魔降の声
リーゼ達と会話をして以降、特段問題もなく俺達は通路の最奥まで到達。そこにはずいぶんと大掛かりなスイッチが。
「ソフィア、そっちはどうだ?」
『こちらも到着しました』
「よし、目の前にスイッチがあるな? それを同時に押すぞ」
タイミングを合わせて……厳密に言えば同時にやる必要はないのだけれど、俺とソフィアは同時にスイッチを押した。
すると、ガコンという音が聞こえてきた……うん、成功だな。
「片方だけ仕掛けが作動すると自動的に戻るようになっているけど、二つ同時に押したら問題はない。というわけで、先ほどと同じ場所に戻ってきてくれ」
『はい、わかりました』
俺達も元来た道へと戻る。何事もなく合流に成功すると、俺達は鍵の掛かっていた扉に手を触れた。
仕掛けを突破したことにより、あっさりと開いたのだが……その奥に魔物は――
「……あれ?」
いなかった。これまで大掛かりな仕掛けの奥には必ず魔物がいたはずだが……いない。空間自体は広いので、これまでとフロアの構造については変わっていないはずなのだが、
「気配はどうだ?」
俺とカティが広間の魔力を探り始める。魔物が隠れているという罠を警戒し調べ始めるのだが……、
「うーん、いないみたいね」
魔法の罠もない。ここまで来て逆に何もないというのが変に警戒させるな。
「……どうする?」
俺の問い掛けに全員が押し黙った。何もない以上は先へ進む以外の選択肢はないのだが、
「さすがに、ここまで来て何もないというのはあり得ないと思います」
ソフィアが口を開く。
「ここで魔法を使って少し調べてみましょうか」
「……まあ、それが無難か」
俺やカティで感じることのできない罠、というのはさすがに魔降であっても……と思うのだが、決して可能性はゼロではない。
俺は魔力を少し流してみて反応を窺ったのだが……その時、変化があった。
真正面から、明らかに気配――魔力が。
「罠、かしら」
「いや、ちょっと待て」
カティの呟きに俺は魔力が発生した場所へ目を向ける。
俺が魔力を発したことで効果が現われた……ということは、例えば魔力の塊である人間が訪れたら仕掛けが作動する仕組みということだろう。魔物がいないのはそれが魔物や悪魔のせいで作動しないようにするためか。
とくれば当然、魔物を召喚するとか、そういう効果かと思ったのだが……どうやら違う。魔力が生まれた場所に、一人の人間が姿を現した。
「……人、でしょうか?」
「安直な発想だけど、この迷宮の作成者かしら?」
首を傾げるソフィアとリーゼ。魔降が健在だとは考えられないので、あれはおそらく映像の類いだ。
『――この場所に魔物がいないのは、この階層でメッセージを送りたいと思ったからだ。このフロアに罠の類いは一つも存在しない。よって、入ってもらって構わないよ』
男性の声だった。それは明朗で、青年のような響き。
『と、いっても警戒するだろうけど……ちなみにこの私に手を触れても意味はない。これは一種の記憶装置だ。この迷宮を造り上げた日に私はこれを記録している。つまり、君達の目の前にいる存在は、既に故人ということになる』
――男の声なのは間違いないが、白いローブに加えその顔は深いフードで覆われている。顔を覗き込むことはできそうだけど、映像の一種だしおそらく表情までは確認することはできそうにないな。
『この私の声を部屋の入口で聞くか、間近で聞くか……ま、どちらでもいい。さて、本題に入るとしよう。この迷宮を発見し、ここまで辿り着いた……なかなかに面倒な罠を仕掛けておいたはずだが、それでも不屈の精神で……あるいは凄まじい、圧倒的な力でねじ伏せてきたか。ともかく、あきらめることなくここまで到達した。まずは勇者達に拍手を送ろう』
パチパチパチ、と映像の中で迷宮作成者――魔降は手を叩く。
『次いで警告だ。この場所には確かにとある宝物が眠っている。それはこの私が研究の果てに完成した武具だ。それこそ、使いようによっては神さえ討てるのではないかと自負しているものだ』
……ここで俺は足を踏み出す。ソフィア達は少しばかり戸惑ったようだが、それでも俺に追随する。
『この武具に関した情報は世間に流していない。よって、この迷宮を訪れたのは偶然……と、言いたいところなのだが』
魔降は一拍間を置いた。何か……俺達の様子を窺っているような所作。
あくまで記録媒体の再生なので、俺達のことは見えていないはず……しかし、目の前の映像の彼は、まるで俺達のことを見透かしているような雰囲気さえ感じられた。
『こんな場所を訪れるなんて、よほどの物好き……いや、違うな』
もったいぶった話し方。何が言いたいのかと疑問に思った時、
『――間違いなく、ここを訪れたあなた方は私の迷宮がここにあることを知っていた。そして、この迷宮の構造をどの程度かわからないが、ある程度は把握してここを訪れている』
まるで、俺のことを言い当てているようだった。
『もちろん偶発的に発見されたという可能性もゼロではない。そういう人間に対し警告をしておく。これ以上は事前知識が無ければおそらく踏破が困難であるのは間違いない。それでも……多数の犠牲者を出す覚悟があるのなら、このまま先へ進んでくれ』
彼の声音は、ずいぶんと重いものとなる。
『この迷宮のことを知った上で入り込んだ者であるならば……おそらく、武具を求めて来たのだろう。私の武具が必要となる案件……世界が滅びそう、などという荒唐無稽な物語がおとぎ話ではないような展開が、現実で生じているということだろう』
――こいつは、魔降は、何を知っている? なぜそこまで言い当てられる?
『私自身、そういう者へ武具を託すべきだと思っていた。よってこの迷宮を知る者ならば先へと進むがいい。あなた方が知る仕掛けがこの先に待ち受けている。実力で魔物を打ち破れるのであれば、さしたる障害ではないだろう……もっとも、武具を託すに足る実力なのかどうかは試させてもらうが』
そう述べた後、魔降は話をまとめ始めた。
『さあ勇者達、戻るか進むかを選ぶがいい……そして願わくば、私の武具が正しいこと……世界の崩壊を防ぐことに使われるよう、心の底から祈ることにしよう――』




