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面影

2日目。


昨日の過酷な大掃除のせいでひどい筋肉痛と疲労と倦怠感に襲われている。朝、目が覚めたとき身動きがとれず、金縛りにあったのかと勘違いしたほどだ。

マルガリータさんに助けてもらいながらなんとか起き上がり、引きつりしびれる身体を無理やり動かして慣らしたのだ。


そもそも、これほどひどいのはコーリア様のせいでもある。昨日部屋に帰ったあと「お礼なら言葉ではなく態度で示してもらいたいです」とマッサージをさせられたのだ。

手伝ってもらったとはいえ、一日中掃除をしていたのは私なのに。マッサージしてもらいたいのは私だ。…


まぁもちろんそんなことの言えない私は、1時間きっちりコーリア様の肩をもむはめになったのだ。

殿下の婚約者の私が側近にマッサージなんてと思ったけれど、「あなたは今、ただのメイドでしょう?」と言われれば断れるわけないじゃないですか!



朝食をとり、一日のスケジュールを教えてもらう。マルガリータさんによると、殿下とコーリア様は公務で外出のため講義は休みだそうだ。


一日予定が空いたからまた裏庭の小屋に来ている。今日もまた天気がよく、芝の上に荷物を広げてひとつひとつ埃や汚れを落とす作業をしている。身体は痛いが昨日よりは作業が楽で、ぽかぽか陽気の下、日向ぼっこをしている気分だ。


薄黒くなっていた人形もタライと石鹸を持ってきてきれいにした。


わけのわからないビン類は木箱につめて容赦なく封印した。


テーブルと椅子だってきれいに汚れを落とした。


あとは大量の本をきれいに拭くだけだ。

ふと、緑に金の淵の分厚い表紙の本が目に付いた。埃がこびりついて見えなかった表紙が露わになる。金の文字で書かれたタイトルはかすれているが、文字にそって指を滑らすと、一部の文字がなんとか“日記”と書かれていることがわかる。使い込まれたのか端がぼろぼろになっている表紙をやぶれないようにそっと開いてみる。




○月×日

今日は父上とじょうかまちのしさつに出かけた。にぎわっていたが、ろじに入るとゴミが落ちていたり、人がさむそうにしていた。市民がゆたかにフローリアで生活するためにかいぜんすべきてんだ。



○月△日

今日はコーと二人で街に出かけた。ろじうらで出会ったジェイに聞くと、親がいない子どもは少なくないらしい。まずしい子どもをたすけるためにもていきてきにかおを出すことにする。



×月▽日

しろをぬけ出して街に出かけていることが父上にばれた。父上のげんこつはかなり痛い。こんどからはこのえたちをかくじつにばいしゅうせねばなるまい。




なんだろう。この、ある人物を彷彿とさせる堅苦しい日記は。子どもらしい稚拙な文字は読みにくい。しかし城下町や近隣の街を視察した際の問題点や改善点などを子どもながら一生懸命考えているのがわかる。


幼い頃も眉間にしわをよせ、仏頂面でこのようなことを考えていたのだろうか。子どもの頃の姿を思い浮かべると微笑ましくてつい頬がゆるんでしまう。


それからしばらくはやわらかな日差しとそよかぜの下、その日記に没頭した。


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