能力の限界
エメナ王女の言葉に、リヴィナ王子が身じろぎしたのは俺は見逃さなかった。それはおそらく、王女が推測で述べたことが正解であると言外に語っているようなものだった。
「私を政治的に排除しようとしたわけではない。それもありますが、あくまでそれを建前にして、私の力を得ようとした……この事実は王子の周囲にいる騎士達にも話していない。そうですね?」
「……なぜ、そのような結論に至る?」
平静を取り戻したリヴィナ王子はエメナ王女へ問い掛ける。すると彼女は、
「情報を持つ方に問い掛けた内容は……例えば、人を犠牲にして……その魔力を活用して何かしら魔法などを構築できないか、というものでした。結論から言えば、あるとその人物は答えました。どれだけ私を殺める理由を考えても見当たらなかった。だから考えを変えました。私を……私を絶対に殺さなければならないという理由が存在する。私の持つ力を利用して何かを成そうとしている」
「仮にそうだとして」
リヴィナ王子は眼光鋭くエメナ王女を見据える。
「その理由までわからないのであれば、単なる憶測以上のものにはならない」
「ええ、そうですね……しかし、ここで私だけが知っている事実を……それを考慮に入れれば、結論が導き出せる」
王女だけが知っている……? と、ここでエメナ王女は微笑を見せた。殺気立っているこの場にはあまりにそぐわない、不思議な表情。
「私は兄上のその行動を、知っていました。けれど意味はわからなかった。手に入れた技術で何か実験しているのだろうという見解だったし、旅の途上でも同じでした。けれど、それがなんであるかを知った時、結論が出ました」
「何を……知っているというんだ?」
リヴィナ王子の顔が強ばる。それと同時に俺は一つ確信した。
俺達が全てを語ったからこそ、エメナ王女は星神の技術についてより詳しく知ろうとした。人を犠牲にする技術の知識は領主フォルナから得たものだろう。それは全てを理解し、王子のことを知ろうとした……その結果、彼女は何かを手に入れた。
「……兄上」
エメナ王女は真っ直ぐ自身の兄を見据え、
「病に……侵されているのですね?」
その言葉に、俺達は一斉に顔を見合わせた。まさか……賢者の見た未来においてもわからなかった事実。
無論、王女が当てずっぽうで語っているだけかもしれなかったが、他ならぬ王子が沈黙し、目を細めている様子から正解なのだと察することができた。
「しかもそれは、私を殺め力を得ようとするまで考えた以上……不治の病。いえ、古代の技術を使わなければ治らない病、と言うべきでしょうか」
エメナ王女の言葉にリヴィナ王子は沈黙する。周囲の騎士も動揺しているのか、しきりに王子に視線を向けている。
「……なぜ、賢者の未来でこれは見えなかったのかしら」
と、ふいにリーゼが疑問を呈した。
「星神の降臨において、不必要な情報だった?」
「というより、さすがにそこまで観測できなかったって話だろ」
俺は息をつき、リーゼへ返答する。
「賢者の未来はあくまで星神の降臨にまつわる部分だけを語っていた……王子は途中退場することを踏まえれば、その動機まで観測する必要性は薄かった、とか」
俺はゲームを通して魔王へ戦いを挑んだわけだが、そこでは大なり小なり仲間の思惑とか、あるいはどういう感情を持っていたかとか、そういうのをある程度理解することができた。けれど今回のリヴィナ王子についてはそういうわけではない。ここの大きな違いはやはり星神との戦いへ繋がる途中で退場するところにあるのだろう。
魔王の思惑を賢者の未来が看破できなかったように、いかに賢者の能力とはいえ限度がある……けれどエメナ王女は知識を得たことによって、リヴィナ王子の奥深くへ踏み込むことに成功した。
「……なるほど、な」
そしてリヴィナ王子は、沈黙の後に呟く。
「どうやら私はエメナを侮っていたようだ」
「兄上……」
「辿り着いたからこそ、真実を語ろう。そうだ、私はいずれ死ぬ。遠からず……数年以内に、な。しかしそれを防ぐ手立てが存在する。それこそ、古代の技術だ」
「だからこそ、私を……」
「親族の近しい存在の魂を用いる必要性があった。そしてエメナは霊峰を訪れ、なおかつ古代の技術に懐疑的だった……これが、刺客を放った理由だ」
「全ては……国のためですか。それとも……兄上自身のためですか」
――リヴィナ王子自身、苦悩したはずだ。けれど最終的にエメナ王女を手にかけることを選択した。それはつまり、
「本心を言えば、自らのことを最初は考えたさ。死にたくはない……だが、それ以上にこの国をより繁栄させなければ……そのような考えに至った」
リヴィナ王子は剣の切っ先をエメナ王女へ向ける。
「私が不祥事で継承権を失えば、父上はエメナを次の継承者と定めるだろう。だがエメナ、お前は技術に懐疑的だ。古代の力は脅威であり、魂を用いずとも今の技術で治療不可能な病さえ治せる。進歩が遅れれば、それだけ民の死も増える」
「だからこそ、排除という意味合いもあった」
「そうだ。愚かだと思えば存分に言え。侮蔑するならいくらでもしろ。だが私は、決断した。両手が血にまみれようとも、この道を進むと」
……自らの保身という要因も大きいとは思う。だがリヴィナ王子は古代の技術で多くの人を救えることを知ってしまった。その事実が、自分こそ王として国を発展させなければいけないという感情に結びついた。
ただ、俺は少しばかり疑問が生じた。理由は二つあり、一つはリヴィナ王子の言動……理由としては筋が通っている。ただ、自分の妹をここまで容易く手に掛けるだろうか?
王子の口からはエメナ王女に対する憎しみなどは存在していない。国にとって邪魔ということであり、私怨はなさそうな雰囲気。そこまで国のことを思って……王女を始末するというのがどうにも結びつかない。
加え、不治の病……本当なのか? 俺達が知った賢者の未来でもリヴィナ王子のことは今回の事件以降出てこないが……ここにも妙な違和感がある。
どちらにせよ、リヴィナ王子の主張からすれば戦いは避けられない。疑問点については、いずれ解き明かすとして……と、ここでエメナ王女が一歩進み出た。




