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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魂の聖域

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使わした者

「朝から海岸なんて眺めてどうしたんだ?」


 切り出したのは俺。それにアンヴェレートは小さく笑い、


「ちょっと気になることがあってね……ただそれとは別に、こうしてまた景色を眺めることになったことに対してちょっとした感動を覚えていたの」

「……あえて誰も触れなかったけど、自分が滅んだ後ってどんな感じなんだ?」

「聞きたい? とはいっても意識が飛んで気付いたからこの島にいたって感じだから、感慨もないわね」


 アンヴェレートはそう言った後、俺に視線を向けた。


「あなたには礼を言わないといけないかしら」

「礼?」

「ユノーのことは、ずっと気に掛けていた……色々あってあの子には隠れてもらっていたのだけれど……私は、当時の戦いで消え去ってしまったと思っていたから」

「だから会いに行くこともせず、戦いに身を投じていたのか」

「結果論としては、それで良かったのかもしれないけどね。あの当時ユノーと再会していたらきっと、彼女は無事じゃ済まなかったかもしれないから」


 遠い目になるアンヴェレート。詳細は決して訊くつもりはないけれど、彼女にとって辛い記憶なのだろうと察することができた。


「最終的に私は復活し、またユノーと再会することができた。うんうん、物語の終わりとしてはハッピーエンドね」

「自己完結しないでくれよ。そっちの物語が終わってもこっちがあるからな」

「わかっているわ。本当のハッピーエンドを迎えるには、星神との戦いを終えないとね」


 俺は首肯。世界崩壊によってユノーや復活したアンヴェレートも巻き込まれてしまう以上、これから頑張ってもらわないと。


「ところでアンヴェレート。戦闘能力とかはあるのか?」

「さすがに復活して体を維持するだけで精一杯みたいだから、私は裏方に回るわ。天界の長は状態が安定すればもしかしたら自衛くらいはできるかもしれないと語っていたけど、期待はしないでね」

「そうか……どういう形にしろ、魔力の維持のためにバールクス王国へ来ることになりそうだし、これからよろしく」

「ええ、よろしく」


 そこまで言うと彼女は微笑み、


「訓練に付き合うことはできないけれど、研究については頑張らせてもらうわ」

「天使の技術……しかも古の天使が持つ技術だ。こちらとしては心強い限りだよ」


 星神の情報はここで多く得たことに加え、アンヴェレートの存在……研究は飛躍的に進むだろうな。

 ただそれが形になるまでに間に合うかどうか……まだ『エルダーズ・ソード』の最新作におけるエピソードは始まっていない。それが星神による世界崩壊の契機だと推測しているので、それが開始されるまでにはどうにか一定の成果は上げておきたいところだ。


「で、今度はこちらが質問する番」


 と、アンヴェレートはここで話題を変えた。


「あなたの話になるけど、こんな朝早くにどうしたの?」


 まあこんな朝早くに起きたのだし、彼女も首を傾げるよな。俺は夢のことを思い返し口を開こうとしたのだが、


「……いや、全員起きてから話をすることにするよ」

「む、何かトラブル?」

「いや、そういうわけじゃない……とも言い切れないのか」

「どういうこと?」


 首を傾げる天使。俺としてはどう説明したらいいか。

 星神と幾度となく遭遇しているし、夢に干渉してきてもおかしくはない……と思うのだが、勝負とは何なのか?


 それとも俺が頭の中で描いただけの話なのか……そう思うと口にしていいのかわからなくなるな。


「あー、ちょっと頭の中が混乱しているのかも。相談するという意味でもここで話すより皆の前で語った方がいい」

「気になるけど……まあいずれ話をするなら――」


 そう彼女が返答した時だった。



 ――オオォォォォォォ。



 声……のような音が、海岸線の向こうから聞こえてきた。


「……ん?」

「ああ、これが気になって海岸まで来たのよ」


 アンヴェレートは海岸線を指差しながら告げる。


「夜明け前に目を覚めて散策でもしようかと思っていたら、海岸方向から音がして。獣の鳴き声のようにも聞こえるけど」

「いや、この島の周辺に島はないし、さすがに生物の声は――」


 その時、俺はぞくりと背筋に悪寒が走る。同時に嫌な予感がした。


「……まさか」


 俺は使い魔を呼び出す。アンヴェレートが「どうしたの?」と問い掛ける中、俺は使い魔を海へと放った。


 速度を重視する個体なので、そう遠からず目的地へは辿り着くはず……その行き先は、幻獣ルグのすみかであった島。

 相当な距離がある以上、そんな場所から音が聞こえるはずなどない……普通なら。けど、先ほどの夢。それが意味することはもしかして――


 使い魔は速度を上げ、昇り始めた太陽を視界に捉える。それでも俺は速度をさらに上げ、島へと急行する。

 そして当該の場所を視界に捉えた時……俺は自分の予感が的中していたことを悟る。


「嘘……だろ……?」


 掠れた声だった。幻獣ルグの島……そこに、島は存在していなかった。

 その代わりに、俺が交戦したルグの姿をした幻獣が、海面に立っていた。魔法か何かで海上を浮いているのか……ただ前のように三つの首ではない。けれどそれ以外はまさしく、幻獣ルグの姿。


 そして、決定的に違う点が一つ……大きさだ。

 幻獣ルグは、自分がすみかとしていた島を超える巨大な姿へと変貌していた。


 なぜ、こんな巨大に……星神が干渉したから? そもそも俺が戦ったあの個体は星神による影響の一部だったのか? 本命は、使い魔を通して見るこの巨大な獣だったのか?

 そして、島はどうなったのか――疑問に抱いた時、獣の口の端から何かがこぼれた。注視すると……それは、大木や岩などだった。


 まさか……島を、喰ったのか?


 島を喰らい尽くした結果、巨大化したのか。それとも星神の影響を受けて巨大となり、島を喰らったのか……俺は後者だと直感する。巨大な体を維持するために、自分の島にある魔力を陸地ごと喰ったのならば、説明ができる。


 これが、星神の言う勝負だとしたら……巨大化した幻獣を、倒せと――



 オオオオオオオオ!



 雄叫びが海面を揺らし、空を切り裂く。そして幻獣ルグは……いや、もうルグと呼ぶこともできない。直感的に浮かんだ単語は、使徒。星神が使わした、破壊の使徒。

 そして星神の使徒は、ゆっくりと足を前に出し、移動を開始した――


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