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賢者の剣  作者: 陽山純樹
英雄の下に集う者達

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王女対魔王候補

 まず、リーゼとエーメルの戦いは静かに始まった。エーメルはリーゼの出方を窺うつもりなのか、大剣を構えた状態のまま動かない。

 リーゼが語った技術について警戒している……という解釈もできるけど、たぶん違うな。どういう技法なのか見たいだけだろう。交流の浅い俺でもわかる。


「こちらの全力が見たい、ってところかしら?」


 そんな雰囲気を当のリーゼも感じ取ったらしく、言及。エーメルは即座に首肯し、


「まあそんなところだ。全力を出さないまま評価されるのは不服だろう?」

「それはまあ、確かに……なら、こちらから仕掛けさせてもらうわ」


 ――その時、俺の目は明確な変化を感じ取った。リーゼがハルバードを握り締める両腕に魔力が一層宿る。

 これが先ほど語っていた技法……? 疑問に感じる間にリーゼは床を蹴りエーメルへと迫る。


 魔法で作られたといっても、相応の質量がなければハルバードは威力もないはず。よって見た目のいかつさ通りの重量を有していてもおかしくないのだが、それを感じさせない俊敏さ。ちょっと驚いていると、俺は彼女の足下にも腕と同じような魔力が宿っていると気付く。


「ふむ、なるほどな」


 エーメルも意図を理解したのか小さく呟くと、ハルバードを真正面から受けた。直後、広間に響く甲高い金属音。ギリギリと刃が噛み合う音も生じ、


「なかなかやるじゃないか」


 エーメルが言う。双方どのくらいの力で応じているのかわからないが、彼女にとっては予想外の出力で鍔迫り合いをしているのかもしれない。

 それに対しリーゼは無言に徹する。こちらは余裕がないのか?


 そんなせめぎ合いは十秒ほど経過しても変化はなく……いや、エーメルが一度押し返してから後退した。


「鎧に色々と仕込んであるな」


 そして彼女は告げる。そうだと言わんばかりにリーゼは、


「魔王との戦いは、それこそ人間に危機感を抱かせ、対抗できる手法を開発しようという意欲を大きくさせた。私の鎧もその一つ」


 言いながらリーゼは構え直す。気付けば両腕両足に魔力が相当集まっている。


「鎧そのものに魔力を封じ込め、さらに自らの身体強化を組み合わせることにより相乗効果を狙った技法、といったところかしら。もっともまだ試作段階で制御も難しいけどね」

「相乗効果、というのはさすがに言い過ぎかもしれないな」


 と、エーメルは辛辣な評価を下す。


「二つの技法により何倍にも能力が膨れあがるというわけではないだろう……もっとも、この私に対抗しうるだけの力を得ることができたのは事実か」

「そうね。開発陣に感謝しないと」

「……で、そういう武装を何でリーゼが持ってるんだ?」


 俺はなんとなく疑問を告げる。


「試作段階ってことは、大なり小なり暴発とかの危険性だってあるだろ?」

「安全面は考慮しているわよ」

「にしても、王女自らが実験体になる必要はないと思うんだけど……」

「元々、国内で色々とあって力を得たかった」


 そこでリーゼは語り始める。


「ソフィアのこともあったし、自分もまた強くなりたいと思った結果が、これというわけね」

「王女様だというのに、ずいぶんとまあやる気に満ちた人だな……まあいいさ。ともあれそちらは人間の技術を結集し、力を手に入れたわけか」


 ――さすがに今後魔王が襲来するなどといったことにはならないとは思うが、この大陸には多少なりとも爪痕が残っているのも事実。例えば瘴気。魔王が襲来したことで自然環境にも変化があり、魔物が強くなった地域も存在する。

 リーゼの言う危機感というのはそういうところも関係しているだろう……つまり、現在大陸には技術を開発するだけの理由が存在するというわけだ。


 これはある意味俺達に追い風となっている部分もある。クローディウス王が組織作りを俺に提案したことは、たぶん魔物が強くなったといった問題も生じ、説得しやすかったことも関係しているのだろう。


「やり方は明瞭にわかった。とはいえそこには問題点がもいくつかある」


 エーメルが語る――その間にリーゼは前に出た。


 それは大上段からの振り下ろし。動きはなんとなく見覚えがある。確かに斧技における汎用中級技『クレッセントムーン』だ。

 名の通り三日月を想起させる弧を描く斬撃技で、威力も十分。魔物ならば武具による強化もあって一撃で打ち砕くだけの威力を持っているはずだ。


 それに対しエーメルは――真正面から受ける構えを示す。


「全力の一太刀、受けて立とう」


 言葉と同時に両者が激突。大剣とハルバードが軋み、先ほど以上の盛大な音を発した。


「――そして、問題点その一だ」


 エーメルはなおも語る。それと同時にリーゼの斬撃を、弾いた。


「武具による強化というのは、人間らしい発想と言える。ただ問題点はそれはあくまで使用者の能力を強化するものであり、肝心の使用者の能力が低ければどうしても見劣りする」

「それはわかっているわよ」


 応じながら二の太刀を加えるリーゼ。だがそれをエーメルは軽くいなした。


「そして問題点その二……その一は強くなればいいだけの話なので、こちらの方が問題だ。簡単に言えば、武具による強化というのは限界もある。それは武具のポテンシャル以上のことはできないわけだ」


 語りながらエーメルは反撃に出る。途端、リーゼは防戦一方となった。


「人間達の技術によりその強化度合いも増していくのなら話は別だが、そこまで開発を進めることができるのか」

「――これでは駄目だと言いたいの?」


 リーゼは会話をしながらエーメルの刃を弾いていく。エーメルの方は決して手を抜いているわけじゃない。動きの鋭さは戦場にいる時とまではいかないが、それに準ずるくらいの速度と勢いがある。


「いや、駄目というわけじゃない。武具強化についても精霊や天使の力を用いることができれば、十分促進されるだろう」


 堕天使との戦いではそういう形で仲間達は戦っていた。そのことから考えてもリーゼの手法は間違っていない。


「技量は今、私の攻撃を防げていることからも十分過ぎるほどだ。残る課題は出力をどう底上げするか、だろうな」


 エーメルが猛攻を仕掛ける。対するリーゼは最初の頃は技量で防いでいたが、やがて耐えきれなくなり、押し込まれた。

 気付けば彼女の首筋に大剣の切っ先が。一騎打ちではやはりエーメルに分があるようだ。


「……と、解説を交えながら模擬戦闘をやったが、想像以上に良かったと思うぞ」

「喋りながらである以上、そちらはずいぶんと余裕もあったでしょう?」

「不満なのかもしれないが、これから鍛えていけばいいだけの話だ」


 ここでエーメルは俺へ首を向け、


「筋はかなりいいと思うんだが、どうだ?」


 ――なんというか、合格にしないといけないような流れになっている。いや、戦いぶりを見れば結構いいとは思ったし、頷いてもよさそうな内容なんだけど。

 俺はソフィアを見た。そして彼女は小さく頷く。こちらの判断に任せる、ということか。


 とはいえ、一つ確認しておかなければならないこともある……俺は少し思案した後、リーゼへ向け口を開いた。


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