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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魔王の庭

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山脈の要塞

 まず、要塞の左右に広がっているのは断崖絶壁の山脈。見渡す限り同じような景色が続いているため、これでは確かに他の場所から侵攻するのは難しそうだ。魔族や悪魔ならば空を飛ぶことができるわけだが、それは相手も同じであるため、結局は拠点を潰し支配領域を確保していかなければ攻略は厳しい。


 そして、真正面に存在する要塞……それはかなり大きい。国境を守る関所という言い方もできるのだが、山肌に沿って建築された砦は恐ろしいほど大きく、なるほどこれは容易に突破できないだろうと想像できる。


「ルオンさん、門は見えるか?」

「ああ」


 入口の門は当然閉め切られているわけだが……重厚な鉄門で、さらにその周囲には悪魔などが飛び交っており、近づく者を排除する意思がありありと感じられる。


「敵の数は相当だな……当然ながら砦の中にも魔族はいるわけだろ?」

「そうだが、全部が全部強いというわけではないだろう。例えば魔力で多少身体強化ができる、といった程度の能力者も大なり小なりいる」


 ……人間と比べればそれでも脅威だけど。


「もし門に近づけば……そもそも山肌近くはビゼルの領域だ。そこへ踏み込んだら即座に悪魔が飛来する。その状況下で僕達は攻城戦をやらなければならない……悪魔を多数投入すれば制圧も不可能ではないはずだが、その時点で僕らは疲弊し、ビゼルの本拠を攻略できるような戦力を維持することは難しいだろう」


 うん、まさに八方塞がりだな……そこで俺とソフィアの出番か。


「まず門を破壊してくれ。浮き足だったところへ畳み掛け、砦を制圧する」

「他にやることはありますか?」


 ソフィアが問う。クロワは少し考え、


「入口さえ突破できればこちらで攻略は十分できると思うが……」

「しかしできるだけ戦力を減らしたくない、というのもありますよね?」


 確認の問い掛けにクロワも頷くしかない。


「ならば、私とルオン様で砦の中へ潜入する、というのはどうでしょうか?」

「立ち回るにしても、味方に見られない場所で戦うのならそう問題にはならないし、いいかもな」


 俺がソフィアに続くと、クロワは確認の問い掛けを行う。


「二人とも、いいのか?」


 それに俺達は同時に頷き、今度はこちらが発言。


「で、作戦なんだが……クロワが突撃するというのなら敵はそっちに狙いを定めると思う」


 俺は頭の中で敵の動きを想定しながら語る。


「その隙に俺が砦の中に入って、指揮官級の敵を倒す」

「僕は陽動ということか」

「そうだな。とはいえクロワが場に現れれば敵も相当気合いを入れて仕掛けてくるだろう。そうした敵を撃滅すれば、俺達の活躍がかすむくらいにはなるんじゃないか?」


 途端、クロワは苦笑した。そこまで考えて戦うのか……そんな感情が読み取れた。


「わかった、その案が良さそうだから乗ることにしよう。ただし戦況によってどう敵に応じるかは変わってくるはずだ」

「そうだな。そこは適宜対処するしかない」


 とはいえ俺としては決して悲観的というわけではない。要塞に戦力がかなりあるとしても、軍となって攻め込んだこちらには及ばない。最初の関門である門さえ突破すれば戦力差で押し潰すくらいのことはできるだろう。

 俺は改めて要塞を見据える。堅牢な城壁と門は、来る者を全て拒むような圧倒的な気配がある。確かにあの有様ではクロワ達だけで突破できたとしても被害は大きい。ビゼル達との決戦までもたないだろう。


「ソフィア、始めようか」

「はい」


 頷くと、俺とソフィアは手を繋ぐ。そして魔力を高め始めた。


 融合魔法――俺やソフィア単独でも門を破壊することはできるかもしれないが、おそらく魔力障壁なども備わっている以上、確実性を持たせたいと思った結果がこれだ。なおかつ周囲に「これだけ仰々しいことをしないといけない」とポーズを示した方が警戒をもたれないだろうという思惑もある。


 使う魔法はウィデルスの部隊に放ったのと同じ『ディバインロード』だ――以前放ったよりもさらに効果範囲を絞り、門周辺だけに影響があるように調整……これについては戦争までの段階である程度調整はできた。

 今回は時間制限などないし、なおかつ向こうから仕掛けてくる気配もゼロであるため、ゆっくりとできる……と、山の上で悪魔が数体飛翔しこちらを警戒しているような所作を示した。


「こちらに来るか?」

「ここはまだ僕の領内だ。基本的にビゼルは他の領域を侵そうとはしないが……今回も同様みたいだな。襲ってくることはないだろう」

「それ、何か理由があるのか?」

「自分から侵略したという行為をやりたくない……というより政治的な立場として自分から仕掛けたわけではなく、あくまで防衛しかしていないという形にしたいのだろう……ビゼル自身に理由があるのかまでは不明だが」


 ……例えば「ビゼルは制約上自分の領地から出られない」みたいな理由があってもおかしくなさそうだけど。


「ビゼルに事情があって領地から出ない、という可能性は?」

「例えば領地内に魔法が張ってあって、領域外に出るとそれが崩れる……といった可能性もゼロではない。ただ大規模な魔法ならばこちらも気付くと思うが、十分あり得る話ではあるな」


 領地全体に魔法を使っていればさすがにわかるとは思うけど……頭の中で想定はしておいてもいいか。絶対に負けられない戦いなわけだし、用心しておくに越したことはない。

 俺とソフィアは黙々と作業を進め、やがて魔力が完全に収束する。その間ビゼル側は一切動かない。あくまで専守防衛の構え。


「クロワ、完成したぞ」

「よし、エーメル側が攻撃するタイミングを待つ」


 何かしら合図がクロワに届くということみたいだが……これでエーメルが動かなかったらずっこけるところだな。


「現在エーメルがどう動いているのかわかるのか?」

「多少だが。ひたすら南下し続け、いよいよビゼルの領内に迫る段階だ」


 そう答えた後、クロワは一度言葉を切り、


「この要塞攻略でおそらく一日は使うことになるだろう。加えてエーメルとの合流までに数日。ただしこれはエーメルも問題なく敵軍を突破しての話だ」

「……ビゼル側は、エーメル側に戦力を傾けるよな?」

「ああ。北側は平原が広がっているため、必然的にそちらの戦力を厚くするはず」

「もしエーメルが苦戦した場合は?」

「僕達が救援に向かう他ないな。こちらの手勢だけでビゼルの城を落とすのは難しい以上は」


 ……ただし、それをしている間にビゼル側も相応の策をとってくる、か。相手の領地に入り込んでからは時間との勝負なのは最初からわかっているけど、どこまでスムーズにいけるのか。

 うーん、改めて考えるとこれは俺やソフィアが想像以上に頑張らないといけないかもしれない。ただしあまり派手に暴れると事情を知らない魔族達に警戒される恐れもあるため、慎重にならないと。


「クロワ、準備ができたら合図を頼む」

「ああ」


 彼はそう応じながら要塞を見据える。彼自身どう戦うのか考えているところかな。

 周囲では部隊が展開して戦いの準備を始めている。俺とソフィアはそうした光景を眺めながらエーメル達が戦い始めるのを待つことに。


 とはいえ、時間はそう掛からなかった……およそ十五分くらい経過した時だろうか。


「……進軍した勢いでエーメルは始めたようだな」


 クロワは苦笑。相変わらず無茶をする、って感じか。


「向こうは始まった……ルオンさん」

「ああ。ソフィア、いくぞ」

「はい!」


 返事と共に、魔力を一気に高めていく――いよいよビゼルとの戦いが始まった。


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