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夢幻

夢を見た。


温かくて、大きくて、大好きだった父の手。


その手で頭を撫でてもらうのが好きだった。


父はよく私の頭を撫でてくれた。弟や妹が生まれてから母はそちらにつきっきりになってしまったけれど、父はよく私にかまってくれ、二人で散歩をしたり、仕事を手伝ったり、出かけたりしたのを覚えている。


夢の中で、父が微笑みながら頭を撫でてくれる。心が温かで懐かしい気持ちでいっぱいになる。


あぁ幸せな夢だ。まだ私が子どもで、甘えられた頃の夢。「お父さま」呼びかけながら父の広い胸に顔をうずめる。温かい。



「…………、…………、」



誰かが私を呼んでいる。いい加減目を覚まさないと。でも、もう少し。もう少しこの幸せな夢から覚めたくない。


ぎゅっと父の首に手を回してしがみつけば、父の身体がぴくりと強張るのがわかった。


あれ?おかしい。


こういうとき、父はそっと背中に手を回して、ぽんぽんと軽くたたいてくれたのに。夢の中の父の腕は私を包むのではなく、行き場なく空をさまよっている。私も成長し、もう大人に近づいたから抱きしめてくれないのだろうか。


それが寂しくていっそう首にすがりつけば、恐る恐る背に手が回る。軽く触れる程度であったが、背中からじんわりと人のぬくもりが伝わってくる。



「お父さま。大好き。」



そう言葉にした瞬間、父が私からがばりと離れた。夢とも現実ともつかない衝撃が身体をつたう。



「~~~っ。い、いい加減離れなさいっ。」


目の前には真っ赤な顔をして小刻みに身体を震わす父……ではなく、あな恐ろしやコーリア様がいた。



「・・・・・・。」


「・・・・・・。」


「・・・・・・。」


「・・・・・・。」


「あ・・の・・。」



沈黙に耐え切れなかった。


コーリア様は顔を赤く染め、唇をかみ締め、顔を逸らしている。身体から湧き出るオーラは赤黒く見えて恐ろしく、失神してしまいそう。


どうやら寝ぼけて抱きついた相手がコーリア様だったらしい。ダリア嬢に扮しているとはいえ、身分はコーリア様のずっと下。しかも今は小屋の掃除の途中であったため、薄汚い格好をし、元の下働きに戻っている。


さぞ嫌だったのだろう。顔を赤く染め、身体が震えるほど怒りを抱えているとは。いっそのこと罵倒してくれればいいのに、沈黙するコーリア様が逆に怖くてたまらない。


「申し訳ありませんでしたっ。父と間違えましたっ。」


地に顔を埋める勢いで頭を下げる。上から降ってくるであろう罵詈雑言に身をかまえる。しかしコーリア様の口から出たのはため息だけで、ちらりと目をやると額に手を当て呆れている様子だ。


「もういいです。日が落ちて寒くなってきました。部屋に戻りましょう。」


そういえば風が冷たくなっている。コーリア様が公務を終えて戻ってくるほどの時間がいつの間にか経っていたらしい。いそいそと今日も終わらなかった分の埃をかぶった本を小屋に戻し、コーリア様の後を急いだ。


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