広間のメッセージ
話し合った結果、俺とクウザとカティの三者は罠を壊すパターンと敵を迎撃するパターンとで臨機応変に対応……その都度立ち位置を変えるということで落ち着いた。また魔法が使えるソフィアも場合によっては罠の除去を前衛にて行い、支援役に回れるように。
罠が多ければ除去する人員を増やし、少なければ魔物に対処……案配は難しいけど、やれることが多い方がいいので、ひとまずそういうことになった。
結果として、この采配は功を奏しそれほど疲労も蓄積せず進むことができた。確かに敵は手強くなったし、罠もまた面倒になってきたのだが、その対処をしっかりと行うことができたため、こちらもまあ問題ない。
速度も、想定していたものとほぼ変わらないし、十分……ふと仲間達へ視線を送る。全員が全員、一つの目的へ向かって突き進んでいる。そこに一点の曇りもなく、俺もまた思考を視界に映った罠へシフトしていった――
そうして、どれくらい階層を進み続けただろうか。迷宮とゲームでは仕掛けなどの構造は似たり寄ったりでも階層によっては予想外の状況もあった。とりあえず頭を使うものについては俺の記憶の範囲内でどうにか収まったので、ひとまず懸念していた部分は突破したと考えてよかった。
魔降の映像を見てから、結構な時間が経過した……といっても一日も経過はしていないだろう。体力回復の薬などによってひとまず徹夜だろうが問題なく動くことができるのは良かったが、集中力を切らせば終わりなのでそこもまた不安点だったのだが……仲間達が相互にフォローをしながら無事に対処。俺達の力が魔降の想定を遙かに上回っている結果だろう。
本当なら数日掛けて攻略すべき深淵の迷宮であるはずだが、俺達はそれを最速で攻略すべく駆けている……さすがに魔降もこんなやり方は想定していないだろう。もし本人が存命なら、どういう感想を抱いたのか。
ちょっと話を聞いてみたい気もするが……などと考えている間に、俺達は幾度かの階段を下りる。
その先にあったのは、両開きの鉄扉が一枚。通路の先にそれだけしか存在せず、仕掛けの類いも見当たらないし、魔物の気配も罠もなかった。
「……ルオン様」
「ああ、間違いない」
俺はゲームの記憶を頼りに返答する。
「あの先に、この迷宮の守護者とも言うべき敵がいる……すなわち、ここが最下層だ」
全員の顔を一瞥する。魔物と戦い続け、罠を処理し続けてなお体力も魔力も余裕がある。薬の類いもまだまだ残っている。万全に近い状態で到達できたのは間違いない。
「ルオン様、ちなみに時間ですが……」
「この迷宮内で動き回っているし、わかりづらいけど……ま、想定以内には収まっているだろ」
ざっくばらんに答えると、俺はソフィアへさらに続ける。
「予定通りの速度で俺達はここまで来ることができたと考えていい……さて、ここまで到達できたのならあと少しだ。最後の敵も、油断しなければ負けることはないさ」
俺は周囲を確認しながら、扉へと近寄る。
「俺が一番前に立つ。扉を開けた直後が危険だからな」
「わかりました……私達はどうすれば?」
「攻撃が来ることを想定し、防御の備えを頼む」
それだけ言って扉に手を掛ける。少し力を入れると、ゴゴゴと開き始めた。
隙間から中を覗く。この先は大広間になっており、一番奥に俺達が目当てにしている武具がある。だがその手前に守護者と言える敵が待ち受けているはずだった。
果たして……中はゲームに酷似した大広間。ここに来るまで迷宮内は基本漆黒に包まれていたが、何か特別な素材でも使っているのか、この部屋は青白く光る物が存在し、広間の輪郭がわかるほどだった。
この迷宮が作成されて以降、ずっと広間を照らしていたのか、それともここへ訪れたことで光が生じたのか……と、ここで俺はあることに気付く。
「……いないな」
「守護者が、ですか?」
ソフィアの問いに俺は「そうだ」と答え、
「魔力の類いもない……とはいえ最後の最後で試練の一つや二つ用意していないはずがない。慎重に進もう」
広間の中へ。真正面には真っ白い光に包まれた場所があり、そこが間違いなく武具のある場所だ。
求めた物がどうやら手の届く所に……と思いながら歩んでいると、真正面から魔力。とはいえ膨大というほどではなく、俺は何が起きたのか瞬時に悟った。
「映像、か」
上の階層で出現した、魔降の映像……相手は少しの間沈黙していたが、やがてフードで顔を隠した姿のまま、話し始めた。
『……ここまで、辿り着いたようだな。本来なら最後の試練……というわけだが、その前に一つだけ、伝えたいことがある』
俺達は黙る。魔降がどんなメッセージを残したのか。
『この迷宮を知っていたか否か……それによって私はあなた方に願う内容が変わる。まずは、そうだな……偶然この迷宮を見つけてしまった場合。あなたが冒険者であるならば、奥にある武具は最悪売り払われてしまうだろう』
そんな風に語る魔降。
『ただ、そうだな……どういう武具なのかわからないまでも、膨大な魔力が注がれた一品であることは疑いようもないはず。となれば、売り払うよりも自分で使うかもしれない……もしそうであれば、人に迷惑をかけないように。後は、そうだな……暴走した結果、あなたの生命が消えないように祈っている』
「ずいぶんと、物騒ねえ」
リーゼの指摘。まあ膨大な魔力を秘めた武器というのは制御に誤れば本当に命を落とすからな。
『もし、この迷宮を知った上で来た場合……これこそ私が望んだ結果なので、遠慮なく持って行ってくれ。ただし、この映像が途切れた直後に最後の試練が始まる……始まるのだが、ここまで到達したのだ。それも無事に切り抜けてくれるだろう』
なんとなく会話を聞いている間に武具を取ってやろうかと思ったりもしたが、よくよく見れば武具の周辺は魔力障壁によって覆われている。守護者を倒せば解除される仕組みかな。
『なぜ、こんな風に予言めいたことを言うのかについては……そうだな……話せば長くなる。ただ、もしかすると……この迷宮を知っている人物とは縁があるのかもしれない――』




