適材適所
魔降の記録映像を見てからの階層は、試させてもらうという言葉通りに敵の強さがワンランク上がった。とはいえ俺達からすれば容易に倒せるほど。俺の情報によりソフィア達が最適な行動を取れることもあって、無傷で対処することができた。
ただ俺達には時間制限も存在するし、急がなければならないことを踏まえれば敵が強くなるだけでも大きな障害になるのだが……仲間達の奮戦が予想以上であり、魔物撃破の時間が何度も同じ魔物と戦っていく内にみるみる減っていく。
「――よし、このフロアは突破ね」
リーゼが告げる。魔力などを節制しながらも魔物を次々と倒していく。魔降の発言を受け、何かしら思うところがあったのかもしれない。
明らかに、モチベーションが上がっている……戦場なら士気が上がる、とでも言えばいいか。魔降の思わせぶりな発言内容を全面的に信用するわけではないのだが、それでも可能性がありそう、という期待が早く下へという意識にさせている。それにより武器を振るう腕にも力が入るというわけだ。
「この調子で進みたいな……さて、魔降の話が本当とすればこの先に待っている迷宮の仕掛けは、俺が知っているものばかりだ」
次の階層へと続く階段を下りながら、俺は言及する。
「ということは、懸念点であったギミックについてはおそらく対処できるだろう。残る問題は罠と魔物……俺が知っている魔物の能力などは現在のパフォーマンスを維持することができれば十分対処できる……維持できれば、な」
「深い階層へ進んでいくごとに、魔力も減っていく」
軽く肩を回しながらオルディアが言う。
「今よりも辛い状況に立たされる……その中で同じパフォーマンスを出さなければならない」
「そういうこと。迷宮攻略なんて大概そんなものだけど、この迷宮はどうやら俺のような存在を試すために作られたものだ。ここまでは嫌がらせの極みで後退させようとしていたが、ここからは俺達を殺しにかかるような布陣が待っているようだ。魔力を回復させる薬などはまだまだ十分とはいえ、できる限り節制を頼む」
その指示に誰もが頷く。ま、今の仲間達ならそう心配はいらないか。
やがて次の階層へ。視界に捉えた魔物については直前の上層とほとんど同じだが、後衛にいる敵については少し違っていた。
「あの魔物については注意してくれ。能力の中に毒を付与する特性を持つ。毒状態は魔法で癒やせるとはいえ、一時的とはいえ体調を著しく悪化させる。節制などする余裕もなくなるからな……その攻撃はブレス攻撃だから、口を開けたら警戒してくれ」
そういった指示を出して、交戦を始める。俺の助言もあって、敵の攻撃をしっかりと見極め仲間は対処。まずは問題なく撃破。
ただ、どうやらここから先は魔物を倒すだけでは駄目みたいだ。足下に罠らしき魔力が存在している。
「罠も解除しないとまずいみたいだな」
「なら、罠解除についても戦いと同じく、手早くやらないといけないわね」
俺の呟きにカティが反応。
「罠はあくまで魔力で動作している。近づいて解除するということで先へ進んでいたけれど、ここから先は進みながら罠を解除していくという方式でいきましょう」
「……もしかして、そういう魔法を作ったか?」
「ええ、急造ではあるけれど。効果は十分発揮するはずよ」
にこやかに返答した後、カティは魔法を放った。それは攻撃魔法の類いではなく、見た目はただ魔力を飛ばしただけ。無害のように見えるその魔法は罠のある部分に触れると――急速にしぼみ、罠の魔力を包んで解かすように相殺した。
「どうかしら? これで仕掛けは作動しないはずよ」
別の場所にも魔法を行使。今度は悪魔が近づきつつある場所。罠の魔力が再び消えた後、悪魔がその場所を踏んだのだが……何も、変化はなかった。
「成功のようね」
「さすがだな、カティ」
「褒めても何も出ないわよ」
「俺にもそれを教えてくれないか?」
クウザがカティへ要求。彼女が手早く指導する間に、前衛のソフィア達が魔物と交戦。幸いまだ罠が近くにない状況だったので、余裕で敵を倒した。
その間にクウザもその魔法を使用。誰でも簡単に扱える代物だったようで、続けて俺も教えてもらうことに……こういう魔法開発については俺もまだまだなので、精進しよう。
「これって、魔力を解析して作ったってことでいいんだよな?」
「そうね。難易度そのものは決して難しくないわよ。罠の魔力はどの階層でも変わらないからこの迷宮では通用するし、別の場所であっても応用が利くのではないかしら」
「……汎用性があるってことか?」
「そうじゃないと魔法を作った意味がないでしょう? この迷宮だけにしか使えない、というのも、ね」
こういう所は見習わないといけないかな……迷宮構造などに基づいて罠などに対処する、というのはたぶん俺では難しい。ここはカティの魔法開発能力が光った場面と言うべきか。
組織の中でも各々が立ち位置を決めつつある。この迷宮に入り込んだメンバーなら、クウザは無詠唱魔法を始めとした実戦的な魔法を得意として、カティの場合は魔力を分析することにより、罠を始めとした対処系の魔法構築を得意とする……俺はレスベイルの能力に置いて魔力分析などを行い、その応用として特攻能力を付与するという技法を開発してはいるけど、それはあくまで攻撃用に転化するだけで、他の用途は想定していなかった。
もっと柔軟にすべきか……ただ俺の魔法はカティのように魔法を学問として詳しく学んだのとは少し違うからなあ。カティのような早業を行うには分析した魔力をどう料理するかを考えつかないといけないわけで、俺にはその引き出しが少ない。
うーん、無類の強さを得たのはいいが、それと引き換えに戦闘分野ばかりに特化した弊害と言えるかもしれない……そこは仲間に任せておけ、の一言で終わりそうな気もするけど。
適材適所、というやつかなあ……前衛についても立ち位置が少しずつ変わってきた印象もある。組織として動いていくのであれば、その辺りのことも考えていく必要があるかもしれない。
そうこうするうちに魔物の罠も完全に除去除去に成功。ひとまず今後どう立ち回るか……その相談をカティやクウザと行いながら、俺達は先へ進むことになった。




