光宿る者
――『バードソア』の他に、ゲーム上ではほとんど役に立たなかった魔法というのはいくらか存在する。修行時代、その中で有用なものがあるか検証し……局所的ではあるが、役に立ちそうな魔法を発見した。
それが光属性下級魔法『エンジェルバインド』だ。属性系魔法だが威力はまったくない。効果としては対象の動きを一定時間封じるというもの。
ただこの魔法、通用する相手が人間型の悪魔や魔族に限定される。加え相手の残りHPが低いほど成功率が高くなるという条件があり、ゲームでは使い所が難しく忘れ去られるケースも多かった。まあ動きを止めるという魔法は強力なので、ある程度使用制限を掛けないとまずかったんだろうと予測できる。
しかも魔法使用者が発動中動けなくなるので、一人で戦っていた修行時代は何の役にも立たなかったが、サポートに回る今ならば使える。
ただし、一度使用すれば二度と効かなくなる――ゲームでこういうことはなかったのだが、どうやら一回使うと魔物も警戒し魔法が通用しなくなるらしい……つまりその程度の効果ということなのだが、この一回というのが重要だった。
上級クラスの悪魔でさえ、一回は間違いなく通用した――弱体化し、さらに窮地に立たされたレドラスになら確実に通用する。確信と共に、俺は『エンジェルバインド』を発動させた。
一方レドラスは果敢に向かってくるアルトとソフィアに対し魔力を厚くして防御する気配を見せる。その瞬間、俺の魔法によりレドラスの足元――影が僅かに発光した。
『――何!?』
驚愕の声が轟く。レドラスの動きがほんの僅かにだが、鈍った。
それによって生じた隙は、ソフィア達が攻撃するには十分すぎる時間だった。
先んじてアルトが『ギルティブレイク』を放つ。レドラスは対応に遅れまともに受ける。そして、ソフィアが発せられる魔力が、今まで以上に高まる。
『それは――!!』
それはレドラスも感じたようで、驚愕の声を発する。
魔力が迸る。制御しきれていないようにも思えるその魔力を、ソフィアはレドラスに叩きつけるが如く斬撃を繰り出した。
「――やあああああっ!!」
先ほど以上の声と共に放たれたのは、巨大な魔力の塊、緋色の魔力が斬撃と共にレドラスを飲み込み、轟音と共に衝撃波を生み出した。
「これは……」
俺は思わず呟いた。間違いない、これは地属性の上級魔導技『暁の地竜』だ。ノームの中でも高い能力を持つロクトと契約したため、使うことができたのか。
魔力の塊と共にレドラスは固まる。吹き飛ぶかと思ったが奴は踏ん張り、『エンジェルバインド』の拘束も脱し、槍を強く握りしめるのを俺は視線に捉えた。
反撃――それはソフィアやアルトも直感したようで、即座に防御の姿勢を見せた。
直後生み出されたのは風。攻撃というよりはソフィア達の進撃を押し留めるような、攻撃力の無い突風。アルトもソフィアもそれを受けほんの少しだけ後退したが、
「ソフィアさん!」
アルトは声を発し、駆けた。続けてソフィアも動く。
先ほどの上級技でソフィアもかなり魔力を消費したはず。限界は近いはずで……けれど彼女は決着をつけるべく、動く。
その時、レドラスは首を動かし――俺を見た。
『力持たぬものでも、我を打ち崩せる手段を構築したか――見事』
その言葉は、俺に対する称賛か――サポートばかりの俺が戦局をレドラスに渡さぬよう行動していたことを、理解した様子だった。
向ける視線はどこか、最後に俺へ攻撃を仕掛けようという意思が存在しているように思えたが――動かなかった。ソフィアやアルトに阻まれると思ったのかもしれない。俺が戦局の一端を担っていたとわかっていながら攻撃できなかったのが、レドラスにとって一番の敗因かもしれない。
瞬間、レドラスから魔力が溢れる。だがその魔力はこれまでのように攻撃的なものではない――けれどソフィア達はその魔力を利用し行動させないうちに仕掛けた。
アルトの『ギルティブレイク』。そしてソフィアの『清流一閃』――二つの剣戟が炸裂し、レドラスはとうとう槍を取り落した。
――発した魔力は、俺達を狙ったものではなく、魔王の目的を果たすために残りの力を大地に収束させた。五大魔族を倒すことには成功したが、目論見を阻止することはできなかった――そういう構図である。
レドラスの体が崩れ始める。ソフィア達は一度距離を置いて様子を見ていたが、奴の顛末を見て、終わったのだと理解したようで、肩の力を抜くのがわかった。
「やった……のか」
アルトが呟く。そして槍までもボロボロに崩れ、塵となり……直後、レドラスの立っていた場所から、魔力が溢れた。
五大魔族を倒した直後、魔族の中に眠っていた賢者の力が解放され、白い光が生まれる……その力が主人公に宿り、魔王を討つ力となるわけだ。
俺はその魔力を注視する。ソフィア達にも見えているようで、一度は警戒を示したが――
「……不思議な光だな。レドラスの力じゃないようだ」
「レドラスが手に入れていた、精霊か何かの力なのかな?」
アルトとステラが口々に言う。光は少しの間その場に留まっていたが、やがて動き出し――
ソフィアへと入った。
「……は?」
目が点になった。
「……今のは?」
ソフィアが驚く。異常がないか確認するように体を確認するが、
「光が入り……なんだか、魔力が回復したような感じにも思えます」
「やっぱり、精霊か何かの力だったのかもしれないな。シルフとノームの契約をしているソフィアさんに吸い込まれたってことじゃないか?」
アルトが答える間に、俺は背中から嫌な汗が流れだす……ちょっと待て。おい、ちょっと待ってくれ!
動揺する間にアルト達は周囲を見回す。レドラスが滅んだことにより、周囲の重苦しい瘴気が消えているのに気付いたようだ。
「気配はずいぶん薄くなったな……これは帰り道、敵もいなさそうだ」
「けど凱旋、って感じではないだろうね」
ステラが言う。彼女は肩をすくめ、レドラスの残骸を見て、
「兄さん、これを持っていって魔族を倒しましたって言っても、お城の人とかも信じてくれないでしょうね」
「そうだな。討伐軍でも倒せなかった相手を俺達たった六人で倒したなんて……たぶん信じてもらえないだろう。ま、王様なんかと関わると面倒だし、それでもいいさ」
アルトは言いながら俺達へ言う。
「とりあえず、帰るとしよう……とはいえなんの収穫もなしってのは辛いから、魔物がいなかったら少しくらい探索してもいいかもしれないな」
やがて、俺達はレドラスの居城から出た。時刻は夕刻前。朝から入っていたわけだが、ずいぶんと長く戦っていたようだ。
また、レドラスはどうやら結界などを行使して俺達に入れないような場所を作っていたようだが、奴が倒れたことによりそれも消え失せていた。結果、そこから色んなアイテムを手に入れることに成功する。
命を賭けただけの報酬に釣り合うか疑問だったが、アルトやステラとしては満足だったようで、城を出る頃には笑みを浮かべていた。
「さて……ここからどうするか、だな」
彼は俺達を見回し言う。
「この場所以外にも、魔族が居城を構える場所があるはずだが……そいつらを倒すか?」
「今回勝てたからといって、甘く見ない方がいいと思うけど」
ステラが言う。それにイグノスも同意なのか小さく頷いた。
「今回はどうやら運が重なって倒すことができた……他の魔族達も同じような特性なのかわかりませんが、単純に挑むだけでは勝てない様子。もう少し魔族に関して調べないと」
「ま、それもそうか」
「というか、いつから魔王と戦う気になったの?」
ステラが問う。それにアルトは肩をすくめ、
「別に、魔王に挑むわけじゃないけどさ……こうした経験をしたことについては、情報として伝えるべきだと思ったわけだ」
「でも、信用されない可能性が高いよ?」
「そうかもしれないけどな……」
会話を行うアルト達を尻目に、俺はソフィアを見る……可能性としてあり得たとはいえ、現実にソフィアに力が宿った。思わぬ展開になってしまったと、心の中で思った。




