新たな来訪者
「初めまして、英雄ルオン」
俺のことを見て、来訪者はそう挨拶をする。
現われた人物は女性で、二十歳前後くらいだろうか? 白銀の鎧を身にまとった騎士然とした格好。キラキラと輝くような金髪と、特徴的なのは瞳の色。ずいぶんと艶やかな紫色をしている。容貌なんかは常人離れしていて、ソフィアが放つような気品も感じさせる。普通の騎士でないことは一目でわかる。
で、奇妙なことが一つ。見た目は騎士なのだが剣を腰に下げているわけでもないし、背中に何か背負っているわけでもない……魔法か何かで武器を作るのだろうか?
「――お久しぶりです」
次に反応したのはエイナ。どうやら出迎えを指示された人物は、目の前の女性らしい。
「ええ、久しぶりエイナ。実を言うとソフィアが行方不明になった時、駆けつけようとしたのだけれど止められたわ」
「あまり事を荒立てないで欲しかったのもあるので、良かったと思います」
「ところでソフィアは?」
「お部屋にいらっしゃいます。そちらに案内するのとルオン殿の紹介を、と思いここへ誘導しました」
エイナの言葉に女性は改めて俺のことを見る。そして右手を差し出し、
「自己紹介を。ジイルダイン王国第一王女、リーゼレイト=フィアラン=ジイルダインと申します。リーゼでいいわ。お会いできて光栄です」
「ルオン=マディン。俺に対しては気兼ねなく話してもらえれば」
握手に応じながら言うと、彼女は笑い、
「そう? なら私もそれでいいわ……私はソフィアの友人として来たのだけれど、名前くらいは聞いているかしら?」
俺は頭の中を探ってみる。旅の中でチラッとなら耳にしたことがあるな。
「ああ、あるよ……といっても俺はあまりソフィアの個人的なこととか聞いていないから、あくまで名前だけだ」
「そう。ソフィアのお母様……つまり王妃様がジイルダイン王国出身で、その関係からよく顔を合わせて話をしていた仲なのよ」
ふむ、なるほど。友人として心配になってここへ来るのは理解できる……のだが、
「なぜ完全武装なんだ?」
「え? それはもちろん、話を聞いて協力しようと思って。今すぐにでも戦えるよう準備をしたまでよ」
にこやかに……と、ここでエイナが肩を落とした。
「リーゼ様、本当に一緒に戦うおつもりですか?」
「魔王を討った英雄とソフィアからすれば微々たる力だろうけど、友人として力になりたいの」
その意気は買うけど……王女様なわけだし、どうなんだろう。
「私の立場的に不安もあるだろうけど、一度実力がどのくらいか試してみるのも良いでしょう?」
「……だそうだが、どうするルオン?」
エイナが訊いてくる。俺の一存で決めていいのだろうか……。
なんとなくだけど、彼女からはソフィアと同じ匂いがする……その、一度決めたらてこでも曲げない頑固さとか。不採用だとしても筋の通った理由がたぶん必要だろうな。
「えっと……とりあえずどうするか少し考えさせてくれ。ひとまずソフィアに会って話をすればいいんじゃないか?」
「そうね。なら先にソフィアに会いに行こうかな」
「ご案内します」
エイナがリーゼと共に部屋を去る……なんというか、発する雰囲気がソフィアと対極の王女様だな。ソフィアが儚く、月が出る神秘的な夜が似合うとすれば、リーゼは快晴かつ真昼の清々しい空の下が似合いそうな感じ。
『ずいぶんとやる気を見せる王女様だな』
ガルクが感想を述べる。俺は心の底から頷き、
「たぶん城下には彼女に帯同した親衛隊とかがいるんだろうな……駄目だと一方的に突っぱねるのもまずそうだし、それに人間側……ジイルダイン王国の援軍って形だろうから、無下にはできないな」
『実力的なものを考慮し、どうするかは決めればいいだろう』
「そうだな」
合格不合格などの評価基準なんかも決めないといけないのだろうか……そしてどうやって実力を試そうか、などと考えていると、
「おーい、さっき綺麗な人とすれ違ったけど、誰だ?」
エーメルがひょっこりと広間に現われた。
「会議はいいのか?」
「クロワと色々話していて疲れたから休憩だ。それよりさっきの女性は?」
「ソフィアの友人である王女様」
「へえ、彼女も」
そう呟いた時、エーメルは何かに気付いたように、
「……王女様というのは、誰でも武装しているのか?」
「正直、ソフィア達が例外だと思うぞ……」
そもそも王族が先頭に立って戦うとか……まあカナンとかのことを思い返せばあり得ない話ではないだろうけど。
「彼女は強いのかな?」
「さあね。なんだか自信はある様子だったけど」
一瞬、エーメルに協力を願おうか考えた……が、これはどうなのか。
悩んでいると、エーメルは自分のことを指差し、
「もし良かったら、私が協力しようか? 戦力となるか見定めることはできると思うぞ」
「いや、それについてはどうするかまだ検討中だから」
「おーい、待ってくれよ。完全に私のことを信用していない雰囲気だな?」
「――当然だと思うけど」
と、言及したところでエーメルは苦笑した。
「いやあ、信用されてないなー」
「日頃の行いだな」
「まあ待ってくれ。私としても今回の件で色々と恩義もある。手助けしたいと思っているのは事実だぞ」
「恩義……?」
「結果的にビゼルの凶行を食い止めることができる……それはつまり、私の領民も救われるということだ」
言いたいことはわかるが……と、ここでエーメルは手をポンとたたいた。
「そうだ、ルオンさん。私も今後の身の振り方をどうするか悩んでいたんだ」
「今後……というと、この戦いが終わった後のことか?」
「そう。この戦いがクロワの勝利で終われば、魔界にいても私の力が活用されることはなくなるだろ。混乱により武力が必要になるとしても、クロワの部下やエルアスに任せた方がいいし、何より当のクロワが私に仕事をさせない気もするし」
まあ、それはありそうだな。
「そういうわけで、雇ってくれないか? この城で組織を作るんだろ?」
「……俺達の敵となる存在と戦いたい、みたいな感情も含まれるよな?」
「そこは否定しないが、組織である以上はきちんと指示も従うし、仕事はするぞ」
うーん……エーメルに何かを頼むとすれば当然戦闘面になるのだが……戦いについてだけ言えば真面目だったし、そういう意味では信用できるのかもしれないが。
「先に言っておくが、戦いに関することについてはきっちりやるぞ。訓練で加減できず誰かを殺めるなんてもっての外だ。それこそ加減の知らない、素人のやることだぞ」
「……言い方はともかく、戦いについて自信を持っていることはわかった。ただ俺の一存で決めるのは難しいから、ソフィアやクロワとも相談するぞ」
魔王候補という立場から、採用できるかもわからないが……それにリーゼという王女様についても。やる気があるのはいいのかもしれないけど……いや、王女様がやる気になっていたらそれはそれで面倒な話なのか。
ソフィアと話をしに行ったみたいだし、ひとまず終わるのを待って彼女とどうするか検討すればいいか……そんな風に結論を出し、俺はリチャルの手伝いにでも行こうかと、広間を出ることにした。




