再会2
お客様が城に来て5日が経った。
部屋に軟禁状態になってからも同じ日数が経過している。ヒイラギさんと再会したときのことを言ってか「これ以上面倒事を起こさないでください」とお客様が帰るまで部屋から出ることを禁止されたのだ。面倒事というほどやらかしてはいないとは思うのだけれど、コーリア様の気に触ったらしい。はじめは難しい講義も無く自由に部屋でごろごろとしていられるのが嬉しくてたまらなかったんだけど、そんなの二日で飽きた。
と、いうことでこっそり部屋を出ることにした。
メイドのお仕着せを着て仕事をすれば問題ないだろうと、裏庭の物置小屋にやってきた。覚えているだろうか。私の形式上の異動先の職場である。中はガラクタばかりだけれど、ちょっぴり持ち主の面影を残す宝物もある場所だ。久しぶりに訪れるここはやっぱりじめじめしていて埃っぽい。だけど多い茂った木々に囲まれているおかげで周りからは見えにくい場所に建っている。お仕着せに身を包んで髪もキャップに押し込んでいるからお客様の目には留まりもしないだろう。だって城の使用人なんか、興味がないはずじゃないですか!
久しぶりの外の世界に気分をはずませながら掃除を始める。窓を開け、はたきをたたき、箒で掃き・・・。あぁ、勉強より、ダンスレッスンより、パーティーより断然掃除のほうが楽しい。貴族の暮らしも憧れてはいたけれど、私は庶民の暮らしのほうが合っている。まぁ、こんな贅沢な経験なんて二度とできないだろうから満喫しているけどね。通常では決して関わりあえない方と会えたし。
“ダリア嬢”の世話をしていて顔見知りのはずの使用人さんたちとすれ違っても気づかれないことをいいことに、どんどん日向のほうに出て行く。
「花壇の世話もしていいかなぁ・・・・」
たまに散歩で歩く中庭まで足を運んでみる。庭師さんに手伝いを教えてもらいながら雑草を取ったり水をあげてみたり。いつもと違うことを、こっそり(いや、かなり堂々としているけれども)するのは楽しい。鼻歌だって口ずさんじゃうんだから!
「楽しそうだな。」
突然聞こえた声に我に帰る。隣に現れた影に驚き、声のほうに顔を向ける。
「よっ!久しぶりだな!」
「ヴァンさんっ!!」
隣には5日前、城下からの帰りに荷物を持ってくれたヴァンさんがいた。この前は夕日色に染まっていた髪は、太陽の下では綺麗な銀色に輝いていて、殿下のはちみつ色のそれとはまた違った美しさがある。シャツに細身のパンツといったカジュアルな恰好ではあるが、整えられた美しい髪のせいか、どこか気品を感じさせる。
「どうしてヴァンさんが城に?」
まさかヴァンさんがまだ城にいるとは思わなかった。それとも、今日も商売のために城にいるのか。なにはともあれ、
「この間はありがとうございました。荷物を持ってもらって、私、とても助かりました。」
立ち上がってガバリと勢いよく頭を下げる。するとヴァンさんはわしゃわしゃとキャップの上から頭をなでてくる。キャップがずれて髪が乱れたのにムッとしてヴァンさんを見上げると、この前のようにけらけらと笑っていた。
「いいって。ガキと女には優しくしてやんねーとな。」
私はどちらに分類されてるんだろう、と気にはなったが聞くのが恐くて黙っておく。
「なぁ、この後時間あるか?」
町まで行こうぜとかなり魅力的なお誘いを受ける。だが、町にまで出るとなるとさすがにコーリア様にばれる気がする。ただでさえ、長時間部屋を空けているのだ。そろそろ様子を見に来るかもしれない。
「ごめんなさい。町には許可が無いと出られないんです。それにもう戻らないと。」
断らなければならないことにがっくり肩を落とすと、ぽんぽんと今度は頭を優しくたたかれる。
「なら仕方ないな。また今度な。俺もそろそろ戻らねぇと怒られそうだ。」
後ろ手に手を振りながら、ヴァンさんは爽やかに去っていった。殿下にもコーリア様にも無い、その爽やかさが、私にはひどく新鮮に感じた。
「・・・・・・私もいい加減部屋に戻ろ。」




