舞台装置
俺が繰り出した剣戟に対し、貴族風の男性は真正面から受けた。
ここまで、他の四人を俺は一瞬で倒している。それを見てなお受けるのだから、目の前の男性はここにいた他の人と比べても実力が高いということがわかる。
双方の剣がかみ合う。押し込めるかと力を入れたが、相手は一歩も引かなかった。
そこで相手が剣を弾き、俺は数歩だけ後退する。反撃してくるかと身構えていたのだが、それはなかった。むしろ彼の行動は俺の力量を見定めているようにも見受けられる。
ふいに男性と目が合った。貴族風の冒険者。その容姿に見覚えがあるようなないような、と胸中で少し考え……答えが出た。
「……そうか」
小さく呟くと男性がほんの少し身じろぎして反応する。
「お前は……ヴィム=ファルナーか」
その言葉に男性は反応しなかった……が、理解できる。それが答えなのだと。
この人物については多少なりとも知識はあった。見た目的に貴族の格好をしているが、実際に高貴な家系の生まれだった。しかも没落した俺の家とは違い、現在も地位を確保している。
なおかつ、目の前にいる人物であるヴィムはそれこそまたとない力を持ち、ファルナー家において最高の力を持っていると言われていた。その実力は高く、多数の仲間を率いて様々な功績をもたらした。
つまり、それだけの偉人であり実力者。家柄も正当なものであるとすれば、文句のつけようがない人物だ。
「……ああ、そうか」
ふいにヴィムの口から言葉が漏れた。
「思い出したよ。君は……ルオン=マディンか」
「正解だ」
「こんなところで会うということは……理解できた」
微笑を浮かべるヴィム……けれど俺は笑えなかった。
なぜ、俺はヴィムのことを知っているのか……答えは簡単だ。それは前世の知識。
彼は『エルダーズ・ソード』シリーズの三作目『ダーク・ガーデン』に登場する冒険者の一人であるためだ。
ただ、役回りとしてはかなり悪いものとなっている。なぜなら先にあげたプロフィールにより、ゲーム上における彼の性格は傲慢なものになっていた。なおかつ今以上に家柄の価値を高めるべく邁進しており、冒険者稼業をやっていたのは迷宮に眠る宝などを手に入れ、それを資金としてさらに政治的に権力を高めようとしていたのだ。
冒険者が一攫千金を夢見るのとは一線を画している……なぜ迷宮攻略なんてものに頼ったのかゲーム上ではわからずじまいだったのだが……ともあれ、ゲーム的には嫌なライバルという位置づけだった。
そしてそんな立ち位置だったからこそ、彼の末路は悲惨だった……最期は主人公が踏み込んだとある迷宮。そこで凶悪な竜と遭遇し、ヴィムとその一行は交戦していた。しかし圧倒的な力の前に仲間達が逃げ出し、ヴィムは逃げるなと警告を発しながらなおも戦っていたのだが……やがて魔法を食らい、倒れ伏す。
ゲーム上の演出としては、竜にやられてその体は消えてしまうのだが……死亡したと解釈していいだろう。主人公が立ち寄る迷宮で幾度となく出会い、高圧的に仲間と接して孤立し、最期は見捨てられる……戦っていた竜は主人公よりも先行して迷宮を攻略していたヴィムを圧倒するほどの力を持っている……凶悪さとその強さを演出するための、舞台装置というわけだ。
そういう意味では俺もまた同じだ。ルオン=マディンという人間は元々、賢者の血筋である人間の取り巻きとして登場していた。ゲーム上では死ぬことになるわけで……いや、もし俺という転生し知識を持つ人間が出てこなければ、間違いなくルオン=マディンという人間は死んでいたのだろう。
それは目の前にいるヴィムも同様であり……こちらが沈黙していると、ヴィムは笑みを収める。
「この大陸へ入り、情報を集めた段階で知っている状況と違うとわかった。とはいえそれは些細な違い……ローデンに進言したけれど、問題はないとして、僕らは粛々と星神を地上へ出すために活動をしていた」
「けれど、俺達が……か」
「ルオン=マディンであるのなら、間違いなくこの状況を作り出したのは……君だろう」
「なぜ俺だと断定できる? そっちには幾人も転生者がいる。こっちにだっていると思うのが普通だろう?」
「君しかいないさ。死を回避し、あまつさえこの場の人間を即座に倒せるだけの実力を持つ……まだ力を隠しているだろう? 僕にはそれがわかる」
こっちの能力を看破しているのかは不明だが、少なくともヴィムにはある程度見えているらしい。
「……なぜ、星神を降臨させようとする?」
「ローデンならば、答える必要がないと切り捨てる質問だね。けれど、僕は違う」
答えを言うのか……? じっとこちらが注視していると、ヴィムは再度笑う。
「僕が何か喋ると思って、意外に思っているのかな? 僕としては、別に話してしまっても構わないと考えているのだけれど」
「取るに足らない話、というわけか?」
「そうだね。実を言うとローデンから喋ってもいいと言われているんだよ。何かこちらが抱えている……駆け引きの材料にすることも可能だけれど、正直今の状況では使えないしね」
「……単に世界を壊したい、というわけじゃないだろうな」
「当然だ」
俺の指摘に即答するヴィム。
「そんな理由なら、僕は君と戦っていないさ」
「なら、何故だ?」
沈黙が生じる。時間稼ぎの類いであるのを警戒して使い魔で町中を観察してはいるが、変化はない。王城についても問題はない。
ローデンが出てくれば、即座に対応したいところではあるのだが……静寂は三十秒ほどだろうか。たっぷりを間を置いて、ヴィムは口を開いた。
「星神は、この世界を壊す。より正確に言えば、地上に存在する全ての生物を狙い撃ちにする。そうして全てをまっさらにして……その先に、得られるものがある」
「何……?」
得られるもの? 俺は『エルダーズ・ソード』の一作目を思い出す。それは賢者が見たい未来……世界が崩壊した後の世界。ゲームの主人公達たくましく生き、やがて冒険を始めるわけだが――あの未来へ行くということは、世界が崩壊することを意味する。
それを果たして何になるのか……やがてヴィムは、俺へ向けて言った。




