削る力
剣に何か仕込んでいて、それが発動したようだが……と、ここでユスカが構え直した。
「来るか」
こちらもユスカを見据え迎撃態勢に入るのだが……当のユスカがどうしてか困惑顔。その中で、
「あの、公爵」
「うむ」
「体が勝手に動くんですが……」
「そうじゃな。わしが操縦している」
……ああ、つまり『マリオネット』的な効果を仕込んでいたのか。いざとなったら自分が操作して力を披露できるように……うん、無茶苦茶である。
「おーい、アナスタシア。さすがにいくらなんでも可哀想じゃないか?」
「何を言う。これは必要なことなのじゃぞ?」
なんというか、理屈も無茶苦茶になっているな……。
「では、再開といこうか」
「……ユスカ、大丈夫か?」
「はい、なんとか」
苦笑しながら剣を構える……ただアナスタシアが操縦するといっても――
「アナスタシア、一つ気になるんだが……ユスカはそちらの思い通りに動くのか?」
「ああ、わしが操作したら技量的な意味合いでまずいことになる、というわけじゃな? 心配はいらない。わしは指示を下すだけ。それによりユスカは思い通りに動く」
「……大味な命令だけだったらさっきと変わらないんじゃ?」
こちらのツッコミに対しアナスタシアは意味深な笑みを浮かべた。
「それならば――味わってみるか?」
刹那、ユスカが動いた。彼本人も戸惑った様子ではあったが、それでも魔力を発し、アナスタシアの指示を受け仕掛ける。
こちらは一閃された剣戟をまずは受けた……直後、再び彼の周囲に光が生じる。先ほどは多少衝撃を受けた程度だった。しかし、今度はどうやらひと味違う。
展開された光の魔力が、それこそ爆発的に上昇する。それと共にユスカの剣にも魔力が――って、ちょっと待て!
「おい、それ以上やると――」
「構わぬ! やれ!」
非情なアナスタシアからの宣告。ユスカは操られている状態であるためそれに従い、俺へ剣を放った。
渾身の一撃――さらに周囲から押し寄せる光は膨大で、俺を囲うように光を射出した。これではさすがに逃げることができない……のだが、
「ふっ!」
わずかな掛け声と共に、俺は剣を少しばかり気合いを入れて振った。それはユスカが握りしめる剣へと当たり――直後、光が爆発。俺の視界は真っ白になった。
こちらの剣戟が決まった直後、俺とユスカは距離をとった。といっても俺が動いたわけではなく、アナスタシアが頃合いと見て彼を引かせたのだろう。
で、当のユスカなのだが、
「……大丈夫か?」
「見ての通りです……」
顔が疲労に染まっていた。次いでゆっくりと床へと倒れ込む。
「限界です……」
「そりゃ、あれだけ無理矢理魔力を放出したわけだからな」
本来ならば練度が必要なことを、強引に魔力を引き出して発動させたのだ。ユスカが所持する魔力を一瞬で枯渇させるほどの量が発され、彼はものの見事に倒れた。
「……もうちょっとお手柔らかにすべきじゃないか?」
と、たぶん説得は無理だろうなー、と思いつつアナスタシアに言及。すると、
「いやいや、今ので良いデータがとれた」
「あんたは……」
「一度は全開出力のケースを見なければ、この武具が良い物かどうか確認できなかったからな。感謝するぞ、ルオン殿」
……なんというか、改めて思うけど破天荒な公爵である。
「先ほどの攻撃、どうやって防いだのですか?」
審判のソフィアが訊いてくる。ちなみに勝敗については言及していないが、見てわかる状況なのでこれで終わりだろう。
「あー、簡単な話だよ。こっちも魔力をぶつけて相殺したんだよ。迂闊に防御すると障壁を貫通してくる危険性があった……俺の能力を勘案するにさすがに破壊は厳しいんじゃないかと組織の面々は思うところだろうけど」
うんうん、とエイナとかカティとかが頷いている。しかし、
「でも、公爵が単純に出力を上げただけで終わる……とは、到底思えなかったんだよな」
「正解じゃ。さすがにルオン殿の魔力障壁を完膚なきまでに破壊することはできなかったはず。しかし、一部分くらいならば壊すことができたかもしれん。普通に直撃したのなら」
「光の攻撃に何か仕掛けが?」
「魔力障壁というのは、言わば壁じゃ。それを通さない限り肉体へダメージを与えることはできない……壊すアプローチとしてはいくつかある。先ほど、魔族側が重力魔法を応用した技術を見せたな? あれもまた使徒に対する一つの答えだが、竜族の場合は……そうじゃな、より硬度のある魔力で削り取る、といったところか」
「削る?」
「そう。例えば金属を削る場合、より強固な素材を用いることだってあろう? それと同じで魔力の質を強固なものにして、魔力障壁を削るということを、先ほどの攻撃は行った。竜族は色々と魔法に関する技術を保有しているが……その中で魔力の質そのものを強化することもできるからな」
なんとなく理解できた。魔力の質というのは人や種族によって様々ある。ただそれも鍛錬次第でいくらでも変化するため、例えば同じ術式で構築した魔力障壁でも俺と普通の魔術師とでは強度がまるで違う。
その強度について竜族……というかアナスタシアは目をつけた。魔力の質を向上することによって、魔力同士の激突で負けないようにしたわけだ。
「これはロミルダの持つ武具にも応用できるじゃろう。あれには竜族にまつわる技術や魔力が凝縮されているからな。よって、魔族と共に魔力破壊の特性を加える……これができれば、使徒の巨大な体を深く貫通できるかもしれん」
なるほど、な……単純に種族の魔力を一つにして攻撃するだけではない。それぞれの種族の特性を生かして、結集する魔法や技の威力を向上させようということなのか。
「ただそれ、上手くいくのか?」
「む? 種族同士で相乗効果が生まれるかはこれからの検証次第じゃが?」
「いや、そうじゃなくて……俺に収束させても効果は持続するのか?」
「それを上手く束ねるのは、ルオンさん次第だな」
と、デヴァルスが前に出ながら言及。
「今回の戦いは、そういう意味合いも大いに含まれている」
「本当に、何でも詰め込むんだな」
「当然だ。時間がないからな。さて、竜族はこれで終わりか? ならば次……天使達が相手をすることにしようか」




