謎の女性
「そうね、確かにあなたに話し掛けた理由は存在する。ただ、それを言う前に確認させて欲しいことが」
「俺に答えられるものなら」
「名前を教えてくれる? あと、出身地」
……大陸外の人間だとするなら、どういう反応をするのだろうか。そこだけが気に掛かった。ただまあ、さすがに偽名を名乗ったりすれば、信用がなくなるよな。
というわけで、正直に答えることにする。さて、どうなるか。
「ルオン=マディンです。そして、俺はこの大陸の出身者ではありません」
「……へえ?」
興味を抱いたのか、俺を注視する女性。
「それはつまり遺跡について調べるために、この大陸を訪れた、と?」
「そういうことになります。このトルバスという都市が特に資料が多いと聞いて」
「リーベイト聖王国へは行かなかったのかしら?」
「辿り着いた港から、こちらの方が近かったんですよ。ここを調べたらもちろんあっちにも行きます」
そんな返答をした後、女性は沈黙した。視線はこちらへ向けてくるのだが……ふむ、例えるなら品定めをしているような感じだろうか?
俺という存在を見極めているというか……なぜそんな態度になるのか俺としては首を傾げる他ないのだが。
「そう……ちなみに、どこから来たか聞いても良い?」
――バールクス王国から来ましたと言ったら怪しまれるか? 会談をしたという話は世間にも出回っているけど……いや、さすがに姿を見られていなければ関連を持たせようとはしないか。
別にこの大陸とシェルジア大陸とは国交が閉ざされているわけではないからな。たぶん他の大陸から訪れている人だっているだろう。よって、答えることに……ただ一応、大陸名から言うとしようか。
「シェルジア大陸ですよ」
「そう、遠いところから来たのね……」
生返事のような声が俺へ向けられた次の瞬間、
「……なるほど、ね」
小さな呟きを俺は確かに聞いた。何に納得したのかはわからないが……ふむ、俺に害をなそうという気配はない。あくまで純然たる疑問を口にしている様子ではあるのだが、一体どういう意図があるのか。
「わかったわ、詮索してごめんなさい」
「いえ、別に大丈夫ですよ」
「トルバスには滞在するのかしら?」
「資料を精査しないといけないですし、時間は掛かるでしょうね」
「明日も、ここへ来るのかしら?」
「俺がですか? たぶんそうだと思いますよ」
遺跡に関する情報を持っているとしたら、少しくらい接触しても問題はないだろう。怪しい動きをしてきたのならば、相応の動きを見せればいい。
「なら、同じ時間くらいにまた来るわ」
「ここに?」
「ええ。もしかすると……あなた達に有益な話をして上げられるかもしれない」
それは――どういう話なのかを問い質す前に、俺は別のことを尋ねた。
「あなたがそれをして、何のメリットが?」
「こちらにもそれなりにあるのよ……利益が」
それだけだった。詳しいことは話さず彼女は席を立って去って行った。
一応、使い魔で観察とかするか……? 一般人っぽいし、もし使い魔で観察していることがバレたら面倒だけど……逡巡した後、俺はひとまずやめておいた。物腰から戦士ではないけど、魔法使いっぽい雰囲気はあった。この大陸の技術についてはわからないこともあるし、場合によっては露見するかもしれない……何かしら情報を提供してくれるのであれば、変に怪しまれないようにした方がいい。
どういう話をするのか気になるし、女性側がメリットを受けるというのはどういうことなのか? それと、名前を名乗らなかった。たぶん俺が問えば答えたと思うけど、聞きそびれた。
「明日、か……ま、来ないのなら来ないでいいけど」
図書館内だし、さすがに騒動が起きるなんて可能性も低いだろう。俺は一呼吸置いた後、作業を再開することにした。
やがて昼を迎え、俺は一度食事のために仲間達と集合することにした。大通りの所定の場所で合流し、適当な店に入って注文を済ませる。料理が来るまでに進展したかどうかを確認したが、ソフィアもカティも状況は芳しくない。
「資料がたくさんありますし、まとめるだけでも大変そうです」
「こちらも似たようなものよ。それに私の方は学院関係だから、さらにややこしい」
特にカティは面倒そうにため息を吐くほどだった。
「ルオン、そっちの資料は?」
「多いは多いけど、一人でどうにかなりそうな雰囲気ではあったよ。ただ俺達が求める情報が見つかるかは……判断は数日くらいでできると思う。こっちの作業が一段落したら、カティの方へ加勢に向かった方がよさそうか?」
「そうしてくれるかしら」
「あ、それと一つ……」
女性に関して話をする。唐突な状況にカティは首を傾げ、
「うーん、その人はどういうつもりで接触したのかしら?」
「自分にもメリットはあると言っていたから……冒険者風な俺を見て、遺跡探索の仕事を依頼できる人間に見えた、とか? 好意的に捉えればだけど」
ここへ来るまでに色々と考えたのだが、候補として浮かんだのはそのくらいだった。
「明日同じ場所で資料を漁っていればまた現われるだろうから、その時に真意は聞こうとは思うけど」
「そうね……その女性によって話が大きく進展するとかあったら面白いけど」
「可能性は低いと思うけどなあ……ま、期待しないで午後からも頑張ろう」
「そうね」
「はい、わかりました」
「リーゼとフィリは何かあるか?」
首を向けると話し始めたのはリーゼ。
「トルバスの現状について調べたけれど、特にこれといって何もなかったわ。平和で人の往来が多くて活況。それがこの都市の現状ね」
「情報源はギルドとか?」
「そうね。周辺には人の手が入っていない山岳地帯とかもあるから魔物討伐依頼とかもそこそこあったわ。滞在費を稼ぐには良いかもね」
「わかった……少なくとも資料を精査する数日間はそちらも情報収拾を優先してくれ。まあリーベイト聖王国との関係も良好みたいだし、騒動になるようなことはないだろうけど」
「あるとすればエメナ王女がここにやって来て……かしら?」
「だとは思う。そうなったらそうなったで、また考えよう」
そこで料理が来た。俺達は午後からの調査に備え、食事に集中することとなった。




