強固な魔物
やがて俺は魔物を発見した。その姿は獅子を象ったものではあるのだが……、
「これは、ずいぶんとまあ」
『誰かの手によって作成された魔物だな』
ガルクが断定するのは、目前にいる魔物の姿を見れば一目瞭然だった。
というのも皮膚は黒を基調としているが、獅子だというのに青い鱗がそこかしこに存在している。頭部だけは唯一獅子に近しいが、四本の足はずいぶんと太く、俊敏な移動ができるのかとさえ思うほどだ。
「魔界に存在する動物を利用して、魔物を作成したとか?」
『あるいは図鑑などを参照して、見よう見まねで作成したのかもしれんな』
「一体何が目的で……」
『人間が住む世界への侵攻ではないか?』
ガルクの言葉に、俺はなんとなく合点がいった。シェルジア大陸……そこに侵略した魔王が到来したことで放たれた魔物。そうした個体は実験などを経て強化されたものだと考えることができる――
『魔物は大気中の魔力を吸収し、体を維持しているが……能力が高ければ高いほど燃費は悪くなるため、魔界と比べ魔力が薄い世界では強力な個体はそれほど現れない』
「魔王が勢力圏を広げれば、それだけ強力な個体を維持できる……で、あれは単純に強力な魔物を生み出したらどうなるか、魔王が実験したと?」
『我はあくまで推測だが、あながち間違ってはいないだろう。魔王が何の脈絡もなくあれほどいびつな魔物を生み出す道理がない』
確かに、俺が魔王との戦いで遭遇した魔物は、どれもこれもある程度はきちんと……目前にいるような、様々な要素の集合体みたいな個体はあまりいなかった。ゼロではなかったし、そうした個体は五大魔族なんかが生み出して実験していたなんて可能性もあるし、数そのものが多くない。
では、目の前の個体はどうなのか……魔物がうなる。その声は獅子というよりは、狼のそれに近しいものだ。
「……放っておいても、消滅しそうだけどな」
俺がそう語るのも理由がある。間近で観察していると、目に見えるほど魔力を放出しているのがわかる。自分の体内にある魔力を制御できず、吸収量より放出量が上回っている。そのうち魔力が全部外に出て塵になりそうだけど……こいつは魔力を求めてさまよっていると考えれば、被害を増やさないためにはさっさと倒さないといけない。
「……ガルク、周囲に気配はあるか? 俺はレスベイルを通して調べているけど、何もないな」
『我も同様だ。しかし、念のため調べないとまずいだろうな』
ガルクの言葉に俺が同意した直後、とうとう魔物が吠え――俺へ突撃を開始した。それは巨体を大きく揺らし、鋭さのカケラもないようなただただ力のみの突進。余裕で避けることはできたが……俺は、真正面から受けた。
剣を盾にして防ぐと、すさまじい力が伝わってきた。魔物の牙が俺の間近まで迫る。とはいえこちらは冷静に、一歩後退してその頭部に一撃を加えた。
魔物の咆哮が響き渡る。ただそれは痛みを誤魔化すようなものではなく、反撃を受けたため怒り狂った姿というべきものだった。
そして――魔物は口を開けて俺へ肉薄した。この様子だと、もしかして痛覚などがないのかもしれない……魔物動きに対し俺はさらに魔物に剣戟を加える。すると敵は口を開けたまま硬直し……やがて、倒れ伏した。
ここで一つ気になった点が。今の二度の攻撃は決して手を抜いたわけではない。結構な魔力を剣へ注いだが、魔物は一度耐えた。これは――
「魔族が苦戦した理由……それはたぶん、強固な結界だろうな」
『そのようだ』
魔物の体表面に、ずいぶんと密度の高い魔力障壁が存在していた。薄くはあるが、それを純粋な密度でカバーして相当な硬度を有していたみたいだ。それにより、俺の攻撃を一度耐えた。
『非常に独特な形勢の仕方だな。我としても興味がある』
「魔力障壁か……もしかして、それを実験するための個体なのか?」
『その可能性は十分あるな。とはいえ、シェルジア大陸侵攻の際は、このような障壁を発する個体はいなかったはずだ』
「そうだな……その辺りのことを含めて調べてみるか?」
『それが良さそうだな。場合によっては、掘り出し物かもしれんぞ』
ガルクがそう言うほどの……というわけで、俺は周辺の散策を再開する。魔物がどこからか這い出てきたとかだったら、研究施設の類いがあるかもしれない。
「ただガルク、一つ疑問があるぞ」
『ん? 何だ?』
「魔王が研究していた何かが今飛び出したというのは一応理由としては説明できるけど、ここは魔界だ。そもそも魔王は誰かに隠れて研究する必要性はなかったんじゃないか?」
『二通り考えられる』
「二通り?」
『一つは、星神を警戒してのこと。魔界にも関係者がいるかもしれないということを懸念して、独自に動いていた』
「……それだけ星神を警戒していたと」
『うむ、理由としては一応筋が通る……もう一つは、この研究が危険であることを認め、他の誰かに使わせないようにした』
「誰かって……同胞の魔族に?」
『回り回って星神のことを調べ出すかもしれんし、制御が難しい技術であったなら、反逆される可能性があると考えれば、理屈としては上等ではないか?』
なるほど、それなら……ともあれ、どちらにしてよ魔王は、
「相当な秘密主義だな」
『シェルジア大陸に狙いを定め、目的を成そうとした……五大魔族ですら、本当の目的については知らなかったことを踏まえれば、魔王は情報が漏れることが何よりまずいと考えたのだろう』
情報……ここでふと、俺は疑問が浮かんだ。
「魔王は、星神のことを俺達と同じように知っていたんだろうか?」
『わからん。この魔界という概念が形成されてから、どのくらい経つのか不明だが、もし古代技術が構築されている頃からあったとすれば、星神に関する情報があっても不思議ではないな』
「もしかすると、魔界を調べた方が効率が良かったのか?」
『それは魔王が研究していた何かが外に出てきたが故の疑問だな。我らはそうしたものがあることすらわからなかった。これでは調べようという選択肢が存在しない』
ま、それもそうか……と、会話をしている間に俺は、怪しい魔力が漂っているのを発見した。




