本調子
「来週、西国から客人が来られます。」
日課である講義のあと、久しぶりにコーリア様に話しかけられた。
マルガリータさんにお茶の用意をお願いし、二人で午後のひと時を楽しむという図になっている。
コーリア様によると、王家が懇意にしている貿易商が、自分の息子と、さらには西国の貴族の子息を連れて訪問に来るらしい。しかもそのまましばらく滞在するという。
その貿易商とは現王、つまり殿下のお父上の即位当初からの付き合いで、よく珍しい品物や各地の噂話などを持って来てくれ、良好な関係を築いているのだそうだ。
今回息子共々訪問するのは15年ぶりのことで、店主の座を譲ることになっためその挨拶に来るのだという。そしてついでに訪問する貴族の子息というのは遊学の為、貿易商に付いて大陸中を回っているから今回も付いてくるらしい。
「まったく、実に迷惑な話です。今や城中、客人を迎えるのに大忙しですよ。ただでさえ貿易商が来ると殿下が話を聞きたがって執務が滞るというのに。その上このクソ忙しい時期に貴女の講義も休めないなんて。皺のない脳みそになぞ何をしても無駄でしょうに。はぁ。自分の真面目さと、なんでもこなしてしまう優秀さが憎いです。」
溜息と愚痴と嘲りの言葉をこぼすコーリア様を見るのは久しぶりだ。完璧な所作でお茶を飲み、口から出る言葉だけがこの上なく酷い。傍目から見るだけなら、本当に格好良いのに。
それにしても、最近は罵られることすら稀だった。目の前の光景が日常に戻ってきたようで何故だか安心する。
「……何をにやけているのですか。貴女は。」
「いやぁ、コーリア様がお元気そうで何よりです。」
突如顔を赤く染めたり、声が裏返ったり、俯いたり、キレて怒りだしたり。近頃のコーリア様は体調が悪かったのか、らしくなかった。打てば響く(というか何倍もエコーがかって返ってくる)はずのコーリア様がちっとも反応しない日が多々あった。
や(殺)られると思って身構え、そして何度拍子抜けしたことか。マルガリータさんにコーリア様の不調を訴えても大丈夫でしょうとしか言わなかったし。
だから、お元気そうな今のコーリア様を見ると、いつもの感じが戻ってきたようで安心できるのだ。
「やっぱり罵倒してこそのコーリア様ですよねっ。」
「よくわかりました。貴女は死にたいようですね。」
口は禍の門。
何故、コーリア様には適用されないのでしょう。
射殺さんばかりの視線を浴びながら、私は今から出されるであろう宿題の多さを憂うのだった。




