探し物
自室から移動した先は、城内の図書館。都の中にも図書館は存在しているのだが、ここには一般の人では閲覧できないような研究成果など、色々な情報が含まれている。他国の論文などを含め、この世界がどういった技術を開発したのか……あるいは遺跡発掘などでどのくらい過去のことを知り得たのかなど、様々な情報が眠っている。
で、俺はその中で神話などに関する文献を調べ始める。その目的は、とある存在について。
「――あれ、ルオンさん?」
ふいに声。見ればクウザが資料を抱え立っていた。
「ここに来るとは珍しいな」
「ちょっと調べ物で……そういうクウザは?」
「魔力を融合する技法などについて、人間的な技術で何かできないかと思って。ここに来れば色々情報を得ることはできるけど、やっぱり難易度は高い」
そう言いながらクウザはため息一つ。
「ルオンさんやソフィア王女が使うような融合魔法……それに近い魔法技術も存在しているけど、あくまで人間の力で扱える範囲のものだ。それを今回の作戦に応用するというのは……そもそも技術的検証だけで十日以上経過してしまいそうだ」
「まあそうだよな……」
「そういうルオンさんは? 何か思い浮かんだことが?」
……そうだな、聞いて回ってみるのも良いかもしれない。
「クウザは――魔降についての情報はどのくらい持っている?」
「魔降?」
少し目を見開いてクウザは驚いた様子を見せた。
「魔降って……確か、人間が魔物を食らって力を得た存在だよな?」
「ああ、でもそれって確か伝承レベルの話だろ? 実在していたのかどうか、調べたいんだ」
「実在していたら、何かあるのか?」
「ああ、それは――」
返答しようとした矢先、本棚の奥から別の人物が。
「ん? ルオンとクウザか……」
「カティ、丁度良かった……わけでもないか。ああ、それでも確認しようか。聞きたいことがあるんだけど」
新たに現われた彼女に問い掛けてみる。
「魔降について何か知らないか?」
「魔降……? 魔物を食らったという存在のこと?」
クウザと同じ聞き返し方である。この調子だと人に聞いてもわからないかなあ?
「あー、実在していたかどうかなんだけど」
「伝承レベルだしわからないわね……なぜ魔降のことを調べようと?」
「簡単に言うと、もし実在しているとしたら、今回の作戦について問題点が一つ解決するかもしれない」
その言葉にカティもクウザも目を丸くした。
「……魔降がいることで?」
「より具体的に言うと、魔降が実在していてその遺した物に、魔力を無茶苦茶貯め込むことができる器があるんだよ」
あくまでゲームの話だけど……これはゲーム三作目である『ダーク・ガーデン』に登場したアイテム。もっともプレイヤーが装備できる物ではなく、イベント専用アイテムではあったのだが。
ただし、その効果については証明されている。なぜならその器を使用して三作目の隠しボスが誕生した。ゲームクリア後に登場する最強の敵というわけだが、その設定が「周辺の島に内在する魔力を余さず奪い力を得た存在」というものだ。
島にある魔力を奪った以上、規模は甚大なものだろう。となれば今回の作戦で収束される魔力も十二分に内包できるのでは、と思ったのだ。まあ魔物を食らうような存在が残した物を今回の作戦に活用できるのか、という話もあるのだが……まずは実在するかどうかだ。
「あくまで俺が保有する知識の中だけの話だ……例えばシェルジア大陸に関することならすぐに実証できるし、小さい頃から色々と確かめながら修行していたわけだけど、今回の件についてはすぐに確認できないからな……」
「その物がある場所は?」
「ゼナス諸島だ。距離的にはそれほどじゃあないのかもしれないけど……」
「迷宮に潜るために向かって、器を手に入れる……それでかなりの日数消費してしまうな。十日で終わらないかもしれない」
「しかも、道具の検証とかもやらないといけないだろ? 俺が器を取りに行ってその間に他の面々が魔力の解析などを行う……という方針がベストだろうけど、そもそも魔降が実在しているという確証がなければ、無駄足になる。で、今回の無駄足は今の俺達にとって致命的だ」
「なるほど。だからまずは魔降が実在しているかを調べていると」
クウザはそこで、カティに目を向ける。
「資料集めはこちらでやっておくから、カティはルオンの手伝いをしてくれないか?」
「わかったわ。けど私だけでも人手が足りないわね。手の空いている人をここに呼んで、人海戦術でやりましょう」
「いいのか?」
「こっちも今は資料集めとか、そういう段階だ。本番は魔族や天使など多種族がやって来てから……それまでは暇になってしまうし、それなら何かやっている方がずっといい」
カティがうんうんと頷く。
「ちなみに神霊ガルクとかには聞いたの?」
「一人で考えられるようにと、今は離れてる。ここへ来る前に少し探してみたんだけど……」
「なら私は人を集めながら神霊様を呼んでくるわ。その間、ルオンは資料探しをしていて」
「悪いな」
クウザはこの場を離れ、カティもまた図書館を後にする。一人残された俺は、とりあえずそれらしい資料から当たってみることに。
とはいえ魔降というのは人間からすれば実在しているのか疑わしいレベルのものだからな……それに、なぜ元人間であった存在が島に存在する魔力を根こそぎ取り込めるような道具を作れたのか、疑問に残る。
「その辺りの経緯などを含め、調べないと……」
とりあえずそれらしい資料をパラパラとめくり始める。もっとも情報量としては俺の保有するゲーム知識とそう変わらないくらいだろうか。
書かれた文面を目でなぞりながら、俺は頭の中で魔降という存在を思い浮かべる……カティやクウザは人間が魔物を食らった存在と言っていた。うん、三作目に登場する魔降についても、同様の表現が成されていた。
それは天使や魔族、そして幻獣ジンのような兵器としての成り立ちとは違うもの。ただその辺にいる魔物を食らうだけでは、大して強くはなれないと思う。言ってみれば最下級のゴブリンを食らっても強くなれないわけだ。
ゲームにおける上級クラス……悪魔とか竜とか、その辺りならばまだわかる。また食らうという表現はたぶん比喩的なものだ。厳密に言えば魔力を取り込んでいるというのが正しいだろうか。
「単に魔物を取り込むだけで強くなれるのか……そういえば、魔物を取り込むってことは人間とは異なる魔力を手に入れていることでもある」
もしかして、融合についても何らかのヒントがあるか……? そんなことを思い浮かべながら、俺は資料のページをめくり続けた。




