目覚め
うずくような痛みで目が覚めた。どのくらい眠っていたのだろうか。窓の外を見れば明るく、太陽は高い位置に上っている。
いつもは陽が登る前に(叩き)起こされ、一日中マナーやダンスレッスン、歴史、文学の講義が行われている。火傷して寝込んだ次の日はさすがに配慮してくれたのだろう。薬の効果もあってかずいぶんぐっすりと眠ることができた。
目をこすり欠伸をしながら寝返りを打つ。まだ寝ていたい気持ちはあるが、さすがに昼すぎまで寝ているわけにはいかないと思う。それに汗をかいたみたいで気持ちが悪い。むくりとのろのろした動きで起き上がる。
「もう起きるのか。」
「はい。着替えもしたいですし。」
「そうか、では侍女を呼んでくる。」
「あ、はい。お願いしま・・・」
待って。私は今誰と話をしているのだろう。
声はマルガリータさんのものではない。というか、男の声だ。頻繁に部屋に出入りする男性はコーリア様くらいだが、コーリア様の声でもない。この声は聞いたことがある。ものすごく、最近、間近で。
「どうした。やっぱりまだ眠るのか。」
「・・・・・・殿下。何故ここに。」
声のする方へと目をやると、立ち上がる途中なのか中腰の体勢の殿下がこちらをのぞきこんでいた。仕事をしていたのか、寝台の横に椅子とテーブルを持ってきてその上に書類がいくつも乗っている。窓から差し込む光があたり、殿下のはちみつ色の髪は煌いていてとてもまぶしい。翠色の目も光で透き通って見えて宝石のようだ。天使のような・・・仏頂面だけど、整っている顔は、寝起きにはきつい。
「あぁ。聞きたいことがあってな。」
殿下は中途半端に起き上がっていた私の背を支え、さらに背と寝台の間にクッションを敷いてくれた。こういうさりげない気遣いは王子様たる所以なのだろうか。
「えぇと、聞きたいこととは・・・?」
殿下が椅子に座りなおしてから聞きなおす。それにしても私が目覚めるのを待ってまで聞くようなことがあるだろうか。仮にも女性である私の寝台の横に陣取り、仕事を持ち込んでまで待つ必要があるような質問が。あ・・・寝顔見られたな。よだれ出てなかったかな。いびきかいてなかったかな。ひとつを気にしだすととまらなくなり、とりあえず髪を手ぐしで整えてみる。
「あぁ。お前、名はなんという。」
「え?」
「だから名だ。それからお前は北方の生まれらしいな。その地方の暮らしがどういうものだったか聞きたい。というのも北方の経済状況について・・・・・」
殿下は胸ポケットからペンを取り出して構える。私の話書き留めるのだろうか。寝起きの私に『北方の経済発展について』的な話をさせるつもりなのか、この人は。驚きを通りこして呆れてしまう。どれだけ仕事熱心なのだ。先に私の身体の心配はしないのかな。大丈夫か、とか、先に帰ってすまなかった、とか。まぁ、期待してなかったけど。
「・・・・以上の理由で、庶民の目線で話を聞きたい。」
「えぇと、」
殿下の聞きたいことは多岐に渡った。いっぺんに聞いただけでは何の質問から答えればいいのかさっぱりわからない。とりあえず名乗ろうか。そう思っていると、ノックの音とともに部屋の扉が勢いよく開いた。
「王子!まだここにいましたか。」




