対抗魔法
能力低下の魔法を解除する『ディスペルマジック』――この魔法により気配が悟られないことは検証済み。この魔法をシルヴィに向け放ち……ベルーナの放った『カオティックシール』を解除する。
「……何!?」
得意魔法を解除されたためか、驚愕の声をベルーナが漏らす。
「お前みたいに、こっちの力を減退させるという敵は、相手にしたことがある」
俺はベルーナを見据えつつ、語り出す。
「そいつにずいぶんとやられた経験があったからな……さっきの魔法、何かしらこちらの力を奪う魔法なんだろ? だがその魔法の効果を解除されたら、効き目がなくなる」
俺の言葉通り、シルヴィは治ったのか軽く肩を回し感触を確かめている。一方ベルーナは魔法を解除されたためか、俺に警戒の眼差しを送った。
標的を俺に変えたか……? その間に復帰したシルヴィとネストルが仕掛ける。即座にベルーナもそちらに視線を変え、対応するべく動き出す。
先んじて剣を放ったのはシルヴィ。彼女は得意の連撃主体の攻撃を繰り出すが、ベルーナはそれを上手くさばいてみせる。
そこへ、ネストルの攻撃。こちらは威力を重視した単発技……それも防いだが、今度はそこにソフィアが迫った。
使用する技は『清流一閃』――ベルーナがこの技の詳細を知っているかどうかは定かではなかったが、ソフィアの動きから並々ならぬものを感じたのか、視線を転じ見切ろうとするような所作を見せた。
だが、一歩遅い――シルヴィとネストルの攻撃により対応が僅かに遅れ、彼女の流れるような剣戟はベルーナに直撃。さらにソフィアは相手の背後に回る。
そこへラディが追撃の魔法。それは火属性中級魔法『ブレイズレイ』――炎をレーザーのような赤い熱線で繰り出す魔法で、見事ベルーナに直撃した。
さらに続けざまにベルーナの背後からソフィアが『ライトニング』を繰り出し、当たった。そこへ駄目押しのシルヴィの『天衝烈波』とネストルの突撃。四者の攻撃が全て直撃し、さすがにベルーナもタダでは済まないと確信する。
「……おのれ!」
ベルーナは吠え、反撃に転じようとする。だがそれを察知したソフィア達は素早く相手から距離を置いた。
先ほどの猛攻で結構ダメージが与えられたはず……しかしベルーナはまだまだ健在。ここからさらに攻撃を繰り出す必要がある以上、戦法も変えなければならないだろう。
現状、ベルーナを挟み込むような状況となっている。ネストルとシルヴィの二人が俺やラディの前に立ち、さらにソフィアが『清流一閃』により相手の背後に回っている。ベルーナは俺達の方を向いているが、背にいるソフィアのことは注意しているはずだ。
ベルーナはこちらの出方を窺っているようだが……沈黙する間に、ラディが動いた。先ほどと同様『ブレイズレイ』を使用する。
これはさすがに剣だけでは防げないはずだが……だがベルーナはまたも剣を構えた。直後僅かに魔力を発し……魔力障壁によって攻撃を防いだ。
だが、完全に威力を殺しきれなかったかベルーナは呻いた――同時、シルヴィが動く。
目にも止まらぬ動きで一気に間合いを詰めると、剣戟を放った。動きから汎用中級技の『瞬息の太刀』だ。威力はこれまでソフィアや彼女が放ってきた技より低いが、斬撃速度が他の技よりも上で回避される可能性が低く、さらにクリティカル率が若干上がるというもの。
さすがにクリティカルはでなかったが、攻撃は成功。ベルーナの体にまた一撃剣戟が入った。
「貴様ら……!」
さすがにイライラとし始めたか、ベルーナは叫ぶ。それと共にさらに魔力が生じ、強固な結界を張るような動きを見せる。
ここまで使用してこなかったのは、弱体化したため長時間強固な結界を生み出せないからだろうと見当をつける……ベルーナの能力は遭遇する魔物である程度推測していたが、もしかするとレドラス撃破からそれほど経っていないため、想定よりも弱いままなのかもしれない。連携により崩せているのが、その証拠だ。
とはいえ、さすがに強力な障壁を張られてしまうと手出しが……考える間にベルーナの背後に回ったソフィアが動き出した。生じた障壁を無視するかのように魔力を収束させ、刺突の構えを見せた。
この技は……レドラスも使っていた風属性の魔導中級技――ソフィアの武器は剣であるため、その名称も『ブラストレイピア』へと変わる。
風をまとわせた一撃により、障壁ごと刺し貫く気か……そう推測した直後、ソフィアは彼女の背中目掛けて突きを放つ。ベルーナはそれに気付いた様子だったが、障壁で防御する気なのかさらに魔力が強くなった。
果たして――ソフィアが突きを決めると同時、風が周囲に舞った。そして、
「ぐっ――!?」
明らかに、苦悶の声。障壁を形成しても、ソフィアの力が上回った――!
「続け!」
好機と悟ったか、ネストルが叫びながら仕掛ける。ベルーナは途端に剣を放つが、ネストルはそれを盾で上手くガードし、間合いを詰め剣戟を放った。
次いでシルヴィが動く。同時に放ったその剣にはソフィアと同様風の力。だがそれは魔導技とは異なる――間違いない、彼女固有技である『旋嵐剣』だ。
小規模な竜巻……といってもさすがにこの場で生じさせると味方も被害に遭う。だからなのかその風はベルーナの周囲を取り巻くように形成され、しかと彼女の動きを止めることに成功する。
ソフィアがすかさず『清流一閃』により斬りつつ立ち位置を変える。次いでラディが三度目の『ブレイズレイ』を行使し、身動きのとれなくなったベルーナにしかと魔法を刻み付けた。
さらに攻撃は続く。シルヴィが『天衝烈波』の構えをとった直後、ソフィアがさらに刀身へ風をまとわせる。
これはおそらく『風華霊斬』――以前使った時は周囲に風の刃などを散らしていたが、イーレイのところで修行したことにより制御できるようになったということだろう。
シルヴィが先行し技を放つと、一歩遅れて風の塊を叩きつけるソフィア。障壁を形成しているはずのベルーナだが、ここまで連撃を叩き込まれればさすがに無事では済まないだろう。場合によっては倒すことも……そう思いながら風により吹き飛ぶベルーナの姿を捉える。
魔族はそれでも倒れるようなことにはならなかった。広間奥で動きを止め……俺達が警戒する中、視線を向けてくる。
「……まだだ」
声と共に魔力が生じる。『カオティックシール』は俺が解除するため意味がない。となれば、次に考えられるのは……攻撃魔法か。
魔力が一気に湧き上がってくる。直後、俺は何が来るのか悟る。地属性中級魔法『グランドデトネーション』――魔力により岩を形作り、それを爆裂四散させる魔法である。
ゲーム上では魔法使用者の前方から放たれる範囲系魔法に属するものだが、効果範囲が広く、使用者の立ち位置によっては戦闘フィールド全域を覆うほどになる。威力も中々のもので、まともに食らえば今のソフィア達では危ないかもしれない。
俺は即座に詠唱を始める。魔法発動までに僅かだがタイムラグがある。それまでに……考えている間に、ベルーナの魔法が発動した。
「死ね!」
宣言と共に魔力により形成された岩が、突如四散し俺達へ襲い掛かる。ソフィア達は全員障壁を厚くしたようだったが……それでも無傷は厳しいだろう。
だからこそ、俺が――考えながら仲間達に『アースシールド』を使用する。地属性魔法に対し耐性防御を与える魔法で、魔力が漏れ出ないギリギリの出力。ベルーナが発する魔力出力を考えれば、これで――
刹那、岩が俺達へと飛来した。




