王子2
殿下視点です。
「レンギョウ王子、もう一方のお客様がご到着されました。お連れしてもよろしいでしょうか。」
「入れ。」
地方の様子や噂話を茶請けにヘリコニアとその息子ヒイラギと応接室で話し込んでいるとコーリアが客を連れてきた。もう一人の客人。貴族の子息だったか。貿易商の親子と昼頃はぐれてから城に来るまで一体どれだけ時間をかけているのか。迷ったのか、あるいは街中を散策していたのか。どちらにせよ道楽息子の顔を拝ませてもらおう。コーリアの入室許可を求める声の後、乱暴に開かれた扉から入ってきた男には見覚えがあった。とても、よく。
「よっ!レン、久しぶりだな。」
「・・・・・・。」
呆れてものが言えない、とはこのことか。客人は貴族の子息と聞いていた。なのに、なぜこの男がいるのか。
「なんだよ、レン。久しぶりに俺に会えて言葉も出ないくらい嬉しいのか?」
けらけらと腹を抱えて笑う姿は、何年か前に会った頃と少しも変わらない。
「リヒト様、心配しましたよ。今までどこにいらっしゃったのです!」
ヒイラギが立ち上がり、男の着ていたローブを受け取る。リヒトと呼ばれた男がローブの下に着ているジャケットの胸には月をモチーフにしたマークが描かれている。それは西のモンド王国の紋章で、限られた者しか身につけられないもの。男の名はリヒト=ヴァン=ランディ。モンド王国ランディ城の第三王子である。
「いやぁ、よその街って楽しいなっ!色んなもんがあんだもんよ。可愛いコ多いし。」
勧めてもいないのに、ソファの真ん中にふんぞり返って座る姿は、王子というより道楽息子のほうが合っている。代わりに立つハメになったヘリコニアとヒイラギは退室し、リヒトのために茶も入れなおす。その間もこの男は休まず口が動いている。いい加減うるさい。
「で、ここに来る途中も可愛いコがいてさぁ、あ、城のメイドらしいんだけど、連れて帰っていい?」
次から次に移り変わる話にうんざりしながら適当に相槌を打つ。メイド一人くらいどうでも良い。
「コーリアがいいと言ったらな。それより、」
疲れたからもう帰ってくれと言いたい。終わりが見えない会話ほど不毛なものはない。隣国の王子同士、年も近いこともあり幼い頃から幾度と無く顔を合わせている。人懐こいリヒトは俺がどんなに邪険に扱おうと無視しようとそれをさらに無視して話しかけてくる。いつからか、自分ばかり避けて抵抗しようとも無駄だと悟り、リヒトの自由させることにしたのだ。
適当に相槌を打ってもリヒトは気にせず話す。例えこちらが仕事を始めようが、関係なく。ただ、相槌を打ってやらないとスネてもっと面倒なことになるから、相槌は絶対必要だ。
そういえば俺のほうがいくつか年上のはずなのだが、何故こちらばかり気を使っているのだ。気に食わない。何杯目かの茶をメイドに頼み、無駄だと知りながらこれ見よがしに溜息をついた。




