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不穏

突然設けられた会食の席。


お客様ご一行が帰られる前夜に開かれることになったのだ。


にこやかに微笑むヒイラギさんと、この世のものとは思えないくらいの恐ろしい顔で給仕をしているコーリア様、何を考えているのか分からない無表情の殿下。今すぐこの場から逃げ出したいと思うのは私だけではないはず。西国のお客様である王子たっての希望で設けられた席のはずだが、なぜか主役がなかなか現れず、待ちぼうけを喰らっている。


と、突然食堂の扉が音を立てて開かれる。


「いやぁ、待たせたな。」


ずかずかと部屋に入ってきて、殿下の肩をバンバンとたたく。ずいぶんと気さくな方で、どことなく誰かに似ている。それにえらく殿下と仲が良いようだ。そう思ってちらりと殿下の横顔を見たらものすごく嫌そうな顔をして肩に置かれた手をはらっていた。・・・仲が良いわけではなさそうだ。


「時間があるからと思ってまた城下町まで行ったらいつの間にかこんな時間になっててよ。遅れるかと思ったぜ。」


「既に遅れているのだが。」


「まぁまぁ、そういうなって。で、隣のあんたが婚約者?俺は、・・・・」


差し出された手を辿り、互いに顔を合わせた瞬間、時が止まる。なんで。どうして。ヴァンさんが。西国の王子として遅れて登場したのは、ただの商人だと思っていたヴァンさんだった。似ているなんてもんじゃない。本人だ。こんな気さくで一般人とさして変わらぬ(と私が勝手に思っていた)人が一国の王子だったなんて。殿下との違いにびっくりする。殿下は「王子様」って感じの方だもの。ヴァンさんもヴァンさんで私がいることに驚いたのか、動きが止まっている。しかし、


「・・・俺はリヒトだ。よろしくな。」


「えっと、よろしくお願いします、リヒト様。」


てっきり「お前こんなとこで何してんだ。」などと正体をばらされると思ったのに。もしや、見事な変身っぷりに気づいていない?それならいいのだけれど。「絶対に正体がバレないように。」と散々コーリア様に釘をさされているのだ。西国の王子にバレたなんてわかったときには絶対怒られる程度じゃ済みそうにない。


それよりも、安心した。よかった。ヴァンさん・・・いえ、リヒト王子が鈍感で。それだけいつもの私の姿のギャップが激しいのかもしれないけれど、今日ばかりはそれに大いに感謝できたのだった。





「なぁ、ヒイラギ。」


「なんでしょう。リヒト様。」


「俺、面白いもん見つけた。」


「へぇ。それは良かったですね。それで、“面白いもの”とはなんです?」


「まだ教えねぇ。もう一度確かめてみてぇからな。」


「ふふ。そうですか。まぁ、それが何にしても、リヒト様が本当に欲しいと思ったものは、手に入らなかったことがありませんからね。楽しみにしておきます。」



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