国への使者
現段階で可能な限り準備を済ませた時……エメナ王女から連絡が来た。時刻は夕方前。本来は新たな情報……そういう趣旨であり、また資料も送られてきたのだが、
「緊急の用件……?」
資料の他にそういう風に提示されたものがあった。情報のやりとりは王都からの距離を考えると数日はかかるのだが、今日ばかりは王都を出発してから半日もかからずここへ辿り着いたらしかった。
「何が書いてあるんですか?」
ソフィアが尋ねる。ふむ、俺は資料を一読する。そして、
「……そう来たか」
「ルオン様?」
「仲間達を全員呼んでくれ、話し合いをする」
――十五分後、屋敷にいる全員が会議室へ集まった。さすがに全員いては座れないので、立っている人もいるが……思い思いの位置へ全員がつくと、俺は話し始めた。
「エメナ王女によると、今日……朝方だな。王城に使者がやってきた。その人物が言うには『星宿りの戦士』に属する者だと」
『それはつまり、王族の動きを把握していたということか?』
ガルクが先んじて問い掛ける。
「そうだな。使者が言うには、王家が自分達を調査していることはわかっていると。調査の手法などから推察したらしい」
「何もかも知っているなら、俺達にアプローチがあってもおかしくないけど、そこんとこどうなんだ?」
アルトの言葉だった。俺は肩をすくめ、
「資料の上では俺達のことを知っているかは不明だ。ただこうなると、干渉してくる可能性はあるから警戒はしよう」
「王女達は無事なのか?」
「無事も何も、使者は王城の騎士に囲まれながら謁見の間で話をしたんだ。突然そんなことを言われて王様の方が戸惑ったくらいらしい」
まさか自分達から――俺達としても、さすがに予想はしていなかった。
「で、その内容だが……端的に言うと、国と交渉がしたいと」
「交渉?」
「星神に関する話について。国が技術をどうするといったものではなく、私達組織の処遇についてどうしたいのかを、きちんとした場で決めたいと」
「それだけ聞くと」
と、リーゼが俺へ向け話し始める。
「組織側が自分達の身を案じ先手を打ったという解釈になるわね」
「そうだな。組織側がどこまでわかっているのかわからないが……王族がレノ王子にちょっかいを掛けていることくらいは認識していると判断したのかもしれない。仮にそうであれば、組織内メンバーが勝手にやったことで組織そのものは関係がない……と主張したいように受け取れる」
「だとすれば、この大陸の騒動は終結するけれど」
「レノ王子に関連する事件……それが賢者の見た未来の一つだが、それを実行しようとする者がここで王族に捕まったりすれば、計画はご破算になるだろう。後は、その組織に関連する人物……つまり、手を結んでいた貴族なんかを王様が調査し、しかるべき罰を与える。これで終わりで星神降臨はなくなる」
「……しかし、そうではないと?」
問い掛けたのはソフィア。俺は一度資料を見返し、
「その場にはエメナ王女もいたらしいんだが、使者は明らかに普通の様子とは違っていた」
「様子?」
「普通、組織の誰かが勝手にやったことで、組織は見逃して欲しい……そういう交渉をするなら、平伏し王様に対し低姿勢で臨むものだろう。けれど使者は違った。その雰囲気は明らかに、その交渉に乗じて仕掛けてやろう、という気概を含んでいたと」
「それは……」
「敵意と、エメナ王女は資料に書いた……少なくとも、星神降臨についてはあきらめていないって感じだな」
「あえて王族に組織を晒し、時間稼ぎをやろうって寸法か?」
発言したのはラディ。彼の言わんとしていることは理解できる。
「むしろ星神降臨を狙っている人間は、組織を囮にすると……?」
「その可能性はある。使者の話を鵜呑みにするのはまずそうだ。現時点でわかることは、相手がとうとう表舞台に出てきたことだけ」
「これは明確に私達が動いた結果ですよね……」
ソフィアの言葉に俺は頷こうとしたのだが、考え直す。
「……いや、それもわからない」
「ルオン様?」
「調査により、判断したというのはもっともらしいが……正直、どこまでそれが本当なのかわからない。確かに見た目としては俺達が色々と介入した結果……特に、俺達の存在をエメナ王女や国王が知っているからこその変化だと考えることはできるが……」
「現時点では、情報が少ないわねえ」
と、アンヴェレートが会話に入ってきた。
「今はひとまず、私達は何をすべきか決めるべきじゃないかしら?」
「そうだな……話し合いを始める前にデヴァルスへ連絡を寄越すよう通達した。もし話せるのであれば彼から連絡が――」
噂をすれば、というタイミングでデヴァルスからの応答があった。話せるということなので、会議の席上で俺が説明を施し意見をもらうことにする。
「……これが、現時点の情報だ。デヴァルス、組織はどうなっている?」
『見た目上、まったく変化はないな。今は遺跡に関する情報を漁っているところなんだが……王様と交渉しているなんて話は聞かない』
「誰かが知っている可能性は?」
「ゼロではないが、考えにくいな。現時点までで、組織構成員の人となりは見てきた。組織の調査をされていることから、なおかつ交渉……そんなことになれば、大なり小なり様子が変わる人員がいてもおかしくない。しかしそういう気配はなかったから、末端の構成員は知らないんだろ」
「とすると、王家に関わっているのは組織の中でもごく一部……」
『だろうな。そいつらこそ、リヴィナ王子と共謀していた』
「使者の様子は殺気立っていたが、少なくとも交渉しようとしていることから、リヴィナ王子と関わっていたかと問われれば頷きそうではあるな」
『で、エメナ王女はどうするって?』
「こちらの意見も聞きたいため、資料を送ってきたが……ひとまず、話をする方針ではあるらしい。その中で、俺達はどうすべきか……正直、どのように話が運ぶかわからない。このままなし崩しに星神と戦う形になるかもしれない。よって、慎重に議論する必要がある――」




