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憤然

「おい、どうした。おかしな声がしたが・・・。」


部屋の扉を開いた人物は、ソファで抱き合う形になっている私たちを見て扉に手を添えたまま目を見開いて止っている。一方こちらも突然登場した人物に驚き、気づけば涙も止まっていた。


「殿下。」


「・・・リヒト。お前、何をしている。」


ずかずかとソファまでやってきて、私を抱きしめていたヴァンさんの後ろ襟掴んで引き剥がし、そしてそのまま乱暴に床に投げ捨てる。ヴァンさんはその衝撃でドスンと頭から落ちた。


「痛ってぇ。おい、何す・・・」


「なぜ泣いている。」


「は?」


「なぜ、こいつが泣いているのかを聞いている。」


床に転がっているヴァンさんの胸倉を付かみ静かに怒る殿下の声は、今までにないくらいに低く、冷たくて、鋭い。不機嫌なときはよくあったけれど、ここまで怒りを露わにする殿下は初めて見る。それが自分に向けられたものではないのに、ピンと張り詰められた空気に押され、金縛りにあったように動くことができない。


「こいつに何をしようとしていた。」


ソファで未だ固まっている私の胸元を指差す。指差されたところをみると、リボンがほどけて胸元が乱れていた。殿下に誤解されまいとようやく動いた手で慌てて隠すが、遅かったようだ。ヴァンさんもまずいと思ったのか、私の胸元を見て気まずそうに目を反らした。


「あ・・・・・と。いや、これはちょっとだな、誤解が・・・」


弁解をする前に、殿下の右ストレートが左頬に綺麗にきまった。ヴァンさんの身体が勢いよく転がる。


「何を誤解するというのだ。夜遅くに女の部屋に入って、ソファに押し倒して、服もはだけていて。そして泣いている。」


「で、殿下っ!やめてください!!私は大丈夫です。まだ何もされて・・・。」


慌てて殿下の腕を掴み、激昂してヴァンさんに跨りさらに殴ろうとするのを必死でとめる。そのお陰でなんとか衝動を抑えられはしたものの、殿下はひどく興奮して肩で息をしている。それからこちらのことをちらりとも見もせず立ち上がり、冷たい目でヴァンさんを見下ろした。


「この部屋から出て行け。明日は姿を見せず朝一で帰れ。お前の顔など見たくもない。」


ヴァンさんは殿下に殴られて切れたのか、血がにじんでいた口元を雑に拭うと、よろりと立ち上がった。何を言うでもなくまっすぐに扉に向かう。そして最後にこちらを振り返って、私に向かって指を指した。


「俺は、諦めてねぇからな。・・じゃあなっ。」


殿下に殴られたことなど無かったかのように、口元を緩めペロッと舌を出したあと、そのまま走り去っていった。


「でででででンか・・・あのっ。あのっ。ばばばバレ・・・・」


「さぁ、説明してもらおうか。」


未だ落ち着きを取り戻していない殿下を私に残して。




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