星神の――
アランからは見えていないが、気配でソフィアがいることは伝わったらしく、反転して剣を振るか俺に応じるか明らかに迷いが見えた。だから俺は一気に距離を詰める。アランに取れる選択肢を潰すためだ。
そして彼は、もう俺を迎え撃つしか方法がなくなった。それと共にソフィアの剣が彼の背中へ入る。直後、
『――が、あああっ!?』
声を発した。なぜなら彼女の剣は、まさしく俺が収束している魔力と同一のものであったためだ。
『貴様、魔力を共有……!?』
その通りだ。訓練の成果……星神を打倒するための技術が、ついに日の目を見ることになった。
俺だけでなく、ソフィアもまた同様の技法を扱える……実際は俺が収束させた魔力の質をそのまま融通しているだけだ。彼女は自ら練り上げているわけではないため、剣に収束させた魔力が消えれば効果もなくなる。だが、魔力共有という技術を得た俺とソフィアは、延々と融通し合うことでこの問題点を解消した。
なおかつ俺はソフィアの魔力を受け取ることで、共鳴のような効果で魔力を強化する。よって俺の剣も先ほどと比べ威力が増している――
俺の剣がアランへ入った。直後、もはや声を上げることすらできず、彼は目を見開く。
『――これが、貴様らの』
その時、俺はアランの瞳の奥……そこに、何か別のものが宿っていると悟った。
「ソフィア、後退!」
反射的にそう指示を出した。彼女は一瞬驚いた様子を見せながら、こちらに従いアランから距離を置く。
俺もまた大きく退いた――直後、アランの体が爆発した。いや、それは魔力が火山噴火のように上空へ放出された、という表現が近い。
ここで俺は先ほどの瞳……何か宿っているという光景を思い返す。
「……そうか」
そして理解する。ここでソフィアが俺の横へ戻ってきて、
「ルオン様、一体何が?」
「アランの目……あの奥に、人間とは違うような意識が宿っているように感じられた」
「人間とは違う……それは、精霊ウィスプですか?」
「ああ。ローデンによれば、精霊を基盤として星神のまがい物は生まれた。となると、最初の光……あの本体は、精霊ウィスプのものだったのかも――」
俺が見解を述べた時、アランに変化が訪れた。その体がグニャリと歪んだかと思うと、人型から形を変えていく。
例えるなら、それは獅子……どういう理屈でそのような姿になったのかは不明だが、明らかにこれまでと様子が違う。
『ああ、そうか……そういうことか』
だが声は、アランのものから変わっていない。
『全てを理解した、俺は、私は……』
獅子が吠える。その声がアランであるのは、星神が精霊ウィスプをベースに、人格についてはアランのものを主体に採用しているためだろう。
この辺りは確実に、星神の嫌らしさが入っている。つまり俺達にアランの姿を見せることで反応を期待しているわけだ。でなければ、わざわざ人格ベースを彼にするはずがない。
再度吠える獅子は、口調はアランだがその理性は消し飛んでいるように見える……正直、人間のような知性を持っているのであれば、相手の動きに応じてとかも可能だし、動物的な本能を前面にという相手であれば対処は難しくないのだが……目の前の存在は、そのどちらとも違うような気がした。
では、どう立ち回るのか……俺は獅子の動きを注視する。飛びかかってくるのであれば単純な攻防であるため、上手くいなすことはできるはず。しかしそれ以外の行動に出た時は――
刹那、獅子が動いた。ただそれは明らかに俺達を狙うのではなく、
「逃げる気か……!?」
足の軸が明らかに横に向いていた。次の瞬間、俺が足を踏み出すよりも前に獅子の体が横に跳ぶ。
もしこの場所から逃がしてしまえば、大惨事になることは間違いなく……俺とソフィアは追随したが、獅子の速度は俺達の想定を一歩上回っていた。初動の時点で相手は大きく距離をとり、そのままこの戦場を離脱しようとして――
ガン! と一つ大きい音がした。それはどうやら障壁か何かにぶつかった獅子の音。これは仲間の援護……既にこの戦場になっている場所は隔離されているわけだ。
獅子は即座に吠えて爪を障壁に立てた。物理的に破壊するつもりのようだが、上手くいっていない……もし人間の姿でアランが全力を尽くしたのなら破壊の可能性もあった。しかしどうやら獅子の姿では理性をなくし反射的な行動で攻撃しているだけの様子。
ならば、と俺とソフィアは一気に駆け寄って獅子へ向け一閃した。それはどうやらかなりのダメージになったようで、動きを止めながらなおかつ魔力も大いに減った。
これは――俺はさらに追撃を見舞う。獅子は動きを止め、どう動きべきか考えあぐねている様子。ならばこのまま一気に仕掛け……そう思った矢先、獅子が再び光り輝いた。
また形を変えるのか……と考えた矢先、今度は球体へ逆戻りした。もしかすると魔力が減って形を保てなくなったのか。
「……ソフィア」
「はい」
返事と共に、その球体へさらなる攻撃を加えようとした時、光の魔力が膨らんだ。しかもそれは、今までとは比べものにならないほどの規模であり、
「これは……まさか……」
自爆する気か!? その予感が的中するように、光が一際大きくなり、さらに魔力も膨らんでいく。
結界があるため、さすがに周囲に被害が及ぶことはない……加えて俺とソフィアはおそらく大丈夫……だとは思うが、このまま爆発するより先に破壊するに越したことはない。もはやほとんど余裕がない中で、俺は足を前に出した。
それに呼応するようにソフィアもまた続く……俺と彼女はまったく同時に魔力を刀身に集めた。それは魔力を共有することで際限なく膨らみ、もはや不定形となってしまった星神に対して決定打をもたらそうとする。
いける、と判断した直後、俺とソフィアの剣戟はしかと光に叩き込まれた。一気にしぼんでいく魔力と、収まっていく光。星神のまがい物は破裂することなく、急速に消え失せようとしている。
俺とソフィアの剣が、星神という存在を打倒した……目の前の個体は星神本体と比べれば力の規模は低いだろうが、俺達は確かに……鍛錬の成果により、星神の力を持つ存在を打倒したのだった。




