王女への確認
俺がバールクス王国の王城へ戻ってくると、ソフィアは少し驚いた様子で出迎えてくれた。
「もう終わったのですか?」
「シェルジア大陸は一通り見て回ったから、少し休憩だよ」
そう説明すると彼女は「なるほど」と応じる。組織の建物内を見回すと、人は増えていない。
「まだ誰も来ていない?」
「ルオン様が短期間で大陸を見て回ったためでしょう。皆様、まだここに来られるだけの時間ではなかったかと」
「そういうことか……まあ要所要所を見て回ったくらいだし、当然と言えば当然か」
「次は……ナーザレイド大陸に?」
「そうだな。アナスタシアとかと話をしたいし……と、その前に一日くらいはここにいるつもりだけど」
「ではお茶を用意しましょうか」
そう言ってソフィアが率先して準備をする……従者として共に活動していたから特段違和感ないけど、この構図はよくよく考えると変だよな。
「ちなみにソフィア、ロミルダは?」
彼女の傍にいる少女がいないことを言及すると、
「サラさんと買い物に行っていますよ」
ああなるほど、言われてみればサラの姿もないな。
少ししてソフィアがお茶を出してくる。礼を述べながらそれをすすっていると、
「ルオン様、バールクス王国の方も準備はできています」
「……わかった、ありがとう。本来なら、支援してもらうことから何かしらお礼も必要なんだろうけど」
「既にルオン様から受け取っていますので」
俺がソフィア達を救ったことかな……彼女の言葉に対し少し沈黙を置いた後、俺はお茶の入ったカップを置いて切り出す。
「ソフィアにも、言っておくべきだと思うから、ここで言うよ」
「……何でしょうか?」
「星神との戦いに、参加するのか?」
彼女はキョトンとなった。何を今更という表情で、
「正直なところ、私に聞くのはあまり意味がないのでは?」
「だとしても、確認はしておくべきじゃないか?」
「なるほど……当然、私は戦います」
ソフィアは頷く。ここまでは俺も想定しているのだが、
「……改めて、質問していいか?」
「どうしましたか?」
「俺に対する恩義や、やろうとしていることを支持している……だからこそバールクス王国ではクローディウス王やソフィアが支援してくれているのは間違いない」
「はい、そうですね」
「けど、それでもなお疑問は残る……なぜそうまでして戦うのか。正直、恩義だけで星神という強大な敵と戦うまで、決意するか?」
「……もちろん、他の理由もありますよ」
俺の問い掛けに対し、ソフィアはずいぶんあっさりと応じた。
「ルオン様をお守りしたいからという思いもあります」
「俺を?」
「大切な方を守りたいという心情は、至極当然でしょう?」
照れもなく言うソフィアに俺はあっけにとられたが……うんまあ、そういうことなら理解はできなくもない。
「ルオン様としては、ここまで支援したことに対し疑問を抱いているのですか?」
「そういうわけじゃないよ。ソフィア達が本気で星神との戦いに取り組んでいるのはわかる。正直、政治的な部分は関わっていないけど、俺がいることで色々と問題があるのも事実だろ? それでもなお、支援してくれるのは頭が下がる思いだよ」
ソフィアは俺の言葉に沈黙する。少なくとも大なり小なり、俺が独自に国公認で組織を作っていることは何かしら騒動の種になっているのだろう。
「戦いが終わったら、苦労を掛けた分だけ恩に報いようとは思うけどさ……正直、返せるかどうかわからないレベルだし、本当に良いのかと思って」
「……確かに、国の支援ともなれば、ルオン様としても大きすぎると感じるかもしれません。しかし支援というのは、決してこの国だけの話ではありません。最終的に、シェルジア大陸の各国と、他大陸……それらを巻き込んで、戦おうとしていますし、種族の壁も越えています」
果ては魔族とまで手を組んでいるわけだからな……俺が沈黙しているとソフィアはなおも続ける。
「ルオン様のお考えは理解できます。この話については幾度も行われてきたわけですが……今改めて、お伝えします。私達はルオン様に協力したいから、支援しているのです。そこは星神を放置すれば世界が終わるから……という考えもありますが、一番はルオン様の戦いを見て、ですね」
「……そうか」
「不安は消えましたか?」
「少なくとも、この段階で降りることはないってのはわかったけどな……ソフィア、この恩義を俺は返せるかな?」
「返す必要性はないと思いますが……」
「それでも、だ」
目を見て話す。ソフィアは少し無言となって、
「……なら、英雄としてこの国にいるのであれば、ルオン様の名声をお借りして、国をもり立てていくことでしょうか」
「それしか、ないか」
「ルオン様としては不本意かもしれませんが」
「でも、俺を利用するのが一番なら、俺はそれに従うよ。大変だろうけど」
クスクスとソフィアは笑う……俺と彼女は婚約している間柄だし、こうした話題は今更な部分もあるけれど……俺としては決戦前に納得できたし、それでいいか。
「話を聞いてくれてありがとう。さて、今日一日どうするか……」
「――ルオン様」
ソフィアが声を発した。先ほどまでとは一変、どこか緊張した声だ。
「どうした?」
「先の話題と関係があるかと言われれば微妙ですが……その、頼みたいことが」
「俺に? できることがあれば応じるけど」
ソフィアは小さく頷く。ん、なんだろう。これまでのハキハキした態度ではなくなっているんだけど。
「……ガルク様」
するとここでソフィアは俺ではなく神霊に話し掛けた。
「申し訳ありません、これから話す内容は王家に関わる話で、可能であれば他の方には……」
『良いだろう、我はルオン殿から離れることにしよう』
子ガルクが現れて、その姿が消える。俺の身の内で気配がなくなると、ソフィアはそれに気付いたのか。
「では、お話をさせていただきます」
「ああ」
「今から、行ってもらいたい場所があるのです」
王家に関連するということで、何か重要なことがあるのか……と、ソフィアが緊張した面持ちで話した内容に――俺は、目を丸くしたのだった。




