偽物の力
どうやら迷宮最下層で戦う相手は、俺自身……比喩でも何でもなく、俺自身と戦うわけだ。
「……どうする?」
オルディアが訊いてくる。問題は俺を真似た存在がどれほどの力を有しているか、ということ。
俺の魔力を真似しているとかなら、ある程度能力を再現することはできるのかもしれないが……魔降は俺達が迷宮を進むことによって解析したのは間違いない。ただ俺は別に全力を出しているわけではないし、そのコピーであればそれほど強くはないかも――
その時、俺のコピーが魔力を高めた。同時に右手に剣を生み出し、さらに魔法を発動させようとしている。
「――全員、俺の後ろへ」
即座に指示して俺は剣を構える。さすがに俺の持っている剣を再現できているわけではないのだが、コピーが握りしめる剣は……似せて創ってあるようにも見えた。
次いで偽物の背後、頭上の空間が歪んだ。現われたのは巨大な光の剣。俺が使用する光属性最上級魔法の『ラグナレク』で間違いない。あんなど派手な魔法はこの迷宮内で使っていないのだが……。
加え、俺が魔法を発動させようとする時の所作すら真似ている。これはさすがに単純に魔力を分析しただけでは絶対に解明できない。俺達の想像と超える手法で、ルオン=マディンを再現している。
「……本当に、誇張でも何でもなく自分との戦いだな」
偽物の光が、俺へと飛来する。そこでこちらは魔力を全力で発すと、剣で光の剣を、受けた。
「――おおおっ!」
声と共に剣を薙ぎ払う。光の剣はそれにより軌道が逸れ、なおかつ光そのものが弾けながらあさっての方向へとすっ飛んでいった。直後、後ろの方で轟音。若干広間が振動したが、とりあえず室内が破壊されるようなことにはなっていない。
コピーは俺が攻撃を防ぐ間、動いていない。追撃してもおかしくなかったはずだが、視線を宙に漂わせてどうすべきか考えている様子。
思考などがまだ定まっていないのか……ともあれ、どう動くべきか決断する余裕がある。
「全員、下がってくれ」
「ルオン様、お一人で戦うと?」
「さすがに荷が重いだろ、俺以外には」
全員が黙する。もし偽物が俺の防御能力まで再現していたら、通用する攻撃がほとんどない。ソフィアについては『スピリットワールド』を用いれば勝算はあるが、正直隙も大きい技法なので、俺相手に当てるのは辛いだろう。
「ひとまず俺がどの程度コピーしているのか確かめてみる。そこから援護を頼むかもしれないけど……」
「……わかりました」
ソフィアが返事をする。それが懸命だと判断したのだろう。
「私を含め障壁を展開し完全防御を」
「ああ、頼む……レスベイル」
念には念を、ということで鎧天使を背後に生み出す。それらの防御により……魔力障壁を展開。これで大丈夫だろう。
そういえば、レスベイルはコピーしているのだろうか? と疑問に思ったのでレスベイルを利用して魔力分析をしてみる。結果は……それらしい魔力はないな。
俺とレスベイルは魔力的には分離しているから、そこまで模倣できなかったということか? 何にせよそこについてはありがたい。もし攻勢に出るとなったらレスベイルを利用することでかなり戦いを有利に進めることができるはず。
ということで、まずは接近戦で感触を確かめる……間合いを詰め、剣を薙ぐ。コピーは相変わらず視線を漂わせていたが、俺が来たためかすぐさま迎え撃つ姿勢を見せ、剣が激突した。
相手は魔力剣だが、金属音が響いた。俺の剣について材質なども再現しているのか……どうやって、という技術的な面について知りたいと思ったが、解析する場合は迷宮そのものを調査しないといけないだろうし、この場では厳しいかな?
力を入れて押し込もうとするが……剣が動かない。自分自身である以上、膂力は一緒ということか。
「迷宮内で使ったことがない魔法を再現しているんだ。身体能力についてコピーするのは当然か」
ここについてはまったくの互角と考えていいだろう。となれば拮抗していても勝負はつかないが……と、俺はコピーの魔力が少しずつ減っていることに気付く。
たぶん魔力を使い切ったらスライムであった目の前の敵は消滅するだろう。となれば持久戦もありだが……と、偽物が強引に俺の剣を振り払った。仕切り直しという雰囲気だが、即座に詰め寄り突きを放つ。
それを見極めて俺はかわす。お返しとばかりに胴狙いの剣戟を放ってみたが――弾かれる。
今度は相手の番。右肩を狙う剣を走らせたので体をひねってかわす、と同時に足狙いの一撃。ただこれは後退することによって空を切った。
単純な剣術の応酬ではあるのだが……うん、俺の技量をほぼ完璧に真似ているのがわかる。
技術が同じなら、そこでアドバンテージを握るのは無理か。最初の魔法に加え俺の技術まで体得しているとなれば、俺の記憶などを分析してコピーしたと考えるのが妥当か。しかし、本当に面倒なものを創ったな。
このまま剣技を繰り返すか、それとも魔法か……先に動いたのは偽物。大きく退くと同時に魔法を発動させようと左手をかざした。
魔力の感触的に氷魔法の『スノウユグドラシル』か。動きを物理的に拘束してしまえばいいという判断か。ただあの魔法は氷の範囲から逃れれば意味を成さない。一度魔法発動の直前に横へ逃れて回避してしまえばいいはず――
と、足を動かそうとした矢先、気付いた。動かない。見れば俺の足に光の帯のようなものが巻き付いていた。
拘束魔法――無論俺は魔力を発することで即座に魔法を打ち消す。しかしその一瞬で偽物の魔法が完成。足下が、凍り始める。
「……なるほど、な」
俺なら拘束魔法は通用しないかな、と考えこんな手法は思い浮かばないかもしれない。コピーはおそらく何が最適かを記憶の中から取得選択し、実行しているのだろう。言うなればコンピュータのプログラムに近いか。俺というコピーは一定の判断基準などで動いているわけだ。
技や魔法の取得選択についてはどうやら差違がある――その間に俺の足に氷が生じ始め、それに対し抜け出すべく、全身の魔力を高め始めた。




