静寂
静まり返る室内。
隣の部屋には見張りのためか何人か残っているようだが、先ほどまで酒盛りをしていた騒がしさはない。そんな中、埃っぽく狭く薄暗い部屋に見知らぬ青年と二人。
目隠しははずしてもらえたものの、足も手も縛られ、猿轡もされて助けを呼ぶ声さえも出せない。おまけに倒れこんだ状態から自力で起き上がることもできない。なんとかもがいてみるが、私のうすっぺらい腹筋では起き上がることは不可能なようだ。
まさに手も足も出ない状況なわけで。おまけに眼前には誘拐犯の仲間の青年が立ちはだかっている。到底逃げられそうにもない。しかしこの青年は誘拐犯のリーダー格であろう中年の男に触れられそうになった時、その手を掴んで阻み、結果的に部屋から追っ払ってくれた。
庇ってくれた?
怖い人なのか、そうでもない人なのか。信じていいのか、やはり悪い人なのか。真意が分からずその背中をじっと見ていると、不意にこちらを振り返り近づいてきた。手がこちらに伸びてきて思わず目をつむるが猿轡をとってくれただけだった。今までふさがれ、大きく吸えなかった空気を胸いっぱいに吸う。
「ケホッ、ケホッッ」
埃まで吸いこんでしまってむせてしまうほどに。
背中を支えられ(ついでにさすってもらって)、起こしてもらい、そのまま足を縛っていた縄もはずしてもらった。固く縛られていた足は少し痺れが残っており、もがいたせいか擦れて小さな傷ができている。ものすごく痛いわけではないが、ぴりぴりとして気になるほどには痛みがある。
「あ、あの。ありがとうございます・・・」
誘拐犯の仲間ではあるものの中年男から庇ってくれたり、目隠しや猿轡、足の拘束を解いてくれたことに礼を言うが、青年は聞こえていないのか全く反応を示さない。私を放置したまま一旦部屋を出、その背中を見つめ呆けているとすぐに戻ってきた。手には透明な液体の入った瓶を持っている。
「水だ。飲むか。」
そういえば・・・と緊張しっぱなしで喉が渇いているのに気づく。水を見た瞬間、喉が水分を欲してやまなくなった。
中の液体を疑いもせず「欲しい」と言ったのは、すでに青年を信じていたからだと思う。こんなところをコーリア様に見られでもしたら、「だからあなたは警戒心が足りないと常日頃から・・・」と説教をされそうだ。
差し出されている瓶を受け取ろうとするが、手は未だ後ろで縛られており自由が聞かない状態であった。
「あの。」
手の縄も解いてくれませんか、との気持ちをこめて見上げれば、その気持ちが通じたのか青年はこくりと頷いてしゃがみこみ、瓶の蓋を回した。
そして次の瞬間、すぐ目の前に丹精な顏が迫り私の意識は真っ白になった。




