海岸の幻獣
宿泊施設内で俺達は一通り協議をした時、夜明けがやってくる。ひとまず話し合った通りに動くことにして、各自行動を開始した。
「それじゃあ行くか」
俺は呼び掛け歩き始める……目的は幻獣テラへ連絡する間の時間稼ぎ。これが試練なのかそれとも幻獣ルグの横槍なのか――それを確かめるためにはとにもかくにもテラへ報告するのが先というわけだ。よって、幻獣を殲滅するのではなく、時間を稼ぐ。
天使とデヴァルスは連絡を取り合っているので、もし妨害だとわかれば時間稼ぎから迎撃に変えることもできるが……まあここは幻獣テラか、彼の配下が来るまで待って証人となってもらうのが確実かもしれない……ここは伝令の天使がテラと話をして、至った結論に従えばいい。
ゆっくりとした歩調で幻獣が上陸する海岸へと移動する。近くにいるのは組織のメンバー。クウザにシルヴィ、さらにアルトやキャルン、イグノスといった魔王の戦いから馴染みの面々だ。
ソフィアやリーゼなどがいないのは、他の組織メンバーの統制を行ってもらうためだ。彼女達は王女であるためか発言力もあり、何より指揮能力もある。リーゼなんかはソフィアも語っていたが、まとめ役としての能力――騎士として活動していた経歴もあるため率いる能力も十二分に持っている。よって後方をお願いすることにした。
「最初はルオンが動く……で、いいんだな?」
シルヴィが再確認するように問う。俺は首肯し、
「ああ、皆はまず隠れて様子を窺う形で頼む。敵が来たら作戦通りに……問題は相手がどれほどの力を持っているか、だよな」
ただ、決して悲観的ではない。天使達が概算ではあるが、魔力の質を確認しているためだ。
魔力量的には大陸なんかで普段出現する魔物よりも高いのは事実だが、組織のメンバーで対抗できないというようなものではなさそうな雰囲気。まずは俺が当たってみて、シルヴィ達で対処が厳しいと判断すれば、都度やり方を変えればいい。
問題は幻獣テラのように、固有の能力を持っているかどうか。そこがもしないならずいぶんと楽になるのだが……。
程なくして、俺達は海岸線に到着。視界に映る幻獣の数は……現在、およそ三十ほどか。まだ上陸する姿もあるので、これからさらに増えるようだ。
仲間達は気取られないよう散開。俺だけが海岸へと歩み……こちらが来たことに相手も気付いた。ただ臨戦態勢に入るというわけではなく、様子を窺うような形。
『……さすがに気付くか』
一頭の狼がこちらへ近づいてくる。毛並みは白い体毛に青がまだらに存在している。
他の個体だがずいぶんと毛の色が違う。赤も青もいるし、複数の色が混ざっているような者もいる。そういえば使者としてやって来た白と黒の幻獣はいないな。
『まあいい。全て島に辿り着いたわけではないが、作戦を遂行することはできる』
「……殺気丸出しだが、一応訊いておくよ。何のために来た?」
こちらの問い掛けに接近した狼は喉の奥を引きつらせるような声を上げる。もしかしたら笑っているのかもしれない。
『悠長だな、ずいぶんと。驚愕しないのか? こちらは貴様らを消すためにやって来たというのに』
「今更慌てても仕方がないからな……というより、これは幻獣テラの語っていた試練なのか?」
『そんなわけはないだろう』
切って捨てるような物言い。これは確実に幻獣ルグの独断か。
『我らが主の命に従い、貴様らを一人残らず滅ぼす』
「交渉はご破算になるぞ?」
『構わない』
即答だった……ルグは何を考えているのか。
「……こっちには天使もいるんだが、勝算はあるのか?」
『なければ来るはずもなかろう』
余裕の声音――この辺りは既に当たりを付けている。まだ島から距離はあるけど、海中に大きな魔力反応が存在する。強力な幻獣か、それとも何か仕掛けか……ともかく、天使達をどうにかする手法を用意しているようだ。
まあその辺りをわかった上でここに来ているわけだが……俺はひとまず剣を右手に生み出す。それに対し幻獣達は一斉に声を上げた。
狼特有の重い音だが、これも笑っているんだろうな。
『たった一人で、か?』
「ああ、そうだ」
海岸線を見回す。ひとまず他の場所から横手、あるいは背後に回ってくる可能性は低そうだ。
現地に赴いておぼろげながら理解する。目の前にいる幻獣達は先発隊の様子。ならここで機先を制しておけば――
「切り札を破壊できれば、戦意を失うか……な?」
俺は小さく呟き、幻獣達を見据える。ならば、
「……そちらは舐めているようなので、教えてやる」
幻獣達の声が――止まる。
「それこそ……俺だけで、潰せる確信があるから一人で来たまで」
その直後、俺は魔力を発した――威嚇するような、相手を気配で押し潰すような、威圧の魔力。
こんな風に魔力を使うことはあまりなかったのでやり方に不安もあったが……幻獣達からしたら、どういう心境か。
『……なっ……!?』
こちらの魔力に対し、幻獣達は言葉をなくす。お、どうやら俺の気配に圧されたようだな。作戦の第一段階は成功か。
「……状況はわかったようだから、警告をしておこうか」
俺はゆっくりと、幻獣へ向かって言い放つ。
「今すぐ回れ右して、立ち去れ、そして幻獣テラを始めとした者達の沙汰を待て。それなら命まではとらないでおく」
『……ふざけるなよ』
前傾姿勢となる幻獣。途端、俺の魔力に負けまいと戦闘態勢に入る。
とりあえず島の中を縦横無尽に暴れ回るような形ではなく、俺に視線を集中させた……威嚇して狙いを俺に向けることが作戦だったのだが、上手いこと引っ掛かってくれたようだ。
「警告はしたぞ」
そうして俺は幻獣へ宣告する。
「来たのなら容赦なく叩きつぶす……今すぐ帰れ」
『舐めるな、人間風情が……!』
遠吠え。本能に任せた獣の声……途端、こちらへにじり寄ってくる狼。一方で俺は武器を構えながら、魔力を高める。
さて、どこまで上手く立ち回れるか……胸中で一つ呟いた矢先、先頭にいた幻獣が、突撃してくる!
「さあ、やるか……!」
声を張り上げ俺は足を前に踏み出す。同時、幻獣が肉薄し――戦闘が、始まった。




