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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魔王の庭

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奇策

 城へ帰還してすぐ、クロワはゼムン、アンジェと顔を合わせ状況を説明する。


「敗北……しかし、クロワ様はまだあきらめていないと」

「そうだ。よって次の策に打って出る」

「具体的には?」


 ゼムンの問いに、クロワは一時沈黙した。

 場所は会議室。ここにいるのは俺とソフィアに、クロワ達とエーメルだが……聞き耳を立てられているような状況ではないと思うが、それでも話すのに躊躇うのか?


「……何かしら、思惑があるようですね」


 ゼムンが指摘。それにクロワは息をついた。


「すまない、考えている策をきちんと説明しなければならないのはわかっているのだが」

「それだけ、覚悟のいる作戦だということですか」


 ゼムンの言葉にクロワは重々しく頷く。


「ひとまずフォシアを含め、戦場から逃げ延びた部下達は潜伏し力を蓄えるように指示をしてある。そこから作戦と同時に動いてもらう……が、それにはゼムンの力も必要だ」

「密かに隠れた者達との連絡を取るのが私、というわけですか。しかし私もまた警戒されるのでは?」

「サナクと連携して対処するのはどうだ? 少なくともゼムンではなくサナクならば、この城で活動し続けることはできるだろう」

「確かに、彼がいなければ旧ウィデルス領を素早く統治することはできませんからね。ビゼルとしてもエルアスとの戦いに対し、できるだけ早急に態勢を整えたいでしょうし、彼はおそらく大丈夫なはず」

「賭けではあるが、これが精一杯だろうな……ゼムン、そちらは――」

「なんなりとご命令を。策としてはエルアスとの交渉でしょうが、クロワ様だけでなく私の言葉があれば、傾く可能性はあるでしょう」


 左遷されたとはいえ、魔王の側近だった存在だから……そんな感じだろうな。

 クロワも「そうだな」と応じたが……一瞬、俺のことを見た。それはどこか思慮している風にも見受けられ――


 俺はふと、ビゼルの領土で村を見て回った時のことを思い出す。

 あの時俺は一つ考えついたことがあった。それはきっと可能性が低いことだとして、ひとまず捨て置いた内容ではあったのだが……今見せたクロワの視線。


 そして今から述べる策が、俺……いや、俺やソフィアに関わっているような雰囲気を垣間見せている。そしてクロワは戦場で言った。現在の展開は俺達にとって良い方向に傾くかもしれないと。

 それが意味するところは――思案し終え、口を開く。


「クロワ、一ついいか?」

「ああ」

「クロワがビゼルのことや、戦争兵器のことについて知っていたこと……加え、懸念していたことを含め、俺はある考えが浮かんだ」


 ピクリ、とクロワが身じろぎする。一方ゼムンもまた同様の反応を示し、エーメルは突然何を言い出すのか、という顔を示した。


「間違っていたらすぐに訂正してくれ。まず今回の作戦について。それは単純にエルアスの協力を得るだけ、というものでは断じてない。それをすればクロワは魔王になることをあきらめる形になるからな。エルアスにはビゼルについて警告をして、別に行動するって心づもりなんだろう?」

「ルオン殿?」


 ゼムンが眉をひそめる。それに俺は、


「ゼムンさんにもこれは伝えていないか」

「……ルオンさんがいち早く察するとは、思わなかったな」

「やっぱりそういう手なのか」

「ルオン様、どういうことでしょうか?」


 ソフィアの問いに俺は視線を送り、


「クロワはエルアスとは別の、巨大な戦力を用いてこの戦いに勝つつもりなんだ」

「巨大な戦力……?」

「この場にいる誰もが認知している戦力だ。けれどそれは荒唐無稽で、常識的に考えてあり得ない選択肢。けれどクロワは、それを考えつき、選ぼうとしている」


 クロワの表情が硬くなる。所作は間違いなく、俺が語っていることが真実だと認めている。


「問題は、その手段だ。様々な問題はある……が、ここまで話さなかったのには理由がある。俺やソフィアから信用を得なければ、この作戦は成り立たない。ここまでの戦いで信頼関係は生まれたと俺は思っているけど、それでも無茶な方法だから今まで話すことをしなかった……そんなところか」

「話が、見えないんだが……」


 エーメルが述べる。頭をかき困惑している表情。


「つまり、ルオンさんの力を借りるって話か?」

「言い方としてはそれで合っているよ。けれどニュアンスがだいぶ違う」

「もったいぶった言い方になってるな」

「言う前にクロワに再度確認したいからな……この策で、いいんだな?」


 俺の問いにクロワは、重々しく頷いた。


「そうだ。ここから逆転するには、この手しかないだろう」

「事前に考えていたのか?」

「ルオンさんと出会ってから浮かんではいた。けれど、これを利用せず勝てればいいと思っていた……正直、分が悪すぎる博打だし、ルオンさん達にも大きな負担を願うことになってしまう」

「そうだな……けれど決して不可能ではない」

「ルオン殿、それは一体」


 ゼムンが口を開く。巨大な戦力とは何なのか……そんなものがどこにあるのか。


「クロワが認めた以上、いいかな。単純な話だ。魔界以外の力を借りる手を思いついたってことだよ」

「……は?」


 エーメルが素っ頓狂な声を上げる。それと同時にソフィアが口元に手を当て、


「それは、もしや――」

「そうだ。巨大な戦力とは……俺達の世界にいる、精霊や竜、天使のことだ」


 ――その言及に対し、ゼムンとエーメルは言葉を失った。


「こんな手段、無茶苦茶すぎて誰も考えつかないだろう。というかそもそも、魔王候補同士の争いに天使や精霊が介入するなんて誰も思わないし、あり得ないと考える」


 そう述べた後、俺はクロワへ向ける視線を鋭くした。


「ただ、俺やソフィアがいればどうなるかわからない……少なくともビゼルが魔王になるような結末になったら、俺達の世界にも多大な犠牲が生じる危険性がある……だから何をしようともビゼルの所行を止めるべきだとは思うし、そういう風に話ができれば戦いに参加してくれるんじゃないか、とも思う」

「なるほど、確かに荒唐無稽だ。馬鹿馬鹿しくて誰も思いつかない」


 いっそ笑い出しそうな雰囲気のエーメル。けれど作戦について反対というわけでもなさそうだ。


「実現可能性はともかくとして、面白い一手ではあるな。戦争の状況をあーだこーだ言っているのがアホらしくなるほどに」

「おそらく、戦争は勝てるはずだ」


 そうして俺は続ける。


「今回の戦いで、魔族以外……魔王を討てるだけの力を持つ俺やソフィアであっても自由に動くことができた。つまりやり方によっては天使や精霊が魔界に入り込んでも気付かれずに戦うことができる」

「あー、つまり戦争兵器を彼らの力で一気に粉砕し、ビゼルの優位をなくすと」

「そうだ。戦力を得ることができればだけど」


 クロワはなおも沈黙……俺達にとって話が良い方向に転がるというのはおそらく、この策ならば俺達を元の世界へ戻すことが優先されるため、帰還が早くなると言いたかったわけだ。


 また、俺達が元の世界に帰る手法などについては――


「仮にその策を実行するにしても」


 と、今度はソフィアが話し始める。


「私達が元の世界に帰ることができれなければ無理です。そこについては、大丈夫なんですか?」

「それは――」

「案がある、だろ?」


 俺が先んじて告げる。それにクロワの口が、完全に止まった。


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