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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魔王の庭

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果てしないもの

 大陸に到着しても俺達はひとまず止まることなく、人目につかないように移動を続ける。速度を緩めたことでクロワは気配を隠す魔法とかを使ったため、悪魔が人目につき混乱するという問題はなくて良かったのだが――


「うーん……」


 バールクス王国までもうすぐだという時に、俺は唸り始める。それにソフィアは首を傾げ、


「どうしましたか?」

「いや、大陸に到着したからガルクかレスベイルが察知するかと思ったんだけど……反応がないんだよな」

「ガルクの方はルオン様の魔力を捜索しない限り、察知はできないのでは?」

「それもそうか。ということはガルクは現在大陸を探し回っているわけではないか、別の所を調べているってことかな」

「レスベイルの方は、たぶんルオン様から命令を受けていないので、魔力を調べるということをしていないのかもしれませんね」

「確かにそうだな」


 ならば事前にガルク達がこちらを察知する可能性は低いというわけだ。いきなり城に到着して驚かれるわけだが……仕方がないか。


「ソフィア、城へはどう入る?」

「普通に正門から入りましょう。あ、前に帰ってきた時のように、外套で顔を隠すくらいはしましょうか。町中で見つかったら混乱はあるでしょうし」

「そうだな」


 俺は荷物をたぐり寄せ、中からフード付きの外套を取り出す。こういうことも考慮して事前に用意しておいた。


「僕らはひとまず、ルオンさん達に任せて無言に徹するということでいいか?」


 クロワが問う。俺は少し思案し、


「そうだな。俺達の方から紹介し、事情を説明させてもらう」

「わかった。あ、それと一つ頼みというかやりたいことがある」

「やりたいこと?」

「できればこれから行く首都の全景が見れる場所に降りたい」


 何をするのか……俺とソフィアは一度互いに顔を見合わせ、


「山、かな?」

「そうですね。クロワさん、首都と城は山を背にしていますから、そこに降り立てばいいと思います。人もおそらくいないでしょう」

「わかった」


 そうして移動を重ね……やがて俺達は首都近くの山へと到着した。そこで悪魔から降りると、当の悪魔は限界だったのか煙のようなものを上げ小さくなっていく。


「さすがにもう限界だったな。エーメルの強化を解いた瞬間これだ」

「……こっちも結構しんどかったよ」


 肩を回すエーメル。表情にはちょっとばかり疲労感が出ている。


「できればベッドの上で休みたいものだが……ここからはルオンさん達次第だな」

「頑張るよ。さて、ソフィア。山を下りて町に入ろう」

「はい」


 まずは下山……と、その途中でクロワはじっと町を眺める。


「……やはり爪痕が残っているな」


 クロワの呟き。なるほど、復興具合などを確認したかったのか。


「クロワとしては、町がどうなっているかを見たかったのか?」

「そうだな。首都でどのくらい被害が出たのか……そうしたことを一度見ておきたかった。多くの人の尽力により、相当な早さで町が復興しているのはわかる。けれど、魔王との戦いは深く傷を負わしているのは間違いないようだ」


 彼としてはどのくらいの被害なのかを改めて確認し、交渉の際にどう話そうか考えている、といったところかな。


「……目の前の光景を見て、改めて理解できる。僕のやろうとしていることは、果てしないものであると」


 クロワはそう語ると、空を見上げた。


「目の前の町は復興しつつある……が、攻め込んだのはここだけではない。完全に潰えた都市もあるだろうし、多数の被害を出した場所もあるだろう」

「……それでも、やるんだろ?」


 俺の疑問にクロワはすぐさま頷いた。


「ああ、やらなければならない」

「正直、俺としてはクロワがそうまでして向き合っていることに驚きだよ」

「……僕自身、他の魔族とは異なる価値観を持っていることは認める。そしてこの価値観の違いは、魔王が父親であることもたぶん、関係していると思う」


 魔王……結局のところ、魔王がやろうとしていたことはある程度推測しているが、かといって魔王の計画が遂行した結果どうなるのかはわかっていない。ただ確実に言えるのはこの大陸の人々が相当数犠牲になることだけだ。

 魔王はそれを踏まえた上で、大陸に侵攻した……この世界の未来がどうなるかを克明に知り、魔王はそういう風にやらざるを得なかった、などと解釈することもできるが――


 色々と思考しているうちに、俺達はいよいよ町へと近づく。ひとまず俺やソフィアが行方不明になったことで町中が混乱している様子はない。というか、


「……十中八九、俺達が行方不明なのは隠しているよな」

「だと思います」


 ソフィアが賛同。突如消えたとあれば、そういう方向に持って行くのは至極当然か。

 神霊を始め捜索できる面々は揃っているし、隠している間に見つけようという魂胆だったと思うけど……実際は魔界に飛ばされていたわけで、どれだけ大陸を探し回っても無理であった。


「ソフィア、このまま俺達が姿を現さなかったら、どうなると思う?」

「予想できませんね……ただ永遠に隠し続けることは無理でしょうし、どこかのタイミングで公表し、大陸総出で探すようなことになる……かもしれませんが」


 英雄と王女だし、他の国が奮起する可能性もありそうだけど。


「ともあれ、城に入った直後から一騒動なのは間違いないよな……」

「ですね」

「……僕らは引っ込んでいた方がいいか?」


 クロワが問う。言われてみれば確かに、一度宿にでも避難してもらって、落ち着いた時に話を、というやり方もありだが……。


「いや、俺達と同行していないことで警戒されるかも。離ればなれになっている状況で誰かが魔力を探索して魔族が町にいるということを突き止めてしまったら、その時点で俺達が説明しても聞き入れてもらえない可能性がある」

「つまりそれほど魔族に対し警戒を示していると」

「魔王との戦いから復興はしているし、以前と比べれば警戒度合いも緩んでいるとは思うけど、そういう危険性は排除した方がいいと思う」

「わかった。ならばこのまま城へ向かおう」


 クロワの声がやや硬質になっている。言ってみれば敵陣へ赴くようなものだ。クロワが城の人間を敵だと認識していなくとも、向こうが同じというわけではない。

 彼としてはおそらくアンジェの存在が気になるところだろう……俺はソフィアに視線を送り、


「ないとは思うけど、クロワ達に誰かが攻撃した際、どう動くか役割を決めておこうか」

「そうですね。私はアンジェを守ることにしましょう」

「うん、なら俺はクロワだな」

「私は?」


 エーメルが問う。それに俺とソフィアは答えなかった。

 交戦する可能性として最たるものが「エーメルが暴れる」なわけで……と、彼女はどうやら察したらしく、


「何度も言っているが、ここまで来て暴れるようなことはしないぞ」

「……そっちが無茶やったら俺やソフィアでもフォローできなくなる可能性があるから、そこはしっかりしてくれよ」

「ああ、もちろんだ」


 ……最初にやらかしたところからスタートしているので完全に信用できないのがなあ。


「もし動き出しそうだったら僕がぶん殴ってでも止めるさ」


 そこでクロワの発言。エーメルは「ははは」と快活に笑い、


「そうだな、ならクロワに頼もうか」

「……頼むから、下手なことはしないでくれよ」

「ああ、もちろんだ」


 さっきと同じことを繰り返すエーメル。それに俺やソフィアは苦笑し、クロワは若干肩を落としたが……以降追及はせず、城へ歩む。

 そうして俺達はようやく帰還する……堕天使を打倒後この大陸へ戻ってきた時以上に不安を抱きながら、俺達はとうとう城門へと辿り着いた。


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