第29話 訓練場での戦い(口でw)
「皇子たちの皇位継承争い? でも、順位は決まってるんじゃなかった?」
「その順位をひっくり返すのが皇太子になることみたいですね。皇太子が決まっていない場合は生まれた順のようですけど」
イリーナが仕入れてきた情報は、3人の皇子たちによる皇位継承争いの話だった。
第3皇子がメイルダースの姫と結婚して一歩リードするとかなんとか。
ここが第3皇子のための離宮だから、第3皇子に都合のいい噂なだけという可能性もある。
そもそも婚約してないんだけど……あの皇子、噂を先に垂れ流してやがる。
まあ、メイルダースの姫との結婚が逆転の一手らしいから、実際には第1皇子が最有力候補でその次が順当に第2皇子だったそうな。
3番目が欲を出したところにストーカー公子がうまく手を出したんだろ。
第3皇子みたいな脳筋だとあのストーカー公子にまんまと操られそうだ。うっ、ちょっとブーメランが刺さったかも……。
「第1皇子と第3皇子は主戦派で、第2皇子は融和派のようですね。第1皇子が圧倒的にならずに第2皇子と拮抗していたのは、第3皇子に派閥を少し食い荒らされていたからのようです」
なるほど……国内は大きくふたつの派閥ってことか。
残りはあったとしても中立派とかいう感じだろ。
「手を組めばいいものを……」
「第1皇子と手を組んだら第3皇子には不利なのでは?」
「それはそうかも」
ひょっとしたら第2皇子がうまく第3皇子を利用してる可能性もあるな? 第1皇子に勢力を抑えるために。
脳筋第3皇子って簡単に操られそうだし。
でもまあ、第2皇子の融和派が一番マシではあるか。
残す候補としては第2皇子が有力、と。
「末っ子の皇女は?」
「まだ幼いので争いには加わってないみたいです」
「なるほど……」
……皇子3人とも潰してしまえば、皇女が成長するまで時間が稼げるかな? そういう手もあるか。
「それと……」
「まだ何か情報があったの?」
「はい。アラミス連合のことです」
「ああ、あれか……」
帝国にもヤーバナ王国とアラミス連合のにらみ合いの話は入ってたのか。
どこも諜報は送り込んでるはずだから知ってても不思議じゃないけど。
「ヤーバナ王国は引き下がったの?」
「その……ある意味で姫さま打った手は効果があったようなのですけど……」
前騎士団長の息子をアラミス連合がうまく使えば、ヤーバナ王国の大義名分は潰せたはず。
そのためにあいつを引き渡したんだから、どうにかなっててほしいところだ。
「ある意味で?」
「はい。ヤーバナ王国とアラミス連合の衝突は防げたようです」
嫌な予感しかしない。
聞きたくないけど、聞くしかないんだろ、これ……。
「……ヤーバナ王国とアラミス連合の衝突……『は』?」
「アラミス連合の誘いに乗って、二国合同でニライカナ国を攻めるように合意がなされたみたいですね。帝国がニライカナ国に援軍を出すかどうか、話し合っているそうです」
「なんでそうなるの……」
ヤーバナ王国はここまでバカだったのか?
アラミス連合に脅しかけといて、くるっと手のひら回すとは!?
それも! ニライカナ国を相手に!
自分の国がニライカナ国の何を頼ってるのかも分からないってどうなの!?
「ニライカナに塩を止められたらどうするつもりなの……」
「アラミスから仕入れるか、それ以外の理由ですかね?」
「それ以外って?」
「姫さまの婚約破棄関係で交代した新しい宰相はヴィエーリティカ侯爵ですから」
ヴィエーリティカ侯爵って領地に岩塩鉱もってる侯爵だろ!?
ニライカナ国からの塩が止まったら自分の岩塩鉱で稼げるからって!?
「なんでどいつもこいつも自分のことばっかりなの……」
「……それ、姫さまがいっちゃいますか……」
「うっ……」
確かにわたしも国外追放になった時はちょっとだけ自分のことしか考えてなかったけど!?
でも、アイーダに言われて反省したんだよ? ちゃんと反省してるよ?
「……王家があの3億円の賠償をどうにか減らそうとしていることも関係しているでしょうね」
「そっちもあったか……」
アイーダに言われて思い出した。
そもそも、それが原因でヤーバナ王国はアラミス連合に言い掛かりをかけたんだった。
「とりあえず明日に備えてイリーナはゆっくり休んでおいてね」
「はい。今夜は動かないようにします」
……明日の夜は動くつもりなんだ。わたしの侍女って働き者だよね。
「どうだ? 帝国騎士は精強であろう? メイルダースにも勝るとも劣らぬ力量よ!」
本当は帝国の方が上だと言いたい、という感情が顔に出てる。もっと隠せ。
わたしはアイーダの半歩後ろから訓練場の騎士たちを見ていた。
まあ……メイルダースのことなんか何も知らないクセに何いってんだこいつ、という感じだ。
この前、ニライカナの首都で少しだけ見た、ニライカナの傭兵団よりはちょっとマシかな、というくらいか。
剣術や槍術としての統一性が感じられる。その部分が傭兵団との一番の違いだろ。
傭兵団はめちゃくちゃ個人主義だったから我流っぽいのしかいなかったし。
まあ一言で表現するなら……よっわ。よわすぎ。こんな感じか。
アイーダが教えてくれた天然もの……メイルダース以外でたまに出る無自覚な身体強化魔法の使い手でもいるのかと思えば、そういう騎士はどこにも見えない。
もちろん鍛えていないわけじゃない。ちゃんと訓練は積んでるはず。
でも……あくまでも人間相手に訓練を積んでる騎士でしかない。
魔境の魔物を相手に実戦を積み重ねてるメイルダースとは、比べること自体が間違ってる。
人間相手の訓練が中心だから、対人戦の技術はうまいのかも。
でも、圧倒的に弱くみえるのだ。さすがに貧弱とまではいわないけど。
この第3皇子の勘違いを潰せば、主戦派? っていうのはちょっと崩せるかな?
「まるで……メイルダースと戦った経験でもあるかのような口ぶりですこと」
アイーダが扇で口元を隠して、ほほほと笑う。
完全にバカにした感じで、だ。
安い挑発なんだけど……。
「……では、そちらの護衛と模擬戦でもしてみるか?」
……第3皇子は乗ってくる。
ただ、これは第3皇子にも別の狙いがある。
わたしをアイーダから引き離す、という一手でもあるからだ。
わたしがいないとアイーダを人質にして……とか、考えてるだろ。
まあ、わたしを引き離しても大して意味はないんだけど。
アイーダは本当に強いからね。
「あら? わたくしから護衛を遠く離して何をお考えですの?」
「……何も。ただ、メイルダースとの模擬戦ができればいいという話だ」
第3皇子のつまらない一手はそのまま潰した。
第3皇子側としても、できればいいかな、くらいの一手だけどね。それでも思い通りにいかないとイラっとするでしょ?
ここでこっちはさらなる一手を打つ。
「では……侍女のイリーナを模擬戦に出しましょう」
「なっ……」
「護衛をそばから離すわけにはいきませんので……」
第3皇子はわたしからイリーナへと視線を移す。
イリーナは普通に侍女として華美ではないドレスを着ている。戦闘用の服装ではないどころか、戦いには不向きな衣装だ。
「……ふざけているのか?」
「あら、わたくしはまじめに申し上げておりますよ。それとも帝国の騎士さまはメイルダースの侍女にも勝てぬとおっしゃるので?」
アイーダはあおる。
第3皇子はアイーダをにらんだ。このへんの脳筋さは嫌いではない。
ただ、こいつの中のエロ系統のクズさは絶対に許さん。
「……そなたの侍女が嫁に行けぬような傷を負っても責任はもたぬぞ?」
第3皇子の脅すような口調をアイーダはにこやかに受け流した。
もちろんイリーナも涼しい顔で訓練場の壁に立てかけられた木剣を手に取り、騎士たちの方へと歩いていった。
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