再会
疲れた・・・。
城門でヴァンさんと別れた後、重い荷物を抱えようやく部屋に戻ってきた。中ではマルガリータさんが待っていて、荷物を受け取ってくれる。風呂に入り、使用人用の服も着替え、今はすっかり元通り、婚約者“ダリア”の出来上がりだ。
「お手伝いできたらよかったのですが・・・」
夕食前に少しばかり茶を入れてもらい、一息をつく。食事をするのにもマナーのレッスンになるから、落ち着けないのだ。空腹時に何度も席に着くところからやり直しさせられた日はたまらなかった。好物を前に怒られ頭をフォークで刺されたときは痛かったです。本当に。誰からとは言わないけど。
「いや・・・仕方ないですよ。」
だってコーリア様、私に一人で行けって言ったもの。マルガリータさんには他の仕事があるからって。何もすぐにいるようなものじゃないんだから今日頼まなくたって・・・って思ったけど口にはもちろん出しはしない。
休憩を終え、食堂に向かう。マルガリータさんは呼び出されてどこかに行っちゃったから一人で部屋を出て廊下を歩いていると、コーリア様に出くわした。
「おや、こちらにおられましたか。本日はお部屋に食事を運ぶと伝えに行かせたのですが入れ違いになったようですね。」
ニコリと微笑むコーリア様の後ろには人影がある。お客様だろうか。だから私に対してものすごく丁寧な対応なのか。不自然極まりない。
「え、ええ。どうやらそのようですわね。それではわたくしは部屋に・・・。」
「あれ?貴女は・・・」
コーリア様の無言の「今すぐ部屋に帰れ」オーラを察知し、すぐ引き返そうとしたが、声を掛けられて振り返る。コーリア様の後ろからひょっこり顔を出したのは綺麗な赤茶の髪を一つに束ねて後ろに流している男。すらりと背が高く、どこか色気を感じさせる男は見覚えがあって・・・
「あぁっ!」
「やはり、貴女はいつぞやのレディでしたか。お会いできたら嬉しいなと思っていたのです。」
自然な手つきで私の手をとりその甲に口付けをする。フリではなく、本当にした。今回も。
目の前にいる紳士は、以前殿下とともに行ったパーティーで会った謎の男だった。なぜ、城にいるのか、なぜ、コーリア様とともにいたのか、なぜ、また口付けたのか、なぜ、なぜ、と頭が真っ白になる。
「ヒイラギ殿を知っておいでで?」
コーリア様に、男につかまれていた手をはがされ引き寄せられる。助かった。あの紳士の色気に長時間当てられたらたまらない。おずおずとコーリア様の後ろに隠れながら紳士を見上げる。すると紳士はこちらを見ていて、目が合うとふわりと笑みを浮かべた。
「以前侯爵様のパーティーで、ね。レディ、私はヒイラギと申します。お名前をお聞かせ願えますか?麗しのレディ。」
ヒイラギと名乗った紳士は、コーリア様がいるにも関わらず私に目線を合わせるように腰をかがめて話しかけてくる。コーリア様を無視するなど私には恐ろしすぎてできないが、この紳士、もしやすごいお方なのだろうか。侯爵家のパーティーにきていたくらいだし。
「こちらはフローリア国が懇意にしている貿易商の次期頭首ヒイラギ殿です。ヒイラギ殿、こちらはレンギョウ王子の婚約者殿でございます。気安くお手を触れぬよう。・・・君、ヒイラギ殿を食堂にお連れしてください。それでは、私は婚約者殿を部屋にお送りして参りますので。」
早口でまくし立てるように互いの紹介を済ませ、ヒイラギさんの案内を近くにいたメイドに任せる。そしてさぁ行きましょうとコーリア様が私の手を取り部屋に向かおうとすると、ヒイラギさんに引き止められた。
「お待ち下さい、レディ。今から夕食でしょう?でしたら是非一緒に。せっかく貴女のような美しい方にお会いできたのですから。」
「え、いえ・・・その。」
いやだ。一緒に食事でもとろうもんならすぐにボロが出てしまいそうだ。ヒイラギさんの過剰な色気とスキンシップにも慣れないし。
「申し訳ないが、ヒイラギ殿のような素敵な方と2人きりでお食事を取られたとなると、レンギョウ王子が嫉妬してしまうかもしれませんので。それでは失礼。」
私の代わりにコーリア様が答えて強引に会話を打ち切ると、早足に部屋へと向かう。付いていくのが精一杯だったが、背中からただならぬオーラを感じて、私は黙ってその後ろをついていくのだった。




