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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魔王の庭

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決戦への道

 さて、エーメルと急遽作戦会議と相成ったわけだが、正直なところとれる選択肢はそう多くないと思うが、どうなるか――


 まずエーメルが自身の領内にいる戦力数を打ち明ける――というかそんな機密情報明かしていいのかと思ったのだが、嬉々として話す様を見て質問する気も失せた。


「……そちらの状況を明かした以上、こちらの手の内も晒すべきか?」

「別に構わないよ。そもそもそっちは領主に就任してから日も浅いし全部把握しているわけでもないんだろ?」


 指摘にクロワの目が一瞬細くなる。それにエーメルは両手を挙げ、


「ああ、すまない。探り合いをするつもりはないんだ。ただ領土を接収したことのある私だからわかるんだよ。デカい領土を併合した後はちょっとばかり事務作業が多くなる。辟易するくらいにな」


 ……戦闘狂なわけだし、やっぱそういうのは嫌らしい。


「そっちにはサナクっていう裏方の仕事が上手いヤツがいるからそう心配はしてないさ……で、だ。ウィデルスの資料か何かを見てこっちとコンタクトを取ろうと思ったんだろ? 今私が言った戦力情報と、ウィデルスが調べた情報……大体同じだろ? それで少なくともこっちが嘘言っているわけじゃないのはわかるだろ?」


 クロワは沈黙――はあ、なるほど。エーメルはクロワを信用させるために言っているのか。

 とはいえ、そうまでして信用させたいと思うのは……。


「……確かにウィデルスが調べ上げた内容とほぼ一致する」

「あいつはそれを調べてどうするつもりだったんだろうね?」

「手を組んでビゼルを討てるか、算段をつけていたんだろう……少なくとも嘘を言っていないのはわかる」

「私としては、領土内にいる民が無残にも殺されるって事態は避けたいわけだ。けどまあ、それ以外だったら基本的に望む相手と戦える段取りをつけてくれるなら、要求は飲むさ」


 ……本当、無茶苦茶な魔族だな。最低限の保障さえあれば自分の身だって滅んでも構わないって感じだ。

 これはクロワにとってやりやすいのか、やりにくいのか……多少沈黙を置いた後、クロワは話し始めた。


「いいだろう、やることなすことこちらとしては蹴り飛ばしたくなるが、少なくともビゼルの部下と戦うために動いているという大きな理由がある。そのために、僕と協力する……で、いいんだな?」

「ああ、それでいい」

「とはいえ察しの通りこちらは態勢が完全に整っていない……加え、ビゼル側の防備はウィデルスの時から既に完璧だ。新たに領主となった僕が率いて勝てる道理は、本来ない」

「よって二人の力を活用するってわけか」


 エーメルは俺とソフィアを一瞥。そこでソフィアがクロワへ口を開いた。


「私達が戦端を開く……ということですか?」

「ウィデルスに仕掛けた際、強力な魔法を使っていたな? それにより相手の防備を打ち崩す……口で言うのは簡単だが、決して楽な戦いではない」


 そう言いながらクロワはテーブルの上に目を落とす。そこにあるのは、魔界の地図。


「ルオンさん達に改めて説明しておこう。旧ウィデルス領とビゼル領の境となるのは山だ。標高はそれほどないが、西端にある海からほぼ大陸中央付近まで走るこの山脈が天然の要害となって進路を阻んでいる」

「対する北側の国境は単なる平原」


 そうエーメルは口を開く。


「だからこっちも相応の部隊を国境付近に配置してる。とはいえビゼルは襲っては来ない。まともにやり合うとかなりの被害が出るのはわかっているからね」

「山を迂回するのは?」

「すると今度は森だ。砦がいくつもあり、攻略を阻害する。海側も警戒しているため、上陸するのは非常に難しいし、そもそも海上戦となるとこちらも経験がないからな。陸上で戦うより厳しいかもしれない」

「こっち側は領土に侵入するだけでも大変ってことか……」

「とはいえ、魔族同士の戦いでは空を飛ぶ悪魔がいるため――ウィデルスが残した作戦には、エーメルが攻撃を仕掛けて陽動を行う間にウィデルスが大量の悪魔を利用し進軍、制空権を奪取し、国境を陥れるというやり方が案として上がっていた……その狙いは一点」


 彼は地図のある場所を指差す。そこはどうやら関所らしい。


「山脈の真ん中を突っ切る道が一本だけ存在する。この関所は堅牢で、実質要塞と言ってもいい。巨大な鉄門に加え相当な高さの城壁……さらに空には悪魔が常駐し、備えは完璧だ」

「けど、そこを狙うと」

「兵を短期間にビゼルの領土内へ進ませるには、どうしてもこの道を利用しなければならないからな。そこで、ルオンさん達の出番だ。門を魔法で突き破る……魔力障壁も存在するが、二人の魔法ならば抜けるはずだ」

「要塞を破壊するだけの威力って、凄まじいわね」


 エーメルは言いながら俺達のことを眺める。なんだか首筋がゾワッとする……。


「しかし、襲撃した時点で相手には勘づかれるぞ?」

「そこからは時間との勝負だな。どれだけの戦力を山越えできるかによって、状況が変わってくる」

「私は北側から普通に仕掛ければいいのか?」

「そうだな……ここからは運も絡んでくる……あとはルオンさん達の働きによっても変わる」

「つまり、俺達がかなり動き回ることになると」


 こちらのコメントにクロワは申し訳なさそうな顔をする。


「申し訳ないが」

「それは別に構わないけど、問題は俺達のことをビゼルがどの程度知っているのか、だな。それによって向こうの警戒度も変わるだろうし」


 ここで俺はエーメルへ視線を投げた。


「俺達のことはクロワから詳細を聞いただろうけど、それ以前に知っていたか?」

「クロワとしても、まだ二人のことを周知するのは時期尚早と感じているだろ? その結果一応情報封鎖はできていて、少なくとも私は二人のことを把握していなかった……が」

「が?」

「ウィデルスの部隊を倒せるだけの力がクロワにはあるのは事実で、警戒する材料はあるな。ビゼルは色々な場所に密偵を放っているし、楽観視もできない――それでクロワ、仮に関所を突破したらどうする?」

「エーメルの部隊と合流する」

「こちらと?」

「僕らの方は関所の周辺を守る軍と、ビゼルに仕掛ける軍と二つに分ける。よって単独でビゼル攻略は無理だ。エーメルと合流次第、一気にビゼルへ仕掛ける」

「……かなりの短期決戦だな」


 俺は呟く。実際、敵の領地内で長く戦い続けることは難しいはず。となればいかに敵を混乱させてビゼルの下に素早く行けるかに懸かっている。


「確認だが、ビゼルの領地にいる民はどうするんだ?」

「ビゼルの配下ではない領民は、魔王候補同士の戦いにおいて介入はしない。干渉してくることもないだろうから基本的には無視する……もし何かあれば都度対応だな」

「了解した……さて、問題はどのタイミングで仕掛けるか、だな」


 発言にクロワは頷く。


 実際のところ、ビゼルが攻めてくる気配がないようならば、クロワはゆっくり準備を進めるべきだ。俺達の方は早く帰りたいって事情もあるけど、作戦上可能な限り戦力は整えたいだろうし、無理に攻めて失敗するのもまずい。

 どう判断するのか……こちらが沈黙していると、エーメルが問い掛けた。


「クロワ、そっちはどのくらいで準備ができる?」

「領内の状況を確かめるので精一杯だからな。断定はできない」

「そうか。でもまあ、あんまり悠長にはしてられないと思うぞ」

「なぜだ?」


 そこでエーメルは腕を組み、


「ビゼルは何やら戦争準備をしているらしい……しかもただの準備じゃない。それこそ私達の戦力を一蹴するような、強烈なものだ」

「戦争、兵器といったところか?」

「ああそうだ。どんなものなのかは私も全容を確認したわけじゃないが、それこそクロワの領地がボロボロになる可能性もある……かもしれない」


 クロワは口元に手を当てる。戦争兵器……それがどんなものなのか皆目見当もつかないが、少なくともこっちの状況を大きく不利にすることは確かだろう。


「エルアスとの戦いに備えてのもののはずだが、それがどれだけの力を持つか……もし完成したのなら私かクロワが戦争を仕掛けた際、試してくる可能性はあるな」

「……それが完成するのは、どのくらいだ?」

「私が城を出る前の段階で完成間近という報告が来た。兵器ならば完成してすぐ実戦運用とはいかないだろうが……そう余裕があるわけではないだろう」


 時間制限がありそうだな……俺やソフィアが沈黙していると、やがてクロワは言った。


「――少し、考えさせてくれ」


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