洞窟探索
その日は結局魔物が襲ってくることはなかった……翌日、組織のメンバー三班は分かれて山の麓を調査する。洞窟の入口についてだが、見つけた場所については使い魔を展開しているので魔物が動けばすぐにわかる。まだ見つかっていないかもしれない入口は……山全体を見回す使い魔を使って、注意をする。
「使い魔の数が増えているようですが……」
「心配はいらないよ、ソフィア。戦いに支障はないし、疲労なども問題ない」
そんな風に彼女に心配されつつも、俺達は再び動き出した。森の中を調べ回るため、とにかく警戒し、無理な行動はしない。
「敵は籠城の気配よね」
カティが小さく呟く。そこで枯れ木を見ながら、
「村まで襲撃して、隠れていれば終わると考えているのかしら」
「こちらが動員した規模を考えて、あまり長くはもたないと推測しているのかもしれない」
森の中に存在する岩を見つめつつ、俺は応じる。
「だから規模が縮小するか、あるいはこちらにもういないと思わせたいのかも」
「なるほど……既に逃げている可能性もあるのかしら?」
「否定はできないけど、だとしても魔物を移動させることはできないだろうし、まして天使の武具も輸送はできない。相手がそれを手放して身一つで逃げたらさすがにわからないけど……築き上げた城だ。捨てるのは無理じゃないかな」
それこそ、目的が復讐であればなおさらだ。用意していた兵力を全て捨てて一からやり直す……今以上の戦力を得られるとは考えにくいし、天使の武具を残してしまったら逆に俺達が強くなる。相手としては避けたい事象だろうから、隠れることを選択しているのだろう。
「ま、もし恐れおののいて逃げているとしたら、それはそれでいいよ。少なくとも相手の戦力を大幅に削いでいるし、天使の武具も手に入る。俺達としてはここで決着をつけたいけど、その道筋についても敵が弱体化するし、悪くはない」
「ソフィアとしては納得いかないでしょうけど」
「ま、そうだな。敵意むき出しの相手を逃がしたとなったら、彼女は懸念すること間違い無しだ」
よって、ここで決着を付けたい……と、俺達は立ち止まった。それは明確に魔物の気配。
「いるな……でも、これ。武具などは持っていない」
「普通の魔物でしょうね」
ガサリ、と茂みの音。現われたのは狼の形を持つ魔物だ。魔力も薄いし、自然発生した個体だろう。
だからといって放置すれば村人を襲う可能性もある……素早く接近して剣を薙いだ。魔物はこちらの動きに対応できず、あっさりと斬られて消滅する。
「肝心の魔物はいないな。二度の攻撃に失敗して、隠れたと見る方が正解か」
「だとしても、調べなければいけませんけど」
フィリが気配を探りつつ述べる。
「相手は辛抱強く耐えている状況でしょうか……この場合、先に根を上げて動いた方が負け、ですか」
「俺達の場合は、厳戒態勢をどこまで維持できるのか、だな……現状は非常事態宣言を出されているようなものだから、周辺の人々としては戦々恐々としているわけだし」
そもそも襲撃されたのは村一つ……それとは関係がない町や村についてはなぜこうまで警戒しているのかと、不思議に思う人間だっているだろう。
場合によっては非難さえ出てくるかもしれない……魔王の脅威についてはまだまだ記憶に新しいため、その恐ろしさを話せば従ってはくれるはず。けれど魔物が現われず今の状態が続けば、さっさと厳戒態勢を解除しろと言ってきてもおかしくないわけだ。
「時間との勝負なのは間違いないな……ふむ、森にも魔物の影はないかもしれないな」
こうなると、やっぱり本命は洞窟か。
「ルオンさん、洞窟の方はどうなっているんですか?」
「見つけた入口については異常なしだよ。使い魔を利用して調べた以上、相手にも気付かれているだろうし尻尾は出さないはず……とはいえ、ただ待っているだけではいずれ見つけられる……何かしら手を打ってもおかしくないとは思うが」
色々と話し合いをしながら俺達は森の中を進む。そうしてこの日は森の調査に費やすこととなった。
最終的な判断として、魔物の姿は森にない。ソフィアやシルヴィの方も普通の魔物と遭遇するだけで、武装した敵と出会うことはなかった。
よって俺達は、洞窟の捜査に着手する。とはいっても天使の遺跡については実質ノーヒントで調べなければならない。ここからはいかに早く見つけられるかが勝負となりそうだ。
また話し合いをした結果、突入する面々は全員が同じ入口から侵入することとなった。使い魔によって入口は固めているし、何かあれば即座に洞窟を脱して対応すればいい。
ただ、さすがに組織のメンバー全員で……というのは村や町のことを考慮して控えることに。相談した結果、俺の班とシルヴィ、クウザ、それにアルトとその仲間を加えた面子が入ることに。ソフィアやリーゼは留守番である。
「お気を付けて」
「ああ」
ソフィアとしては不服そうではあったが……魔物に襲撃された場合、やっぱり重要なのは指揮だ。護衛する範囲が広いためエイナで全ての指示を出すことは難しく、ならば他に指示できる人間を……ということで白羽の矢が立ったのがソフィア。妥当な人選であり、彼女の功績を考慮すれば指示しながら士気さえも高めてくれるだろう。
国外の人間ではあるが、王女であるリーゼもその役回りができそうだったので、留守番を頼むことに……というわけで俺達は再び洞窟の中へ。ヒンヤリとした空気が出迎えてくれたわけだが、魔力的におかしな点はない。
「カティ、イグノス、クウザ……三人はとにかく洞窟内の魔力を探ってくれ」
魔法使いのメンバーに指示を送ると三人は頷く。俺を含め他の仲間達は護衛役だ。
本格的に調べ始めたら、敵だって動き出す可能性は高い……場合によっては居所を知られてしまうリスクはあるが……もし俺達と決着を付けるのなら、ある意味好機でもある。
さて、どうなるか……と、調べ始めて三十分ほど経過した時、異変が生じた。
「……ルオン」
シルヴィが呟く。俺は頷き、
「来たみたいだな……洞窟内にいる使い魔も捉えた。戦闘準備を」
この洞窟に首謀者がいるのはほぼ確定か……剣を構え態勢を整えた直後、天使の武具を持った魔物達が、俺達の眼前に姿を現した。




