剣の師
仲間探しという課題を抱えつつ……俺達はとうとうガーナイゼに到達した。
外観は城壁に囲まれた要塞都市。周囲が荒地であることもあってか、ずいぶんと殺伐とした印象を与える。
規模は相当大きい……砂煙によって黄土色を見せる城壁は高く、堅牢なイメージを植え付ける。実際、シルベットと同じくこの町は最後まで魔族に侵攻されることはなかった。この場所に戦力となる戦士がいることに加え、堅牢な構造……その辺りが、最後まで侵略されなかった要因だろう。
町の構造としては中心部に城があり、その周囲に街並みが広がっている。闘技場自体は町の中にいくつもあり、場所によって闘技内容なども少しずつ違っているのだが……現状闘技場で戦う予定はないので、まあ無視でもいいだろう。
門を抜けると、人通りの多い大通りが姿を現す。ここには他所から避難してきた人間だっているはずだが、ひとまず混乱はないようだ。
「どこに行くのですか?」
大通りを歩いていると、ソフィアが訊いてくる。ここで俺は首を向け、
「剣術道場……知り合いだから、安心して欲しい」
「わかりました」
返事を聞くと、俺は首を戻し大通りを迷わず突き進んでいく。
――ここで起こせるイベントの中に、剣術に関する能力を上昇させるようなイベントが存在する。それは単なる技術面だけでなく、魔力制御など色々指導を受けることが可能であり、ゲーム上は結構パラメーターが上がった記憶がある。
もしかすると、得られる成果はゲームの時より上かもしれない……単にパラメーターが上昇するゲームの時とは異なり、例えば剣技に関する技術――足運びや剣の振り方といった基本的なことを教わるだけでも、剣の質が上がる。それは単純に能力が上がった以上の成果を発揮することだろう。
ソフィアについては騎士から教えを受けていたので剣術の基礎的な部分はできているはず……なので学ぶべきは魔力制御。例えば『風華霊斬』については制御が上手くできず周囲に風を撒き散らすなどの問題がある。魔力制御訓練を受けることでそれも解消され……他の技だって威力が向上するはずだし、制御面を改善することにより魔力障壁なども強くなるだろう。
だからこそ、案内するのはそうした技術を教えてもらえる場所……修行時代俺も利用したことがある上、ゲームでも登場した場所だ。
程なくして大通りから脇道へ逸れる。ちょっとばかり不安げなソフィアを見つつ辿り着いたのは――白い大きな建物。
「ここ、ですか?」
「ああ」
頷き俺は建物の中へ入る。目の前に現れたのは受付。
「……どうも」
俺は受付にいる女性に挨拶する。黒髪の女性で綺麗なんだけどどことなく無愛想な感じ……彼女は「どうも」と返答し、用件を訊く。
「何用でしょうか?」
「剣の指導を願いたくて……以前訪ねたことがあるルオン=マディンだと言えば、先生にはわかってもらえると思うけど」
「……少々お待ちください」
女性は席を立ち、奥へと引っ込む。その間に周囲を見回す。訓練場らしき奥からは人がいるのか気合を入れるような声が聞こえる。
やがて、受付の女性と共に姿を現した人物が――
「ああ、久しぶりだな。ルオン」
「お久しぶりです」
会釈する。現れたのもまた女性……ウェーブがかった金髪に黒い瞳。ドレスでも着れば似合いそうなのに現在は稽古のためか簡素な黒いシンプルな衣服と、手には木刀が握られている。
さらに顔には不敵な笑み。男勝りという言葉が非常に似合う、豪気な雰囲気をまとわせる女性だ。
名前はイーレイ=マクルディ。一応ゲーム上で名前が出てきたNPCであり、こうした能力強化イベントに関わる人物である。
剣術は相当な領域に達しており、技術面の勝負なら俺も敵わない……本当なら彼女だって魔族と戦いたいのかもしれないが、足を悪くしており長旅などに耐えられないらしい。多少剣を振る分には問題ないようだけど……残念だ。
「ん? お、従者か?」
イーレイはすぐさま俺の横にいるソフィアに目を向ける。
「はい……名前は――」
「ソフィア=ラトルと申します」
彼女は口を開き一礼。その所作にイーレイは満足げな笑みを浮かべ、
「おう、なんだ。できた子じゃないか。ルオン、お前の百倍くらいは」
「はいはい」
俺は面倒そうに返答する……というか王族なんだから、万倍くらいは俺よりできていると思う。
「で、今日は彼女を鍛えに、ということか?」
「はい。彼女自身、戦いたいという意志があり……今以上に強くなりたいと」
「ふむ……」
イーレイはソフィアを見据える。
「訊くが、ソフィアさん。戦う理由は?」
「魔族と戦うためです」
「その様子だと、君も国を追われた人間の一人というわけか」
肩をすくめるイーレイ。
「そうした人間はたくさん見てきたよ。魔族の侵攻があって、剣を握ろうと決意をする人間は多い……だが、本当に魔族と戦えるかは、厳しいが別問題だ」
「彼女には素質があります。もしよければ確認を」
俺が言う。その言及にイーレイは興味を抱いたか、俺を見返す。
「ほう、ルオンがそこまで言うなら、見てやろうじゃないか」
「ありがとうございます」
「じゃあソフィアさん。訓練場に案内しよう」
「はい」
頷くソフィア……こうして、彼女の訓練が開始となった。
強くなれるという根拠があるからここを案内したわけだが……問題は期間だろう。ソフィアは剣術の基礎ができているためここで行う訓練は飲み込みも早いはずだが……さて、どのくらいかかるのか。ちなみに俺は二週間で一通り終わったのだが……そのくらいかかるとしたら、空いた時間を利用して単独で活動しようかな。
「さあ、どんとこい」
訓練場。先ほど声が聞こえた場所とは別らしく、周囲に人はいない。
ソフィアには木刀が渡されている。真剣で戦う時もあるが、基本この場所では木刀である。
「ほら、どうした。武器は木刀だが、どんな技や魔法を使ってもいいぞ」
「……わかりました」
彼女は頷き、構える。対するイーレイは自然体のままなのだが……刹那、ソフィアが仕掛けた。
一気に間合いへ迫る。その鋭さはレベルも上がりかなりのもの――しかし、イーレイは放たれた斬撃をいとも容易く弾いた。
「突っ込みに加え、動きもよし」
さらにソフィアは剣を薙ぐ。イーレイはそれを受け流すと、即座に反撃した。
ソフィアは途端受けに回る……が、最初の攻撃で僅かに体勢を崩されると、すかさずイーレイの刺突がソフィアの右肩に触れた。
「っ……!」
突き刺したというより、トンと軽く触った程度。けれど追撃がくると思ったか、ソフィアはすかさず引き下がる。
「判断もよし」
イーレイは言う。ここでソフィアはしばし動きを止め――次の瞬間、木刀から僅かに魔力を発した。
「その魔力、精霊の契約者か」
あっさりとイーレイは看破する。だがソフィアは動き『疾風剣』を放った。
風をまとわせた一撃――それに対しイーレイは真正面から受けた。結果、激突し……ソフィアは押し留められる。
イーレイからは何も感じられないが、間違いなく木刀に魔力が込められているはずだ。ソフィアと違い魔力を完全に制御しているため、目立たない。
ソフィアはすぐさま後退する。同時、さらに技を放つ構えを見せる。
何を使うか俺にもわかった。中級汎用技『清流一閃』――それが果たして通用するのか。
ソフィアが動き出す。最初に駆けた時よりも鋭い動き。五大魔族のレドラスを討ったその剣技が、イーレイへ向け炸裂する――
「なるほど、良い技を持っている」
イーレイはどういう技なのかを看破したのか、呟いた。それと同時にソフィアが一気に迫る。
直後、信じられないことが起こる。ソフィアの眼前にいたイーレイは突如動き――いや、間違いなく彼女も『清流一閃』を放った。
ただ、外野から見た俺からもわかる。イーレイの方が技術的には上だ。
「っ……!」
ソフィアが再度呻く。技が通用しなかったからだろう。
「うん、ルオンが言うのも理解できる」
どこか楽しそうに――イーレイは語った。
「合格。ソフィアさん、もっと強くなれるように……あなたに少しばかり、私の技術を教えよう」




