。実はクリスマスが好きなのかしら。サンタさんの格好をして『メリークリスマス』なんて・・・似合わなすぎる。


「貴女、今失礼なこと考えていませんか?」


ぎろりと睨まれたので、慌てて赤い服を着て笑顔でプレゼントを配るコーリア様を想像するのを止めた。


「それにしても懐かしいなこの飾り。残っていたのか。」


殿下に目を向けると低木に勝手に飾り付けたオーナメントを手に取って弄んでいる。


「子どもの頃は弟と飾りつけをして楽しんだものだ。弟とどちらが星を取り付けるのかよく争って・・・。」


目を細めて懐かしそうに微笑む殿下。珍しいその笑顔につい見とれてしまう。


「殿下、では今年はそのてっぺんの星、殿下が飾りつけましょうよ!ほら、こちらも綺麗に残っていたんですよ。」


布を開いて煌びやかに輝く金の星のオーナメントを見せる。少し重く子どもの手の平よりも大きいそれは、子どもの頃の殿下にとっては宝物みたいなものだったのではないだろうか。ぐいぐいと殿下に手渡そうとするけど「もう子どもじゃないからいい」と恥ずかしがっているのかなかなか受け取ってもらえない。


「もういい。お前が取り付けろ。元々そのつもりだったんだろう?」


そう言われ、殿下に脚立を支えてもらい、星を取り付ける。手からすべり落ちでもしたらどうしようかと思ったけれど、幸い、きちんと取り付けることができた。


あとは、願い事を吊るして・・・殿下とコーリア様にもう一度願い事を書かないのかと聞いたけれど、いらないですって。恥ずかしがりやなんだから、もう。それなのにコーリア様ったら私の願い事を見て鼻で笑っていた。ひどいです。


「ふぅ。やっと飾りつけ終わりましたね!うん、我ながら完璧です!」


「ずいぶんと小さいツリーな気がするが・・・まぁいいか。」


私にとっては脚立を必要とするそれだけれど、殿下にとっては手を伸ばせば届く高さ。まぁ、いいじゃないですか。一人での飾りつけなんてこのくらいが限界ですよ。


「ったく、このような子どもの遊びに時間を使うなんて。今からはちゃんと次の授業の予習をするように」


そういい残して二人は公務に戻っていった。




クリスマス当日。


朝起きると枕元にカラフルな包みが2つ置かれてあった。赤の包装紙には巷で大人気の、壮絶な愛憎劇が書かれた恋愛小説(上・中・下巻)が入ってあった。緑の包装紙の中には城内で働く文官と兵士たちのプロフィールが書かれた束が入ってあった。年齢とか未婚とか備考欄には○×が書かれてあるんだけど、これをどうしろと?


私は「素敵な恋がしたい」とお願い事したのだけれど。


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