対策と苦悩
怪しい場所へ駆けつけると、そこは洞窟の入口……ただ、明らかに自然発生的な気配ではない。間違いなく、ここが当たりだ。
「それじゃあ、入るか」
明かりを生み出して中へ。中は暗いのだが――ん、壁面が光っている部分がある。明かりというには心細いが、歩くには十分な光量だ。
「魔法か? これは」
『鉱石が光っているな。ただ精査しなければ自然物なのか人工物なのかはわからん』
ガルクの言葉を聞きつつ、俺はひたすら進んでいく。一本道で、分岐するようなところが一つもないまま奥へ奥へ、さらに下るような形で通路は続く。広さはそれなりで、先ほど交戦したキメラ型の魔物も這い出てくるには十分な道幅と高さがある。
入口から、ずいぶんと距離がある道を辿っていると、やがて真正面に光が見えた。洞窟内で光……疑問に思っていると、俺はそこに到着した。
『おお……』
「これは……」
俺とガルクは思わず声を漏らした。そこは、ずいぶんと馬鹿デカい空間だった。しかもここには明かりが煌々と輝いており、入口から広い空間全てを見渡すことができる。なおかつ、部屋の壁には扉が多数存在しており、この広い空間だけではないのだと理解させられる。
例えるなら講堂だろうか。机が多数並んでそこに資料らしき物が無造作に置かれている。左右を見ても同じような光景が広がり、なおかつ至る所に実験機具が存在している。
ただ、そうした機具は魔王達が開発したのか微妙なところ……中には俺達がリズファナ大陸で訪れた、古代技術を用いた遺跡に存在していたような物まである。
「大規模な研究施設か……ただ、さすがに大きすぎるな? これが今まで露見されずというのは、さすがに首を傾げたくなるけど」
『ここは魔王直轄領だ。許可なく他の魔族が立ち入れないということならば、十分あり得ると思うぞ』
ガルクは意見しつつ、俺の右肩に小さな体を出現させると、下へ視線を向けた。
『ふむ、秘匿性を高めるという意味合いでこうした場所に建造しただけではないな。地中に存在する霊脈を利用しているのは間違いなさそうだ』
「明かりについては、現在進行形で魔力を霊脈から拝借して……」
『そういうことだ。ここにいた研究者はいなくなってしまったが、施設そのものは存続していたと』
ガルクの解説を聞く間に、俺は右方向に注目した。左側や真正面についてはひたすら資料の積まれた机があるのだが、右側だけはまるで強盗にでも入られたかのようにぐちゃぐちゃになっていた。
しかも奥に破壊された壁と、扉らしき物が倒れている。
「あー……たぶん、あの奥に外に出てきた魔物を生み出す何かがあるな」
『うむ、破壊された形跡は先ほどの魔物がやったのだろう』
講堂全体も気になるけど、まずは他に魔物がいないかの調査だな……俺は右へと足を移す。破壊された壁の向こう側には、またも広い空間が。そして、SF小説の中に出てくるようなカプセルみたいな容器……そこに、魔物が入っていた。
「この世界でこんな光景を見ることになるとはなあ……」
『む、転生前に見たことがあるのか?』
「空想上の物語で、だな……映画、と言ってもわからないか。とにかく、フィクションの世界によくある舞台装置だな。ただそれは、まさしくこの世界で言う古代技術レベルのとんでもない技術力があるという仮定の話になるけど」
俺は周囲を見回して、破壊されたカプセルを見つけた。それは一際大きく、この施設に存在する中でもあの魔物はとりわけヤバかったのだろうと理解する。
「他の魔物は……機具そのものが稼働しているわけだけど、放置はさすがにできないよな」
『同じように外へ出る可能性があるからな』
「さすがに俺の手に余るし、頼まれたのは魔物討伐だから後はクロワに任せるしかないな……魔物の発生源についても特定できたから、対処は楽だろ」
『うむ、そうだな』
「ガルク、とはいえ魔物が持っていた魔力障壁の技術……それについて調べてみるか? そのくらいはやってもバチは当たらないと思うけど」
『これだけ大規模な施設だと、目当ての物がどこにあるかわからないが……まあ、あの魔物について少しくらい調べるならいいだろう』
――俺は破壊されたカプセルへ近寄った。魔物の能力については、当然カプセル近くにあると考えたためだが……うん、詳細な資料があるな。
「読めるけど、さすがに専門用語が多いしわかりづらいな」
『研究分野の話だからな。ただ、我なら何かわかるかもしれんぞ』
「なら、少し読み進めてみるか……」
資料を持ち帰って精査してもいいけど……と、俺は目当ての項目を発見。魔力障壁についてだ。
「えっと……ああ、理論ややり方については書いてるな」
『どれどれ……』
ガルクが読み始める。該当部分だけ抜き出して読んでも、果たしてどれだけ意味があるかわからないけど――
『ほう、なるほど』
納得するような声をガルクは放った。
「何がわかったんだ?」
『あの障壁だが、どうやら星神由来のものらしい』
「え? 星神……!?」
『といっても、それは魔力の質ではない。あくまで技術的な面だ』
「それって、星神が構築する魔力障壁がああいう風に構成しているってことか?」
『そのようだ』
これ、かなり重要な情報じゃないか?
『もしかするとここは、星神対策をするための施設なのかもしれん』
そしてガルクは語り出す。
『星神を相手にする際、当然相手がどういう攻撃をして、どのような防御をするのか解析した方がいい。我らは自らが強くなり、星神との交戦やリズファナ大陸で得た情報を基に分析、対策を構築したわけだが……魔王は、星神が所持する能力そのものに着目して、対策を練ったと』
「もしかすると、古代で星神が降臨した際の情報が……?」
『うむ、それに基づいてということなのかもしれんな。ただ、再び星神が降臨した際、同じ手法を使うとは限らない。魔王もそれはわかっていたはずだが……』
それでも倒すためには、これしかなかった……なんだか魔王の苦悩が見え隠れするような事実だった。




