迷宮の存在理由
さて、四層目が罠だらけだったわけで、その下についてはどうなのか……俺としてはまた魔物が出現し、戦うというのがまあわかりやすいかな、とは思った。
そして同時にゲームとの違いも明瞭になりつつあった。例えば仕掛けについては類似したものではあるのだが、罠などの配置を含め、ギミックについてはその多くがゲームとは乖離している。
まあ、例えばゲームでは魔物が罠を踏むことはないし、あくまでゲームのギミックとして入れ込むのであって、調整などは当然する……しかし現実では全力で侵入者を排除しようとするのだ。かなり無茶な妨害をしてきてもおかしくない。
もっとも、こんな迷宮をこんな場所に作り上げた意図が不明なんだけど……制作者の魔降が存命というわけでもないだろうから、これについては資料でもない限りはわからないが。
そして五層目についてなのだが……うん、迷路なのは変わっていないが、どうやら四層目と同じような感じだ。
「面倒なのを続けなければならなそうね」
罠の数を見てリーゼが辟易するような声を上げる。気持ちはわかる。
気配を探ることはできるので、悪魔を捕捉して倒すのはそう難しくないのだが……この迷宮の一フロアは案外広い。で、そこかしこに配置されている悪魔達は侵入者が来たら動き出すという形らしく、罠が傍若無人に発動しまくる。
四層目はまだ控えめだったのだが、今度はあちらこちらから何やら音が聞こえてくるし、下の層へ向かう階段も通路が幾度となく変わる。俺達が訪れた時点でこれなのだ。四層目の強化版、というか本番といった感じだろうか。
「これ、どうするの?」
「同じ方法で突破するしかないな」
リーゼの問いに俺は肩をすくめながら答える。
「魔物については上の階と同じ悪魔みたいだし、コツコツ倒していくしかない」
「本当に、時間稼ぎばかりね」
「そうだな。でも効果的だ。迷宮攻略の時間が掛かれば当然リタイアも増えるからな」
――もし俺に知識がなく、初見で突破しようとすればそれこそ絶望的な状況だっただろう。強力な魔物に数え切れない罠。そこにいつ最深部へ辿り着くかもわからない……こうした状況が絡み合い、侵入者を撃退する。
無論、大規模な攻略隊を編成すれば突破できなくもないがそれだけの価値があるのかと迷いそうだな……そして俺達にとってはひたすら面倒なだけになっている。幸い魔物は現段階で易々と対応できるレベルなので、これが下の階層でも続くことを祈るしかないかな。
「ま、地道にやっていこう……最速攻略とは程遠い感じだけど、まだ時間的には余裕がある。ここで少しくらい足止めを食らっても、まだ取り戻せるだろ」
「下の方が厄介な罠が満載かもしれないけどな」
クウザからの言葉。うん、俺としては心底同意するが……、
「どこかで引き上げる可能性を考慮すべきかもしれないが……ひとまずは、先へ進む」
俺の言葉に従い、仲間達は罠の排除や悪魔の撃破に掛かる。四層目との大きな違いはもはや通路を埋めるのではないかというほどに罠が設置してある。一つ一つ作るのに手間暇掛かっているだろうし、わざわざいくつも罠を用意する必要はないと思うのだが……まあ、これだと罠解除の魔法は一つ一つに使用しなければいけないので、時間も掛かるし魔力も使う。そう考えるとある意味理に適っているのかな?
「ルオン様」
ふいにソフィアが口を開く。
「少し離れた所に悪魔を発見しましたが……倒しますか? 近くに罠があるようですが」
「倒れたら、ってことか……ああ、とりあえず倒してくれ。もし罠が発動しても……さすがに距離があったら影響はないだろ」
「わかりました」
ソフィアは魔法を発動――得意の『ライトニング』なのだが、今度は悪魔を強引に消し飛ばすほどの威力を出した。
結果、倒れ込むといったことにはならず悪魔は一瞬で蒸発する。これだったら許可を取る必要はなかったのではと思ったが、彼女のことだから念のため、かな。
ともあれ彼女はどの程度の出力で消滅できるかもきっちり把握したということになる……分析能力については相当向上しているな。これが星神との戦いに役に立てばいいけど。
そうしている内に、俺達は下へ続く階段を発見……するのだが、突然通路が動き出し手前が壁になった。やっぱり悪魔を倒さないといけないな。
「ねえ、これ狙ってやってるわよね?」
カティが言う。うん、こんな目の前で通路が変わるのだから、そう考えてもおかしくない。
たぶん、悪魔の配置と罠の種類についてはある程度考えている、ということかな。おそらく悪魔にも能動的に罠を踏みながら冒険者に襲い掛かるタイプと、一定の距離まで近づいたら、あるいは冒険者達が特定の通路を通ったら動き出すタイプがいる。先ほど通路が変わったのは後者の仕掛けによるものと考えていい。
わざわざここまで手の込んだことをするというのは、よほど理由があるのだろうか……先へ進めば進むほどに謎が深まっていく。
そして同時に俺はあることを思う。確かに目前と仕掛けは死ぬほど面倒だし、並の冒険者ならば即座に引き返すようなものだ。けれど「この罠を突破してみろ」というような考えも見え隠れしている。
ここまで嫌がらせするくらいなのだから、単純に邪魔立てしているとも思えなくなってきているのだが……というか根本的に武具を隠すならもっと、こんな手の込んだ迷宮である必要性はないわけだからなあ。
「……迂回しよう」
やがて俺はそう呟き仲間達と共に移動する。その間も罠の破壊と悪魔の撃破を行う。
そうしてようやく俺達は下の階段へ到達することができたのだが……ここまではそれほど時間が経過しているわけではないので順調と言えるか。罠によって足止めは食らっているけど、想定していたほどの時間は掛かっていないと思う。
ただ、ここから下はさらに罠が苛烈になる恐れがある。迷宮主の狙いが罠の解除などによる魔力の枯渇とかであったなら術中にはまっていることになるが……どういう目論見であれ、進むしかないか。
よって、俺達は無言で階段を下り始める……次はどんな仕掛けなのか。何が来てもいいように心構えをしながら、さらなる階層に足を踏み入れた。




