人を捨てる
フオン――形容するとしたら、そんな音だろうか。一瞬光がさらに強くなったと思ったら、すぐに収まった。
だが、魔力が鳴動しているのを感じ取る。そこで俺とソフィアは選択に迫られた。すなわち、このまま攻め寄るか一度様子を見るのか。
「ルオン様――」
ソフィアが名を呼ぶ。視線を送ると決意を秘めた顔が。それで俺も、決断する。
「このまま――仕掛ける!」
俺とソフィアは同時に駆け出し、光に対し間合いを入れ、同時に一閃した。剣には十分な魔力が備わり、例え魔族であっても滅ぶであろう一撃……そして光に、刃が入った。
ザシュ、と音が一つ鳴ると共に、光が大きく揺らいだ。途端に光が秘める魔力が減少し、効果があると確信する。
ならば、このまま攻め立てて……と考えたいところだったが、先に光に変化が生まれた。キィン、と一つ音が生じると、魔力が急速に高まっていく。
俺とソフィアは即座に後退した。何かが今までと違う……そう確信したからこその後退。そしてそれは、想定通りの結果となる。
光の球体が突如しぼみ、凝縮していく。それが何であるか俺にはわからなかったが……どうやら光そのものが、何か別の形へ変わろうとしていた。
ならば、これから起こることは……俺はガルクから聞かされた、星神のやり口を思い出す。これまでヤツは、それこそ俺達がどういう反応をするのか……それを楽しもうという雰囲気がありありとあった。だからこそ、どういった形になるのか、推測できた。
正直、ガルクの推測は星神の特性だけに絞って導き出されたもの。その考え通りに事が運ぶとは、到底思えなかったが……光が人型になっていくのを見て、俺は確信した。
「ガルクの、言う通りになったな」
「では……あれは」
ソフィアが呟く。それと共に光が形を成して、完全な人となった。
加えてその存在は、俺が最後に見たのとまったく同じ姿をしていた。それは、
「……アラン」
星神によって連れ去られた、転生者アランの姿がそこにはあった。
俺とソフィアは一定の距離を置いて星神のまがい物――アランを観察する。最後に見た時と格好は変わっていない。ただ無表情で、髪も肌もどこか薄い……というよりこれは、
「あの人の形を象った存在、ということでしょうか……?」
ソフィアが疑問を呈す。確かに、見た目はアランで間違いないが、その気配はひどく希薄だ。
普通なら彼女のように考えるのだが、俺は違った。
「いや、これはおそらく……星神の手によって……」
『再構成されたな』
ガルクが言う。それにソフィアは眉をひそめ、
「再構成……?」
『当然、人としての気配は感じられない。かといって、星神がアランの力をローデンに与えて仕込んだというわけでもない……あれはアラン本人だ。ただし、その肉体はとうに死滅し、星神の手によって組み替えられた』
『――確かに、その表現がもっとも合っている』
声は、他ならぬアランからのものだった。
『星神という存在に飲み込まれ、力そのものとなった……確かに神霊の言う通り、再構成と呼ぶべきものだ』
「……アラン」
『勘違いしないで欲しいのは、この所業は完全に自分の意思だ。星神がどういう風にして欲しいか尋ね、それに乗っかった……そちらからしたら、愚かな行為だと思うだろう。だが――』
次の瞬間、異変が起こった。突然彼の顔が歪んだ。それは表情が変わったというレベルではない。顔の輪郭が変わり、さらに口元が一瞬文字通りなくなった。
けれど瞬きする程度の時間で元に戻る……それはまるで、3Dの映像でも見ているかのようだった。ノイズが走って体や顔が大きく揺らぐ……。
「俺は、ボクは――そう、これを望んだ。望んだんだ。力を、全てを、星神を、何もかも、手に入れるために」
「……もう、アランという人物は……」
ソフィアは剣を強く握りしめながら、呟く。俺は小さく頷いた。目の前にいるのは、確かにアラン本人なのかもしれない。だが、そのあり方はもう人間であった頃とは違う。それどころか、星神の影響を受けて人を捨て、人格そのものも破綻している。
「そう、こうしてローデンとかいう人間に近づいたのは全てお前達を殺すためだ。力を得て世界を壊して全てを壊して手に入れる。そのためには貴様を消す必要があった。全部お前が――お前が悪いんだ」
支離滅裂な言動は、おそらくアラン自身気付いていないのだろう……いや、俺はここで一つ思いついた。
「なあ、ガルク」
『どうした?』
「行方不明になっていた貴族がいるだろ」
『……まがい物を形作るために、取り込まれたか』
「可能性としては高そうだ。言動も口調も一定していないってことは、あの球体だった存在のベースがアランだとしても、そこに複数の人格が混ざった……そういう推測だとしたら――」
『何を話している? 何をぼうっとしている? この私が、完璧な私が顕現したのだぞ?』
俺の推測が当たっているとしたら、星神は……悪質極まりない。ローデンはこうなるとわかった上で策を施したのだろうか?
少なくとも人間が行方不明になっている以上、手を掛けたのは間違いない。ただ星神のまがい物を作成するための生け贄としたのだろうか? 不明だが、確実に言えるのはまさかこんな展開になるとは思わなかっただろう。
「……これが星神の仕込んだ、俺達の反応を期待するための策だとしても」
俺は魔力を高める。次いでソフィアもまた臨戦態勢に入った。
「アランという存在が目の前にいる……俺達で、決着をつけなきゃいけないな」
「はい」
『では、始めるか』
まがい物――アランが剣を抜いた。それは刀身の根元から光り輝いており、見た目は最後に見た時と同じでも、星神に取り込まれ別物になっていると確信できた。
『ルオン=マディン。お前の野望もこれまでだ』
「……野望、ね」
俺は苦笑しつつ、剣を構える。
「確かに、星神からすれば、自分を滅しようとする俺は敵だし、野望なんて言い方だってできるかもしれないが……悪いな、アラン。俺はあんたを倒して、星神を討つ」
『できる――ものならなあ!』
声と共にアランが動く――そうして、リズファナ大陸最後の戦いが始まった。




