非道な策
「村民を徴発しているという事実を踏まえれば、兵器を完成させるための労働力確保、といった可能性も考えられる。とはいえその場合、僕らが攻めてきた段階でやることではない。もっと前より動いていなければおかしい」
クロワの言葉に、俺は頷く。
「確かにそうだな」
「加えて避難だとしても、最寄りの町ではなくわざわざビゼルの拠点がある方角へ移動させるのも変だ。そもそも僕らはそちらへ進撃している。避難という名目にしても、違和感は生じる」
「はい、それにも同意します」
ソフィアが返事――避難としても方角は確かに疑問だ。クロワは今ある情報から、何かしら心当たりがある様子。
「少年と出会ったことで、僕はもう一つの可能性を考えた……それが村民の徴発」
「村民と戦争兵器……この二つが関連していると?」
こちらの質問にクロワは首肯し、
「そうだ……少々無理な解釈と思うかもしれないが、聞いてくれ……もしかするとビゼルは、村民を戦争兵器の魔力源としているのではないか」
……何?
「魔力源……って?」
「兵器を使う場合、魔法と同様に魔力を必要とする。それも兵器と名が付けば当然、相応の量が求められる。それを捻出するために、村民を利用したのではないか――」
「さすがに、論理が飛躍しているようにも思えますが」
と、ソフィアが口を挟んだ。
「確かに村民の行方については疑問点はありますが……」
「可能性の話だ……とはいえ兵器を仮に使うにしても魔力源の問題はつきまとっていた。それを解消する術がこれなのではないか、と僕は思ったんだ」
「クロワの言い方だと、魔力源といっても非道なやり方をしている推測みたいだな」
俺は手を口元に当てながら告げる。
「魔力源に利用していると推測したとしても、普通は連れて帰った村民に魔力を注がせるとか考えるものだけど……クロワは村民そのものを犠牲にしている、って考えているのか?」
「……そうだな」
彼の言葉は極めて重かった。そこで俺はさらに続ける。
「もう一つ言うと、クロワの言い回しだと兵器は完成しているという前提だよな」
この確認に彼は即座に首を縦に振った。
「ああ、そうだ」
「とすると、現在ビゼルは兵器を使うための準備をしている……けど、居城周辺を観察している使い魔はそうした様子を捉えてはいないけど」
「居城以外の場所にある可能性もある。加え、兵器は一つではなく二つ、三つとある可能性もゼロではない」
……それは最悪のケースだな。例えば兵器が脅威ならば俺やソフィアが壊しに行くことで問題を解消できる可能性はある。けれど複数あるのならばさすがに辛い。
「完成している、していないにしろ、魔力源の問題についてはつきまとう。僕の推測が間違っているにしても、そこは違わない」
「魔界の土地に眠っている魔力では無理なんですか?」
これはソフィアの意見。
「魔王との戦いで、私達は魔王幹部が私達の大陸に居城を構え大地に仕込みをしていました……それは自身の魔力を大地に注ぐ行為だったわけですが、逆に吸い出すことも可能では?」
「大地の魔力を使う場合、課題に直面する。そうした魔力はそのまま兵器に転用することができない。大規模な変換器が必要なはずだが、そうした物が稼働していれば魔力に変化が生じるはずで、こちらも気付く」
「そうなんですか……」
「加え、魔族は大規模魔法などを行使できる存在は多く、それこそ大地の魔力を吸い上げて放つような魔法もある。しかし防衛側も黙っていない。そうした強大な魔法に対抗するべく、防衛側も魔力探知技術を発展させ、敵の領土内でも魔力を吸い上げているということがわかるような手はずを整えた……僕の領地もエーメルの領地もそこは同じだ」
……なるほど、クロワが言いたいことはつまり、
「大地を介して魔力を供給する場合、どうあがいても僕らに気付かれてしまう。もし露見しないよう動くのなら、大地に干渉する以外で魔力を集める他ない」
「それが……村民ですか?」
「そうだ。避難というのはあくまで口実。村民に眠る魔力を何らかの形で吸い出し、兵器に転用する……それが僕の考えだ」
「……クロワの説明からすれば、確かにあり得なくはないな」
俺はそう口にした後、彼を見据え語る。
「ただ、やっぱりソフィアが言った通り論理が飛躍しているように思える……」
「さすがにこれは、と僕も思っているが……ただ村民がずいぶんと違和感のある動きをしているのは、ルオンさん達も理解できるはず」
彼の言葉に俺とソフィアは同時に首肯。
「よって、単に罠を掛けようとしているのではない……僕はそんな風に思う」
そうやって語るクロワの表情は、どこまでも厳しい。と、俺はここで疑問が湧いた。
「クロワ、一ついいか?」
「ああ」
「エーメルはビゼルのことを気にくわない存在だとは感じていたみたいだが、少なくとも魔王候補としての資質は持っている……そんな見解を抱いていた。けれどクロワはどうも、ビゼルに対しあまり良い印象を抱いていない……何か根拠があるのか?」
「根拠というには薄いかもしれないが、ビゼルの素性について危惧している。彼はそれこそ、魔王が封印された時期から存在していたかもしれない存在だ」
そう言うと、クロワは息をついた。
「封印される前の魔族は、今よりもずっと血気盛んだと聞いている……それこそ、魔王の寝首をかこうと謀略を巡らせているような者までいたと。絶対的な存在でありながらそれは同胞にとって妬みの対象にもなっていたわけだ」
「ビゼルはそうした者だったと?」
「そんな風に思っている」
――彼は魔王が封印されるより前からビゼルは存在し、その時代に存在していた戦争兵器のことも知っている。よってビゼルのことをエーメルのようには思っておらず、何かがある……そんな風に解釈しているのか。
「……僕の推測が荒唐無稽なのは理解している」
語りながらクロワは俺達から視線を外した。
「ただ、万が一そういう可能性があったなら……まずいことになるだろうと考え、村を確認したんだ」
「……クロワの言うとおり、さすがに村民を犠牲にして魔力供給源を確保しているとは思いにくい。他に考えられるのはやっぱり罠があるから避難させたってことか?」
「そうだろうな。罠……それが伏兵なのか、それとも戦争兵器を利用するのか……そうした中でもし多量な魔力供給が必要ならば、偵察やルオンさんの使い魔で察知できるはずだ。事前に把握していれば対処もできる……とは思う」
「そうだな」
戦争兵器が完成しているとしたら、相応の策をとる必要があるかもしれない……ソフィアもまた俺と同じ見解のようで、険しい表情。
「ただその兵器は強力であるが故に魔力を多大に消費するし、だからこそそう乱発できるものでもないはず……一度どうにかできたらいいってことだけど、、その一度が大変なんだよな」
「そうだな……どうするか」
クロワは俯き――その所作を見て、俺は一つ思いついたことがあった。
「……クロワ」
名を呼ぶと、彼は俺に視線を向ける。
「どうした?」
問われ――俺は少し沈黙を置いた後、
「……いや、ごめん。やっぱりいい。ひとまず調査は完了したわけだし、今日のところは休むことにしようか」
クロワは提案に「そうだな」と同意し、話し合いは終了するすることとなった。
――ふと、思いついたこと。それは根拠のない推測。けれどもしその推測が真実であったのなら、この戦いは思わぬ方向に転がるかもしれない。
とはいえ、それが単なる考えすぎなのか真実なのか……どちらにしても、やることは一つだ。
「明日、俺は使い魔でビゼルの領内を調べよう。怪しいところがないか丹念に調べる」
「頼む」
クロワは頭を下げる。彼の懸念が果たして当たっているのか……不明なまま、夜は更けていった。




