変化
あれからコーリア様がおかしい。目が合うとぎろりとすさまじい形相で睨み、ぱっと逸らしてしまうのだ。いや、睨まれるのは前からそうだったけれども。と、いうか最近では、講義の最中こちらがじっと見つめてもなかなか目が合わない。
前なら私の視線などすぐに気が付いて「なんです?あなたの小さな脳みそでは理解できませんでしたか?(冷笑)」とか嫌味の一つや二つ、三つ四つ……あったのに。今や時間になると淡々と講義を進め、終わると話もせずにそそくさと仕事に戻っていく。
別にコーリア様と世間話をしたいわけではないが、この城で私の話し相手となってくれる人なんてほとんどいないのだ。
一日の大半を過ごすと言っても過言ではないコーリア様と話せなくなったのはなんだか寂しい。
「ねぇマルガリータさん、コーリア様の様子がおかしいのって、やっぱりまだあのことを怒っているからかしら。」
近頃態度が軟化しつつあるマルガリータさんに茶飲み仲間になってもらいながらコーリア様のことを相談する。あの日、寝ぼけてコーリア様に抱きついて首を締め上げるという失態をしてしまった日、マルガリータさんは別の仕事でその場にいなかった。だから私はことの顛末を一から説明したのだ。
「確かに無礼なことをしたと思うけど、何日も引きずるほど怒るなんて。何度も謝ったのに。」
オレンジに輝く紅茶の水面を見つめながらぽつりと零すと、マルガリータさんは言葉を選びながら、
「…怒っているのではないと思います。」
「じゃあどうして?」
「男性とは色々あるのですよ・・・。」
どいうこと?と尋ねても、マルガリータさんは苦笑しながら「コーリア様の名誉に関わるので言えません。」と答えるだけだ。
と、いうことで、
「コーリア様を怒らせてしまったらしいのですが、どうすればいいと思います?」
図らずとも設けられた殿下との茶会の席で尋ねてみる。仲の良い婚約者アピールなのかなんなのかは知らないが、たった2人でテーブルを囲んでいる。
「コーリアが怒るのはいつものことだが。何をしたんだ。」
「寝ぼけて抱きついて締め上げてしまいまして。」
「ブッッ。」
言うや否や殿下がお茶を噴出す。気管に入ったのかそのままゴホゴホとむせてしまいかなり苦しそうだ。表情こそあまり変化はないがいつになく顔が赤くなっている。
慌てて立ち上がり殿下の背をさすろうとするが、涙目で首を横に振りいらないと制される。それに素直に従い、殿下が落ち着いた頃に事の顛末を話すと、「いっそのこと憐れだな。」とつぶやいたのだった。




