変化、成長、進化
大陸南部へ俺は赴き、まずは鍛冶師であるガナックの下へ挨拶へ向かう。
魔王との戦いの際、ソフィアとシルヴィに合う剣を作成してもらった……ということで顔を出す。彼は相変わらず仕事をしていて、とりあえずソフィアの素性の一件などについては俺の口からは喋らなかった。
ただ、剣が役に立ったということは伝え……ガナックはそれで満足したようだ。
そこから進路を海へ向ける。海岸に辿り着いた後、ガルクがアズアへと呼びかけ――結果、夜の時間帯に会うこととなった。
『ずいぶんと、面白いことをやっているな』
人が見咎められないような岩陰でアズアと会って話をする……のだが、普通こういう場所は男女が密かに、みたいなシチュエーションを想像されるのだが、そこで神霊と顔を合わせるというのはなんだかシュールである。
で、俺の行動についてアズアの基準では面白いという評価らしい。
『旅の思い出を振り返る……か』
「何か感じ入るところがあるのか?」
『別に何か過去があるというわけではない。ただ、人というのは……そういう風にやってきたことを思い返す。その事実に、興味を持っただけだ』
ガルクはどうかわからないけど、アズアの価値観としては気になることらしい。
「それでアズア、そっちの進捗は?」
『準備については大方終了した。近いうちにアマリアと話をして、魔王城へ向かうことにする』
「そっか。最後の戦いになる……よろしく頼む」
『ああ』
よし、ということで話は終わり俺は町へ戻ろうとしたのだが、
『一つ、確認したいことがある』
「どうした?」
『今回の敵は、神霊ですら恐れるほど巨大な存在だ。正直、それを倒そうと考え活動している姿を見て、人間達は大丈夫なのか、と疑問に思うほどだった』
……敵の巨大さを鑑みれば、仲間の誰かが言ってもおかしくないような内容である。
『だが、それでも立ち向かおうとしている……それは、この世界の因縁を断ち切ろうとするためか?』
「正直なところ、そこまで高尚な理由じゃないよ」
俺は肩をすくめながら、アズアに返答する。
「俺が戦う理由は単純だ。星神を討てる可能性がある……なおかつ、この世界の……ひいては賢者が施した策について、真実を知った。もし戦う力がなければ、俺は何もせず星神が降臨しても……いや、魔王との戦いだって何もしなかったかもしれない」
話を聞くアズアは、沈黙を守っている。
「けれど俺は、打開できるだけの能力があった。そして、やろうと思った……そこにあるのはいずれ世界が終わるとわかっていたから……極論言えば、ソフィアを守りたいと思ったから。それに尽きるな」
『王女を、か』
「星神を倒すことは世界を救うことに繋がるけど、そこまで大きく考えているわけじゃない。俺の行動原理はもっとシンプルだよ。身近にいる人達を救う……ただ、それだけだ」
『なるほど、な』
「世界を救う! と豪語した方が良かったか?」
『どちらでも良い……が、崇高な理念を掲げるよりは、その方が親近感は湧くな』
親近感、という言葉がまさか神霊の口から出てくるとは。
『私は星神との戦いについて、当初は積極的ではなかった。ガルクやフェウスが動いているのを見て、それに応じようと考えたまでだ』
そしてアズアは自分の考えを俺へと伝える。
『だが、全力で動くガルクを見て触発された……そこにはおそらく、ルオン殿が戦おうとしている、という要因が大きいだろう』
『我が大きく動いているのは、友人のためだからな』
そうガルクは口にする。なんというか、くすぐったい気持ちだな。
『神霊と人間が、か……いや、そういう風に区別することもまた、変えていかなければならんということか』
「別に今後、人間と接するようになんて言うつもりはないぞ」
『わかっている。しかし、神霊という存在のあり方を考え、どうしていくか……それを考えるきっかけかもしれん』
『うむ、そうだな』
ガルクも賛同する。神霊達にとって、今回の戦いは考えを改めるきっかけになったようだ。
『とはいえ、それほど難しい話ではない……過去、我らは人間に奉られていたこともあった。現実にいる超常的な存在……しかし人間達が独自に技術を発展させていく中で、次第に信仰心などもなくなった』
『それが良いのかどうかは、個々の判断に委ねられるがな』
と、アズアは俺へ告げる。
『ガルクはそれが人の変化だと捉えた。フェウスは成長と名付けた。そして私は、進化したと定義した』
「三者で考え方が違うんだな」
『そうだ……とはいえ、決して否定的な捉え方ではなかった。私達を崇めることで、様々な思惑も存在していた。それを疎ましいと感じるのも、私達の考え方次第ではあったが、神霊という存在に頼らずとも進んでいけるという事実は、少なくとも私達の考えに変化を与えた』
『今回の戦いもまた、変化を呼び込むことになるだろう』
アズアに続きガルクが言う。
『それが良いことなのか、あるいは悪しきものとなるのかは、我々次第というわけだな』
「……以前のように崇める人が出てきたらどうするんだ?」
『それもまた人の選択だろ。我らがどうこう言うつもりはない……我らから離れた人間が再び元通りになるとすれば、フェウスやアズアの見解は気になるが』
『ただ盲信しているのとは違うだろう』
と、ガルクにアズアは反論する。
『超常的な存在として捉えるだけではおそらくない。とすれば、あり方も違ってくる』
『うむ、違いないな……ルオン殿としては、どう思う?』
「正直、神霊との関係をなんて考えながら戦っているわけじゃないからな。俺は単純に魔王との戦いで神霊と協力するきっかけを作り、それが今まで続いている……くらいしか思っていないよ」
『その気になれば、ルオン殿は神霊を従えて王にでもなれるぞ?』
「そんな野心があったらとっくの昔にやっているさ」
返答した矢先、ガルクとアズアは笑った。
『うむ、ルオン殿ならばそう言うだろうな……我らはだからこそ、共に戦っているのかもしれん』
「なら、最後まで付き合ってもらうからな」
『無論だ。アズア、よろしく頼むぞ』
『ああ』
アズアの返事を聞いた後、俺は海岸を離れたのだった。




