大地の影響
「エメナ王女とリヴィナ王子の二人が対立している……そして、自分の研究を邪魔するかもしれない王女を何らかの形で始末するため、王子は彼女が旅を始めたタイミングで攻撃を仕掛けることにした」
俺の言葉にソフィアはこちらを見ながら、
「それをエメナ王女ははね除ける……」
「そういうこと。護衛については約束しているし、彼女から旅の道筋などが聞けている……俺達が再びあの国に侵入する段階で十分間に合う」
「それより前に攻撃される可能性は?」
「ないとは言えないけど、基本的に彼女は従者と共に街道を移動する。身分を隠してはいるけど、宿泊する宿などの手配は既に城側が済ませているし、旅の行程がズレれば何が起こったと城側が首を傾げて調査を始める。王子は一定の発言権を持ってはいるけど、街道でどうこうするほどの強権は持っていない。自分の仕業だと絶対に露見されないように攻撃するには、霊峰へ入り込んだ時が一番だ」
「魔物に襲われでもしたって言い訳が立つからか」
そこでリーゼが納得の声をあげる。
「そういうこと」
「理解できたわ……それで、星神はどのタイミングで関わってくるか、だけど」
「俺が知る今回の物語はあくまで冒頭しかわからないけれど……話の構図がわかったから、ある程度推測は立てられる。重要なのは王女と王子の直接対決……その際に星神の研究を用いるか、それとも他の手段で対抗するか」
「どういうこと?」
「星神の研究内容が何であれ、それに手を伸ばしてエメナ王女を倒そうとする段階で、たぶん星神そのものが動き出すと思うんだ。あるいは王子自身はあくまで誰かにそそのかされて、本当の黒幕は別にいるって可能性もゼロではないし……わからないことは多いけれど、どこで星神の技術をお披露目するか。それによって、星神の降臨時期が変わってくる」
「私達としてはできるだけ遅い方がいいわよね」
「そうだな。俺達の情報集めがどこまで早期にできるか……」
「情報を得られるとして、私達は今回リーベイト聖王国を訪れました」
ここで口を開いたのは、ソフィア。
「星神に関する研究などが残っているとすれば、間違いなく情報は得られるでしょう。しかしそれを得て、解決策が見いだせるかどうか……」
「不安要素としてはそこも大きいな。俺としては星神の正体というか、どういう存在なのか……それを含め核心的な情報を得られれば、何らかの対策を得られると思っている。まあ確かにソフィアの言う通り、絶対的な保証はないから、賭けの部分ではあるけれど」
「どちらにせよ、星神そのものは動き始めている」
リーゼが語る。脳裏には使徒のことが浮かんでいるはずだ。
「だからこちらも急がなければいけないというわけね……でも、私達は情報を得られる保証はない」
「第一候補として上げた自由都市トルバスも、あくまで有力であって確実ではないからな……よって、時間を無駄にすることはできない。全力で動き回るから、そのつもりで頼む」
全員が頷く。後は、船が目的地へ到着するのを待つばかりだ。
話し合いはここで終了し、俺は一度甲板に出る。陸地は見えなくなり、周囲は青い海だけとなっている。
俺は頭の中でこれからの行動について頭の中で反芻する。できる限り最短ルートで情報を得るため動く……とはいえ、それが果たして正解なのかもわからないが。
今はどれだけ短時間で大陸へ舞い戻ることができるのか……ここは俺がどうにかできる部分ではないので、船員達に頑張ってもらうしかないけど――
「ねえねえ、ルオン」
ふいに、ユノーが話し掛けてくる。
「どうした?」
「ガルクが話をしたいって」
……さっきの話し合いの場で何も言わなかったけど、思うところがあったのか?
疑問を抱きつつ、俺は一度自室へ向かう。そこでユノーを経由して回線を開いた。
「ガルク、どうした?」
『一つルオン殿に報告が』
「話し合いの場ではまずいことか?」
『まだ断定できるものではないため、あくまでルオン殿だけに』
「……星神絡みか」
沈黙が生じた。どうやら図星らしい。
『星神の方に動きがあった、というわけではない。こちらが色々観測していて、特に変化はないのだが……星神とは別のところで、影響が出ている』
「それは?」
『精霊達のことだ。精霊達が住む場所で、魔物が頻繁に出現するなど、問題が生じている』
人間が暮らす場所ではなく、精霊達か……。
『現在は問題なく駆除できているため、表面上問題が起きているわけではない。しかし、ソフィア王女が契約した地水火風の精霊のすみか……その場所が全部影響を受けている。一ヶ所だけなら、単なる自然現象……大気中の魔力が天候などによって変化した、と結論づけられるのだが……』
「全部がおかしいことになっている、ということで懸念したわけか」
『うむ』
「確かに変な話だが、それが星神と関連しているかもしれないという根拠は何だ?」
『明確な証拠があるわけではない。しかし、精霊のすみか……特にノームが暮らす場所に魔物が多い。地底関係――というより、大地を介して各所に影響していると見るべきで、そうであれば可能性として高いのは星神だろう』
「なるほど……それに関して調査は行っているのか?」
『無論だ。精霊達は総出で調べている。まだ確たる情報を得ているわけではないが』
「星神に関連することであれば、異変が生じ始めているということか……ふむ、他の大陸とかはどうだろうな?」
『特に話は上がっていない。デヴァルス殿なども天使が住まう大陸の情報を集めてはいるが、そのようなことはないらしい』
「あの大陸も魔力が濃い場所が存在するし、変化の一つや二つあってもおかしくないよな……引き続き、情報収集を続けてくれ」
『わかった』
「まだガルク達は動くなよ……星神関連であるなら、なおさらだ」
『それもわかっている。もし何か明確な変化があれば、再度連絡させてもらう』
ガルクからの通信が切れた。ふむ、きな臭い雰囲気になってきた。
まだ星神に繋がるかどうかは不明だけど……ひとまず観察は続けるべきだよな。仮に変化があれば、場合によってはリズファナ大陸の方にも影響があるかもしれない……その辺りのことも調べるべきか? などと思いつつ、俺は目的地へ到着するまで少し休むことにした。




